《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》との出會い

ワクワクしてた心が一気に不安になる。の子って言ってたし、その子の様子がおかしいとの依頼だった。

でもまあ、お母さんがいるんだし大丈夫だよね?うんうん、聞きたい事はお母さんに聞いてもらえばいいんだし!

そう自分で納得させたが、殘念ながらこの不安は的中することになるとは、まだこの時は知らない。

「そろそろ見えます」

九條さんがそう言ったのを聞いて窓から外を見る。いつのまにか人通りはだいぶない道にきていた。古い家が軒並み並んでいる。道自もあまり設備されていないのか、ガタガタとした道路で白線は所々剝げていた。

古くから営業していそうな小さな店がいくつか見える。どこか懐かしいじのする景だ。

そんな中、し浮いた存在のように新しく見えるマンションが建っていた。高い建はそれ以外には見當たらない。だが周りは空き地や工事中の土地が多くあり、これから開発するのかもしれなかった。

「ええっと、8階の805號室ですね」

伊藤さんに渡されたメモを見返す。男の人の割に綺麗な字だな、と思った。

九條さんは車を駐車場にれた。指定のあった場所に駐車し、私達は車を降りる。九條さんが車の鍵を掛けながら言った。

「まずは話を聞いてから、撮影することになりそうです」

「あ、撮影ですか」

「夜寢ている時にうなされると言っていたので。さすがに同室で見張られてたらあちらも寢にくいでしょう。理想としては空いている部屋を一つお借りして我々はそこで監視映像を見守るのが一番ですね。ですが泊まり込みの許可が下りなければ、録畫して撤退、また明日確認する形になるかと」

「あ、そっかぁ……知らない人の泊まり込みは嫌がるかもしれませんもんね……」

霊は意外と高能なカメラに映る事が多い。それを知ったのは私も今回が初めてだった。実際、録畫していた映像に映ったヤバいを目にして仰天したことがある。

九條さんの車には沢山の機材が詰め込まれている。運ぶだけで息切れするような代たちだ。今回もあれらの出番らしい。

九條さんは黒いコートをなびかせて歩いていく。そこに並んで私も足を進めた。風は強く冷たい。冬の過酷さがピークの時期だ。

私はぶるりと全を震わせながら、目の前にそびえ立つマンションを見上げる。

至って普通のマンションだった。嫌な空気とかもじない。

足を進めたところでり口はオートロック式である事に気づく。九條さんが迷わず805にインターホンを鳴らした。

し間があった後、機械越しにの聲が響く。

『はい』

「ご連絡頂いた九條です」

『ああ!はい、どうぞ!』

待ってましたと言わんばかりの弾んだ聲の後、ロックが解除される音が響く。私達はすぐにり、エレベーターを呼び出した。

「普通のマンションですよねぇ……?」

待ち時間に、私は呟く。

「ええ、そう思います。805のみに何か居るのかもしれませんね」

「伊藤さんの調べでは変な噂とか歴史もないって言ってたし……」

「まだ細かく調べてないので斷言は出來ませんよ、新たな報が來ればこちらに連絡してくれますから」

頷いた時エレベーターが到著して乗り込む。8階のボタンを選択し、上昇する箱に揺られる。

到著した8階も、特に異変はじない普通のマンションだった。住民もそこそこいるようで、ところどころ生活じる。

805に到著し、九條さんがインターホンを鳴らした。

私はなんとなく背筋をばし、持ってきた焼き菓子のる紙袋を持ち直す。

ガタガタと小さな音が聞こえた後、扉が勢いよく開かれた。

「はい!」

そんな聲と共に現れたは、すでに私たちを縋るような目で出迎えた。

年は40前後だろうか、肩までの髪を一纏めにしているが、その先はパッと見て分かるほど傷んでいた。

し黒めのにはファンデーションなどは塗って無さそうだ。下がった眉と、眉間にある皺が疲れを語っている。それでも來客に多だしなみを配慮したのか、だけ口紅が塗ってあった。

グレーのパーカーにジーンズ。ラフな格好だが、わたしは巖田さんを一目見て好を覚えた。母も休みの日はこんなじだったなぁと思い出したのだ。

それに怪奇な現象に悩んでいる最中に娘と二人きりなんて、きっと心が疲れ切ってるに違いない。母は強し、だ。

「こんにちは。九條尚久といいます」

「黒島です」

私たちの自己紹介に、巖田さんはホッと笑顔を溢した。

「巖田友子と言います。どうぞ、中へ」

促されて私達は中へり靴をぐ。玄関は生活の溢れるだった。

小さな下駄箱が隣にある。その上に、有名キャラクターのぬいぐるみと娘の寫真らしものが何枚か飾ってあった。つい微笑んでそれを見る。

廊下には買ってきた靴の空き箱だろうか、いくつか積み重なっていた。「散らかっていてすみません」と申し訳なさそうにいう巖田さんに笑顔で否定する。

短い廊下を抜けてリビングの扉を開いた。溫かな空気がれ、料理をした後なのか香ばしい香りがする。二人暮らしにしては中々の広さがあるようにじた。

木製のダイニングテーブルに椅子、その先には赤いソファとテレビがあった。なんて事のない景を見渡した瞬間、自分の思考が止まる。

ソファ奧にあるベランダへ出るはずの扉。本來ならそこから日差しがってくるはずのガラスは、1ミリもれていない。

そこには隙間なくビッチリと段ボールが敷き詰められていた。更には固定するためにガムテープでり付けられている。それでも足りないとばかりに、窓の前には故意的に置かれたであろう簞笥があった。

ガムテープは何重にもられているようで、分厚く重なっているのが分かる。

(……なに、これ……)

私はちらりと九條さんの顔を見上げる。彼もやはり、鋭い目で窓の方を見つめていた。

巖田さんはそれに対して説明するでもなく、背後から私たちに聲をかけた。

「娘のリナです」

私達は振り返る。いつのまにいたのか、キッチン橫に一人のが立ってこちらを見ていた。

小さな犬のぬいぐるみを握ったまま立つその子は、目がくりっと大きく、ショートヘアのとても可らしいの子だった。初対面なのに見覚えがある気がするのは、有名な子役の子と似ているからだろうか、それくらい可い子だった。

こんにちは、と挨拶しかけた私ははっとして口を噤む。

は無表でこちらを見ていた。怯えるとか、人見知りとかではない。ただ、リナと呼ばれた子は子供とは思えない無の表で私たちを見ていたのだ。

(……なんだろう……子供らしくない、ような……)

った瞬間違和だらけで背筋がゾクリとした。しかし本人たちを前にそれを口に出せるわけもなく、私はなんとか笑顔を出して言った。

「初めましてリナちゃん。黒島といいます。よろしくね」

案の定、彼はなんの反応も示さなかった。じっと無言で私を見上げている。自分の戸いを顔に出さないのに必死だった。

「リナ、ママちょっとお客さんとお話があるから、テレビ見ててくれる?」

巖田さんは慣れている手つきでリナちゃんの手を引き、赤いソファに座らせた。は素直にそれに従う。

巖田さんがつけたのは、子供に人気のアニメだった。それを見てなぜかホッとする。普通の子みたいにアニメ見るんだ、なんて思って。

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