リビングにってみると、ソファで並んでテレビを見るリナちゃんと巖田さんがいた。

こちらに気づいた巖田さんが私を見る。

「あの、しリナちゃんと話してみても？」

私が聞くと、彼はし戸ったように視線を泳がせたが小さく頷く。

立ち上がりキッチンへ移した巖田さんに頭を下げて、私は恐る恐るリナちゃんへ近寄った。

彼は私をまるで気にするそぶりもなく、ただテレビを見つめている。

「こんにちはリナちゃん、黒島と言います。隣、座ってもいいかな？」

私の問いかけに何も答えない。こちらを見ることもしなかった。

し悩んだが、私は彼の隣に腰掛けた。赤いソファがわずかに揺れる。

テレビを眺めた。番組名は知っているが、出てくるキャラクター名などは分からない。その程度の知識、これは話のきっかけには不十分だ。

「えっと、文字とか書ける？」

私は持ち込んだメモ帳とペンを取りだして笑いかけてみる。しかし、リナちゃんは何も答えない。

ううん、手強い。想像してたよりずっと。

諦めてペンを仕舞うと、持っていた紙袋を差し出した。

「甘いものは好きかなぁ？お土産持ってきてみたんだけど」

チラリと目線で、母親である巖田さんを見た。彼は頷いたので、親の許可は降りた。

あまり期待せずに話しかけてみたのだが、ぴくっ、と彼が反応したのがわかった。そして恐る恐るこちらを見たのだ。

おお、手土産バンザイ！

私はリナちゃんが手を出すまで待つ。しして、小さな手が紙袋をけ取った。それだけで、心の中の私はガッツポーズだ。

リナちゃんは膝の上で紙袋を逆さにし、中から々な種類のお菓子がこぼれ落ちた。あらゆる洋菓子が散らばる。

「お口に合うといいんだけどなあ」

リナちゃんは膝の上に置かれたお菓子を一つ手に取り、じっと眺める。そしてしして、そっとそれを私の膝の上においたのだ。

「……？」

私にくれると言うことだろうか。ポカンとしていると、リナちゃんはまたさらにお菓子を見ながら考え込み、いくつか私の膝の上に置いた。背後から巖田さんの聲が響いた。

「ごめんなさい、この子好き嫌いが凄いんです。お菓子でもなんかこだわりがあるみたいで」

「ああ……なるほど。このくらいの年ではよくありますよね」

巖田さんが言うように、気にらないものだけ私の膝の上に戻しているようだった。それでも大のお菓子はお気に召したのか、彼の膝の上には沢山の焼き菓子が積み上がった。

そのうちの一つを手に持ちビニールを開け、パクリと口にする。

「どう、かな？」

私が尋ねると、リナちゃんは小さく頷いた。ほっとする。とりあえず返事をしてもらえたと言うだけで大きな進歩だと思える。

モグモグとフィナンシェを食べるリナちゃんを見守り、戻されたお菓子は紙袋へれた。

「あのね。さっき私と一緒にいた人は、九條さんって言うの。ちょっと怖く見えるかもだけど、優しい人だから大丈夫だよ」

リナちゃんはただ食べている。

「私と九條さんは、夜変なものにうなされるお母さんを助けたくて來たんだ。リナちゃんはさ、夜中苦しいって思ったりして目が覚めること、ある？」

私の質問に、リナちゃんは小さく首を振った。

「あ、ないの？誰かに見られてるなぁとか、むしろ何か不思議なものを見たなぁとかはある？」

こくん。彼は頷いた。

なんと。やはりリナちゃんも何か異変をじているらしい。

私は前のめりになって尋ねた。

「え、それは……男の人？の人？」

「……」

「怖いじ？」

「……」

「夜に見るのかな？」

「……」

まさか、もう手土産の効果はおしまい！？　リナちゃんは首を振る事も頷く事もしなくなってしまった。

ただモグモグとお菓子を食べ続けている。

ううん。解決を早くする為にはリナちゃんに話を聞きたいけど、だからといって質問攻めもよくない。怯えさせてしまっては今後の調査にも影響するかもしれないし……。

