《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》小話3
「そうと決まれば今夜は歓迎會ですよ!」
私が本格的にこの事務所に採用されると聞くと、伊藤さんがニコニコと笑いながら言った。
慌てて首を振る。
「い、いえ、大丈夫です」
「親睦深めるためにも大事だよ! 九條さん、いいですよね?」
伊藤さんが九條さんに問いかける。てっきり、「私は眠いのでお二人でどうぞ」という言葉でも返ってくるかと思いきや、九條さんは小さく頷いた。
「はあ、まあいいですよ」
「ほら! ね、行こうよ」
「いいんですか……? ではお言葉に甘えて……」
「うんうん、大丈夫九條さんの奢りだから!」
サラリと告げた伊藤さんに九條さんは呆れて言い返そうとしていたが、そんな隙すら與えず伊藤さんは仕事に戻っていってしまう。
し悲しそうに眉を下げる九條さんを見て、私は笑ってしまった。
夜になり、事務所近くにある居酒屋に3人で足を運ぶ。九條さんは男前だし、伊藤さんは可らしい人だしでそんな二人に囲まれている私は時折好奇の目で見られた。特にに。
そんな視線に二人とも気が付いていないのか、料理やドリンクを決めて次々注文していく。伊藤さんはサワー、九條さんは日本酒だった。
私も適當にアルコールを頼むと、3人でグラスを合わせて乾杯した。全て伊藤さんがスムーズに取り仕切ってくれる。
「はい、乾杯!」
アルコールなんて久々に口にした。し飲むと獨特の香りが鼻を抜ける。ほうっと口から息がれた。なんか々あった後のアルコールって染みるなぁ。
「仕事の方はどうだった?」
笑顔で伊藤さんが聞いてくる。私は素直に告げた。
「むちゃくちゃ疲れました」
「あはは! だろうね〜」
「でも楽しかったです! 僅かだけど自分の力が何かの役に立ったかな、って……」
「そっかそっか。視える人は大変だろうなぁ」
伊藤さんはグイグイとサワーを飲みながら頷く。その隣で、九條さんは無言でしずつ日本酒を飲んでいた。
彼がお酒を飲むのは意外だった。しかも日本酒だなんて。甘いカクテルでも飲むのかと思っていたのだが。
「九條さんお酒強いんですね? 日本酒って意外です」
「そうですか? まああれば飲む程度です、家では飲みませんけど」
「未だに九條さんの生態が摑めません……」
私が言うと伊藤さんが大きな聲で笑った。運ばれてきたサラダを店員さんからけ取り、そのまま手際良く取り分けてくれる。私のとしての立場はない。
「僕も未だ摑めきれてないよ〜はいどうぞ!」
「す、すみません、先輩にこんなこと……!」
「今日は黒島さんの歓迎會だからね。はい九條さんもちゃんと食べてくださいね」
伊藤さんのおかげで會は盛り上がりスムーズにことが運ばれていく。九條さんは無言でほとんど聞いているだけだが、お酒はそこそこ進んでいるようだった。
しばらく経って私自もほろ酔い狀態になった頃、會話の流れで私の新しく住む家についての話になった。家電や家も何もないので買わねばならないことを告げる。
伊藤さんは深く尋ねてこなかったが、私はこれまでの過去を話す決意をした。伊藤さんにはちゃんと話しておきたかった気がするし、今を逃せばもうチャンスはないと思ったのだ。
九條さんとの出會いや、ここ半年の私のに起きたこと。母の死や元婚約者についてなど、すこしどもりながら何とか説明し終える。基本あまり自分の話をするのは得意ではない。
それでもなんとか話し合えふうと息を吐き、目の前の伊藤さんを見た瞬間ぶったまげた。
「……い、伊藤さん……」
「いやあ、よかったね……おか、お母さんのおかげでこうして生きてて……」
彼は目に涙を溜めて顔を赤くしていた。まさかこんな狀態になると思わず、困って九條さんに視線を向けたが、彼はいつのまに注文したのかもうデザートを食べていた。
「あ、あの伊藤さん……」
