《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》仮眠

九條さんは巖田さんに言う。

「寢室を録畫しています、夜は隣の部屋で見守る形になります。何かあった場合部屋にるかもしれません」

「はい、大丈夫です」

「洗面室なども見させてもらいましたが、特に今のところ変なものはじません」

「はい……」

「夜になるのを待ちましょう。黒島さんも一旦こちらへ」

「はい」

私は隣で腰掛けるリナちゃんに、ありがとうと聲を掛けた。だが彼はアニメを見ているだけだ。

フィナンシェの効果は短かったなぁ……。

私はそそくさとその場から離れ、九條さんに続いて待機室へった。そこには監視用のモニターも設置されており、狹い部屋がなお狹くなっていた。なんとなくその狹さに張する。

九條さんはいつものように何も意識していないようでモニターの前に座り込んだ。

私が紙袋を置くと、彼は首を傾げる。

「食べてもらえませんでしたか」

「あ、いえ、食べてもらえました!これはどうやら嫌いなものだったみたいで。気にったお菓子もあったみたいでしだけ答えてくれたんですけど、すぐ何も反応なくなっちゃって……」

私は先程のリナちゃんの様子を伝える。彼が何かしらを見たようだが、それがどんなものかは答えてもらえなかった事も。

九條さんは腕を組んで考える。

「正直なところ、夜の怪奇についてはさほど難しくないと思うのですが、何と言っても娘の事が不可解ですね……怪奇と関係なく神的なの可能が高いと思ってますが」

「やっぱり父親の影響ですかね?でも、話せなくなったのは引っ越してからなんですって。そう考えると父親が暴力振るったとかは考えにくいですよね」

「ふむ……」

九條さんは再び黙り込む。そしてしばらくして、ふいっと私に手を差し出した。

その大きな手のひらを見つめる。

「……?」

「ポッキーください」

「あ、はいはい」

それですね、それですか。彼はいつでもあれをかじっていないと本領発揮出來ないのかと疑っている。

私は大きな袋を漁りながら尋ねる。

「えーと普通のと苺、抹茶どれにします?」

「數種類あるところがまた素晴らしいですね」

「ええ私の仕事はポッキー管理なんで」

「苺ください」

否定しないのかい。そうむっとしながら荷を漁る。

九條さんは思い出したように言う。

「あ、パンツを落とさないように」

「ちょっと黙ってもらえますか」

以前彼の前でパンツを落とす(落とすと言うのも語弊があるけれど)という失態をやらかしてから、時々こうやって話題に出してきやがる。からかってるつもりなのか?デリカシーのカケラもない。でもこの男の場合実は本當に心配して言ってたりして。

私は膨れながら彼にポッキーを差し出した。九條さんは素知らぬ顔でけ取り、早速かじる。

「九條さんもパンツぐらい持ってきたらどうですか」

「私下著つけないので」

「え!??」

「冗談です」

がくっと力する。ちょっと信じちゃうような冗談やめてほしい!九條さんならあり得ると思っちゃったじゃないか!

九條さんは真顔でポッキーを食べつつ言う。

「必要ならばコンビニでも買えますから。荷を持つことが好きじゃないんです」

「は、はあ……」

「さて機も設置終えましたし、一息ついたら」

「あ、はい!」

「寢ます」

キリッとしたところにそんな言葉を言われて、またしても私は力した。當の本人はどうしました、とばかりに私を見る。

「ね、寢るんですか……?」

「晝間は特に何も起こらないと証言がありますし、今夜は夜通し監視する羽目になりますよ。今のうちに寢ておかねばが持ちません」

「……それもそうですね」

素直に納得した。寢るだなんて言われてびっくりしたけど、確かに夜はほとんど眠れない可能が高いのだ。今のうちに寢ておいた方が賢明と言える。

そう考えてドキッとする。辺りを見渡せば、モニターや多くのおもちゃに場所を取られ、この部屋はお世辭にも開放があるとは言えない。いや、むしろ狹い、が多くて非常に狹くじる。

……こんなところで九條さんと寢るの?

九條さんはポッキーをいくらかお腹にれた後、満足げにふうと息を吐いて言う。

「黒島さんそこのベッド使ってください」

「えっ、そんな!」

「私基本どこでも寢れるので」

「わ、悪いですよ……!」

九條さんは上司だというのに、私だけがベッドをお借りするなんて申し訳ない。

慌てて遠慮する私に九條さんは言った。

「さすがの私も自分一人ベッドで寢るほど無神経ではありませんよ。

あなたはでしょう」

なんてことのない臺詞なのに、私の心臓はギュンと握られた。

つい赤くなってしまいそうな顔を必死に鎮め、平然を裝ってなんとか言った。

「ど、どうもそれはありがとうございます、では、せめて布下に敷いてください、痛めちゃいます」

ベッドに乗ってあった布を摑んで彼に差し出す。九條さんはそれを無言でけ取ると、適當に床に広げごろんと橫になってしまった。

彼の長い足がおもちゃ達に場所を取られ、窮屈そうに曲げられている。

私はそれを眺めた後、のそのそとき側にあるベッドに登った。

そりゃ事務所で一緒に寢た事はあったけど、こんなに狹い場所で寢るなんて。張しちゃうよ。寢顔見られないといいけど。

私と違って全く何も意識してなさそうな綺麗な寢顔をしだけ憎らしく思いながら、私もベッドの上で寢そべった。

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