私は質問をやめて彼に笑いかける。

「また今度、聞くね」

やはり彼は頷かなかった。テレビをボンヤリと眺めている。

話せなくなった原因を本人に聞ければ簡単なのだが、そんな容易な話ではない。だったらうちに依頼なんて來ないしなぁ。

改めてリナちゃんを見ても、なんら変なものがついてるようには見えない。時々肩に凄いものぶら下げてる人とかいるけど、そんなは一切じない。

どうして話せなくなったんだろう。

「九條さんも黒島さんもお若いですよね」

気がつけばそばに來ていた巖田さんが微笑んで言った。グラスにったお茶を目の前に置いてくれる。

「あ、ありがとうございます…」

「ここの人たちは、らしくないって口コミを見て頼んだんですけど。想像以上でした」

「私はまだったばかりで現場も數をこなしていませんが……九條さんはかなりの數を解決してますから、大丈夫ですよ」

「へえ、そうなんですね」

事務所にあるファイルの數々を思い出す。たった一人であれだけを解決してきたんだし、彼の腕は本だ。

出された麥茶を手に取って一口飲む。

「人なの？」

巖田さんから発せられた言葉に麥茶が上手くを流れず、私はごふっとむせた。

ケホケホと咳き込み、私は顔を熱くして言った。

「め、滅相もないです！」

「あら、違ったのごめんなさいね」

「彼は上司ですから……」

あとドライヤーすら持ってなくて晝食をポッキーで済まそうとしたり白と黒の服しか持ってなくて気遣いも出來ない変人なんですよ！人なんて！

……と心の中でんでおく。

口の端についたお茶を指先で拭き、自分を落ち著かせていると巖田さんが言う。

「最初びっくりしましたけど、どっかの俳優でも來たのかと」

「あはは、顔はね……」

そう話していてふと、振り返ってリナちゃんを見る。彼も將來絶対人になる事間違いなしの顔面の持ち主だ。

「リナちゃんもモデルになれそうなくらい可いですよね！」

「ありがとうございます、別れた主人に似てるんですけど」

巖田さんが苦笑する。そう言えば、巖田さんにはあまり似ていないと思った。そうか、旦那さんに似ているのか。

失禮を覚悟で、私は聞いた。

「旦那さんから逃げるようにここに引っ越してこられたんですよね、離婚はまだということですか？」

「ええ、ちゃんと段階を踏むべきでしょうがそんな余裕もないくらいで……ほとぼりが冷めたら、弁護士さんとか相談に行くべきだとは分かってるんですけどね。なんせリナがこうなって……」

「そうですか……。引っ越してすぐですか？リナちゃんがこうなったの」

「ええ。ほんとすぐ」

「巖田さんがうなされるようになったのも、引っ越してすぐ？」

「ええ……」

彼は困ったように目線を落とした。

「晝間は変わった事はない？」

「ないです。リナがおかしい事ぐらい」

「そうですか……」

訶不思議な現象とはそれぞれだ。霊たちにも思いや個がそれぞれある。

ここにいる者は一何を訴えたいのだろう。

巖田さんが心配そうにこちらを見た。

「あの、黒島さんもそう言うのじるんですよね？」

「え？ええまあ……」

「どうですか、家に何かいますか？リナに何かいますか！？」

縋り付いてくるように言われ、し仰反る。子供を心配する母親はみな必死なのだ。

「ええと、今のところは何もじません。リナちゃんにも」

「そんな……」

「でも霊は最初は大人しくしてる事も多々ですから。とりあえず夜になってみませんと」

「はあ……」

がくりと項垂れる巖田さんを不憫に思い、何を聲かけようかと迷っているところにリビングの扉が開かれた。

寒さからか、白いをより一層白くさせた九條さんが立っていた。

「準備が整いました」

車から機材を出し終えたらしい。私はお菓子がいくつか殘った紙袋を持って立ち上がる。