《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》小話2

小さな事務所で働く伊藤太(26)は、今日も頭を抱える。

朝早く家を出る時から電話をかけ続けようやく起きた自分の上司は、家の鍵を締め忘れたからかけてきてしい、なんて言い出すトンデモ上司だからだ。

年齢も自分と変わらない。なのに時たま母親の気分になるのはきっと気のせいなんかじゃない。

顔面はそこいらの俳優よりよっぽど整ったものを持っているというのに、中はとんでもないほどに生活力なし、だしなみに興味なし。

持ち前のマイペースさは関わる者たちを呆れ返させる。正直ここで働けている自分はなんて出來た人間なのだろう、と時折自畫自賛する。

「あれ、九條さんそれなんですか」

九條氏の履く黒いパンツの後ろのポケットから何やら白いものが見える。伊藤はそれに気づいて本人に聞いた。

九條氏は一瞬考え込むように止まるが、すぐに思い出したようにああ、と呟いた。

「なんかここに來る途中に貰ったのすっかり忘れてました」

ポケットから紙を取り出す。白い封筒のようだった。

彼は立ったままそれを開くとじっと見つめる。伊藤もなんとなくそれを眺めていた。

そしてし経ったあと、持っていた紙を伊藤が座るデスクの上にひょいと乗せた。

「伊藤さん、仕事の依頼です。連絡してもらえますか」

「あ、はい」

仕事の依頼か。直接ここに訪ねてくればいいのに。いや、心霊調査事務所なんて怪しいから周りに知られないよう連絡を取りたかったのかもしれない。

伊藤は早速デスクの上にある紙を手に取り開く。そこには、丸みのある可らしい字でこう書いてあった。

『突然のお手紙失禮します。

朝よく見かけていて気になっていました。

よろしければ連絡ください』

電話番號に、羅列されたアルファベット。

「…………」

伊藤は読んでそっとそれを閉じる。

一度冷靜になり、はあーと大きなため息をつくと頭を抱えた。

「伊藤さん、どうしました」

當の本人は椅子に座り何やら本を読んでいる。お供のポッキーを傍らに。

伊藤はこんな形で他者に手紙を読まれてしまった顔も知らないを哀れんだ。同時に、あまりにトンチンカンな上司に言葉もない。

「九條さん!」

「はい」

「これは!どう見ても仕事の依頼ではなくて!ラブレターでしょうが!」

今時ラブレターなんて呼び名を使う事もあまりない。でもほかに表現のしようがないから仕方がない。

伊藤は非難の視線を九條氏に向けた。彼は驚いたように目を丸くしてこちらを見ていた。

「そうなんですか。なんで分かるんですか伊藤さん」

「見かけて気になってたって書いてあるでしょう!」

「はあ、事務所にっていく姿を見て依頼しようと気になっていたのかと」

「個人的なおいですよ!もう!事務所からじゃなく九條さんから連絡してあげてください!」

伊藤は立ち上がって九條氏の元へ歩み寄る。そのデスクの上に紙を置いた。

九條氏は困ったように眉をひそめる。

「困りましたね、そういった手紙って処理に困りますよね。可燃ゴミに出すのもどうも…」

「しないんですか、連絡」

「ええ。しません」

これだけ顔が綺麗ならも選び放題だろうに、彼からはの匂いがまるでしない。

伊藤はずっと聞いてみたかった言葉を投げた。

「彼しくないんですか?」

九條氏は紙を摘み上げて揺らす。そして伊藤に言った。

なくとも、私の中を何も知らないは彼にしたくないです」

意外とまともな答えに、伊藤はつい彼を二度見した。

男前ならではの苦悩があるのだろうか。顔だけで見られても困る、ってことか。それは確かにそうだな、特にこの人中がヤバいから。

九條氏はふうと息をついて言う。

「勝手な幻想を抱かれて勝手に失されるのはごめんなので」

「まあ…それもそうですね」

「とゆうわけでこういう時は無視が1番です。仕方ないので可燃ゴミに出しておいてください」

九條氏はそれだけいうと、また持っていた本に視線を落とした。伊藤は言われた通り手紙を手にとる。

確かに顔はいいけど中はマイペースでウケは皆無だろうし、今まで本人も々苦労したのかもしれない。

でも彼は知っている。変な人だけどこの人はちゃんといい人だ。それが分かってるから自分もここで働けている。付き合いがそこそこ長くなってきた自分は分かっているのだ。

いつか彼の中の魅力に気づくが現れるといいな、なんて心で呟いた。

「九條さん」

「なんですか」

「僕は九條さん好きですよ」

「困りましたね。私男には興味なくて」

「ええ、僕も興味ないからよかったです」

そう言って伊藤が笑うと、九條氏もしだけ口角を上げた。

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