《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》子供に好かれるのは無理

朝が來る。

あれ以降、二人は目を覚ます事なくぐっすり眠っていた。こちらは怖い景を見てしまったし、夜は寢ていないしですでに疲労困憊だ。

段ボールで埋められた窓からはじられないが、もう朝日は登っている時間だった。

ふうと息をつき、眠い目をる。

「九條さん、私ちょっと著替えて顔とか洗ってきます」

「はい」

彼はちっとも眠くなさそうだった。何かを考え込み一晩が経ってしまった。仕事に対する集中力はすごいと心できる。

私は荷の中から必要なグッズを取り出して、九條さんにも呼びかけた。

「九條さん」

「はい」

「どうぞ」

タオルと歯ブラシを彼に手渡した。九條さんはちらりとこちらを見、キョトンとする。

「これは?」

「見て分かりませんか歯ブラシとタオルですよ」

「それはわかっていますが」

「九條さんの分です。あとで使ってください」

以前も彼と一緒に調査してみて、九條さんが調査中は本當に嗜みに無頓著だと知っている。本人曰く普段はちゃんと生活してるらしいが、調査中だけどうも後回しになるらしい。

というわけで今回は九條さんのもいくらか荷れておいた。さすがに著替えまでは用意してないけれど。というか、タオルや歯ブラシぐらい自分で持ってきなさいよと聲を大きくして言いたい。

彼は無言でそれをけ取る。

「気が利きますね。あとでコンビニでも行こうかと思ってました」

「本當に思ってました?」

「この歯ブラシ黒島さんと一緒に使うんですか?」

「なな、んなわけないでしょう!」

「冗談です、ありがとうございます」

九條さんが真顔で言ったのに呆れながら、私は著替えなどの準備を整える。ふと思い出し、九條さんに言った。

「今日リナちゃんともう一度話してみますけど……九條さんも試しに話してみてくださいよ」

私が提案すると、彼はし困ったように眉を下げた。

「私がですか」

「子供そこそこ好きなんでしょう」

「でも怖がられますよ」

「イケメンパワーでなんとかなるかも」

「イケメンですか?」

「はい」

「私がですか?」

「前も教えましたよね?」

九條さんは興味なさそうに頷いた。この人本當に自分の事は無関心なんだから。私は荷を抱えて立ち上がる。

「試してみるだけ。いいでしょう? よろしくお願いしますね」

私はそのまま言い捨てて部屋を出、洗面室へ向かった。廊下の床は冬の寒さをじる。

急いでお借りすることにしよう。

洗面所にり素早く著替えを済ませた。歯を磨き顔を洗うと、スキンケアを施し簡単に化粧をする。

こういう時は大変だと思う。々準備するがありすぎる。

そりゃ九條さんほど顔が整ってれば化粧も何もいらないけどさ。羨ましい顔面め、ポッキーばかり食してるくせに、ニキビぐらい出來ちゃえ。

一人で毒づきながら準備を終え、洗面室の扉を開けた時だった。

「きゃ!」

つい悲鳴を上げてしまう。そこには、パジャマのまま廊下に突っ立っているリナちゃんがこちらを見ていたのだ。

無のの瞳が私を映し出している。寒いからかどこかの悪いは恐怖心を掻き立てる。その表に心臓が冷えた。真っ白なパジャマがまたこの雰囲気に合いすぎている。

昨晩の様子を思い出して心臓がバクバクと鳴った。微だにせず苦しむ母親を観察している様子が。でも、悟られてはいけない、相手は子供なんだから。リナちゃんには何も罪はなく、霊のせいなのかもしれないし。

なんとか鎮めて、私は微笑みかけた。

「おはようリナちゃん。お母さんまだ寢てるの?」

私の問いかけに、やはり彼は答えなかった。じっと私を見上げている。

どうしよう、やっぱりちょっと不気味だよなぁ……。

話題に困ったところに目にったのは、彼が握りしめる犬のぬいぐるみだった。確か昨日も、寢る時も持っていたはずだ。相當お気にりらしい。

私はしゃがみ込んで話しかけた。

「そのワンちゃんずっと持ってるね?大好きなんだね」

なんとなく手をばした瞬間、リナちゃんが勢いよく後ずさった。犬のぬいぐるみは変形しそうなほど強く握られている。リナちゃんの瞳は鋭くり、こちらを怯えたように見ていた。

唖然として彼を見つめる。いつも無表で立っているだけのリナちゃんが焦る所を初めて見た。

し気まずい間が流れる。

「……あ。ごめんね、寶だったかな?大丈夫、嫌なら無理にらないよ」

慌てて私はフォローする。彼し俯き、犬のぬいぐるみを再び強く握った。

よっぽど大事、なのかなぁ。でもそれだけにしてはあの反応は過剰というか……。

私が困ってリナちゃんを見つめていると、そばの扉がガチャっと開いた。顔を出したのは九條さんだった。

「どうしました」

彼は私たちに問いかけた。私とリナちゃんを互に見る。

なんとなくぬいぐるみの話はもう終わりにした方がいい気がして、私は笑って誤魔化した。

「いえ、リナちゃんに朝の挨拶です!」

「そうですか。それでは私も」

九條さんは先程私が言った言葉をちゃんと考えてくれたらしい、リナちゃんの正面に移し、ゆっくりしゃがみ込んだ。リナちゃんはじっとかず九條さんを見つめていた。

「おはようございます。九條尚久です。27歳のいて座です。今回はあなたのお母様に頼まれて仕事にきました。どうぞよろしくお願いします」

そう、彼は無表で言った。

……なぜ星座?というか、子供相手にも敬語なんだ……?

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