「あーごめんね、僕涙腺弱くて」
(どうしよう……こんな可い人見たことない……)
これはときめくなと言う方が無理ではないか。人の苦労話で一緒に泣いてくれるなんて、素敵な人すぎる。
多分伊藤さんも大分お酒の力が働いているのだろうけど、それでも私は嬉しかった。
「ありがとうございます、嬉しいです」
「いやあ、したよ。お母さん素敵な人だね。九條さんもたまにはいい事しますね!」
「たまにとは」
「いいお母さんだね。ああしたよ、そうかそうだったのかぁ。これから頑張って幸せにならなきゃね!」
目を細めて片頬にえくぼを浮かべるその人に、つられて笑う。
なんかもう、十分幸せな気がするな。
人の事で一緒に泣けるような職場の先輩に、ちょっと変わってるけど同じ力を持って理解してくれる上司。恵まれすぎてるぐらいだと思える。
伊藤さんはサワーをぐいっと飲み切ると、ニコニコして言った。
「なんかさ、名前に表れてるよね、お母さんの思いが」
「え?」
「、ってさ。り輝くような人になってほしい、輝く未來を摑んでほしいって思いじゃないのかなー?」
言われてハッとする。名前の由來なんて聞いたことなかった。
でも、伊藤さんの言うことはその通りだとじた。お母さんはそんな願いを込めてくれたのだと信じたい。
「そうですね、そうかもしれません!」
「いい名前だね!あ、親しみ込めて下の名前で呼ぼうかな?」
「え!」
「あ、ごめんセクハラかな?」
「と、とんでもない! 嬉しいです! 私仲良い友達とかも全然いないから、下の名前で呼ばれる機會なんて中々なくて……是非お願いします!」
困ったように頬をかいた伊藤さんに慌てて言う。彼はすぐに優しく微笑んだ。
「じゃ、そうしよーっと。ちゃんね!」
こんな時なぜか私が心したのは、に対してちゃんづけで名前を呼んでもまるで不快をじさせない伊藤さんの凄さだった。
普通知り合って間もない男にちゃん、なんて呼ばれたら引く。でも伊藤さんはまるでそんなことはない。本當に嫌悪なんてこれっぽっちも出てこないのだから、彼はやっぱり凄い。好度オバケだ。
「ですって九條さん! ちゃん、いい名前ですよね〜」
伊藤さんがずっと無言だった九條さんに話を振った。その瞬間どきりとする。
ほんのし九條さんを意識してしまっている私は、彼に下の名前で呼ばれる想像をして一人恥ずかしくなる。
……九條さんに下の名前で呼ばれたりしたら……
「ええ、いい名前ですね。
黒島さんメニュー取ってもらえますか」
彼はいつもの調子でそう呼んだ。
……ですよね。
伊藤さんのことすら名字呼びなんだから、九條さんが私を下の名前で呼ぶなんてありえないと思ってた。思ってたよ。
私はそばにあったメニューを差し出す。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
日本酒を結構な量を飲んでるのに顔ひとつ変えない男を見て、小さくため息をついた。
伊藤さんの人懐こさ、しはこの男に分けてほしい……。
「黒島さん何か食べたいものは」
「え? あ、いえ、たくさん頂いてます!」
「あなたの歓迎會ですから、好きなもの頼んでください」
そう言って、九條さんは私に開いたメニューを手渡した。
「……え」
「あなたの力はかなり助かります。
これからもよろしくお願いします」
そう言った九條さんは、ちょっとだけ口角をあげてらかな笑みを浮かべた。
「あっ、は、……はい!」
人にこの力が歓迎される日がくるなんて、思ってなかったのに。
今私は本當にこの人たちに歓迎してもらえてるんだなぁ、と思ったら、なんだかしだけ泣けてくる。
「じゃあこの一番高いお酒を!」
「あなた結構いきますね」
伊藤さんが隣で大聲で笑った。
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