《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》反応なし
ポカンとしてその景を眺めた。九條さんは至って真面目のようで、しっかりとリナちゃんを見つめている。能面のような顔で。
リナちゃんはしばらく無言を流したあと、ほんのしずつ後退した。どう見ても怯えていた。それもそうだ、ニコリとも笑わずに敬語で話しかけてくる大人なんて子供から見たら敬遠する。しかも、九條さんは異様に顔が整っているので威圧が凄い。人形のように思えてしまう。
ああ、こりゃ駄目だ。彼が子供に好かれないと言っていたわけがわかる。予想通りっちゃ予想通りなんだけど。私は頭を抱える。
九條さんはリナちゃんに引かれたことが悲しかったのか、しだけ眉を下げた。そんな不用な彼をし可いと思ってしまった自分は覚がおかしくなっているのだろうか。ついぷっと吹き出す。
「あはは、く、九條さん……!」
「はい」
「リナちゃんびっくりしてますよ……!」
「そのようですね」
彼はゆっくり立ち上がる。リナちゃんは未だ無言で九條さんを見ていた。私はそんな彼に話しかける。
「大丈夫、怖い人じゃないよ」
と、フォローをれてみるも、私自リナちゃんに懐かれているわけではないのであまり意味はない。案の定リナちゃんは頷く事もしなかった。
やや微妙な空気が流れていたところへ、寢室の扉が開いた。起きてきた巖田さんだった。私はほっと息をつく。
「あ、おはようございます巖田さん」
「あ、おはようございます……ごめんねリナ、すぐ朝ごはんにするね」
眠そうに目をっている。そりゃ夜間あんなに苦しそうにうなされては疲労するだけだろう。あんなのが毎晩だなんて、想像するだけでぞっとする。
巖田さんはそれでも気丈に笑い、私たちに話しかけた。
「よかったら九條さんたちも一緒にいかがですか、簡単なものですが」
「え……」
私は九條さんを見る。意外にも九條さんは素直に頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
「はい、しお待ちくださいね」
「あ! 私手伝います!」
「あらありがとう」
巖田さんはリナちゃんの背中を軽く押しながらリビングへって行った。リナちゃんはその間もずっとぬいぐるみを握りしめていた。
微妙な空気の中で4人食事を終えると、リナちゃんはまたソファ に腰掛けてテレビを見ていた。
私たちはし離れたダイニングテーブルに腰掛け、巖田さんがれてくれたコーヒーを飲みながら昨晩の報告を行った。
九條さんは単刀直に巖田さんに告げる。
「の霊が映りました」
「え!!」
巖田さんが前のめりになる。目を見開いてこちらを見つめた。
「一瞬ですが。姿を認識出來ています」
「じゃ、じゃあそれが原因でリナはああなってるんですね……!? ああ、よかった!」
わあっと巖田さんが喜ぶ。聲が大きくなったため、リナちゃんがこちらを振り返った。巖田さんは慌てて聲をひそめ、リナちゃんにかすかに笑いかけた後続ける。
「じゃあ、そのの霊を除霊すると言う事ですか?」
「いえ、我々は対象の霊がこの世に殘り続ける理由を調べ、その思いに答える事で解決させるのです。ですが、昨日の段階でまずそのが何を求めているのか分かってません。もうし調査を続けます」
「はあ……思いに答える、ですか」
「本日も撮影をさせて頂きたい。あと、途中で我々が寢室にる事になるかと」
「それは構いません。リナが話せるようになるなら……どうぞよろしくお願いします」
テーブルに頭がつきそうなほどお辭儀をした巖田さんに、私も慌てて頭を下げる。
九條さんは一つ頷くと、巖田さんに言う。
「娘さんが鍵になりそうなんです。何でもいいので意思疎通をとりたいのですが」
巖田さんは顔を上げると、困ったようにため息をらした。私たちから視線をそらしボソボソと言う。
「あまりあの子を刺激しないでほしいんですが……元々人見知りなので、お二人に怯えていると思いますし……」
「無理なことはさせません」
「無駄だと思いますよ、時々首を振るかどうかで」
「それだけで十分です」
九條さんの有無言わさない言い方に巖田さんは折れた。渋々といった形で頷く。
「決して無理矢理なことはしないでください」
「はい、勿論」
九條さんは短く返事をすると、私を見た。やっぱりリナちゃんとのコミュニケーションは私の仕事らしい。私は立ち上がる。
ポケットから用意しておいた紙達を取り出す。平仮名やカタカナ、顔文字や記號など、々なを書いた自作の文字盤だ。リナちゃんが指をさしてくれればしは意思疎通が取れる。
私はゆっくりリナちゃんの隣に移し腰掛けた。やっぱり、何も憑いているようには見えない。
「リナちゃん、あの、今しいい?」
私が話しかけると、彼はゆっくりこちらを見上げた。漆黒の瞳に私が映り込む。それだけで、生唾を飲み込んでしまいそうなくらい恐怖をじた。
……人形みたい。
「あのね、しお話したいの。見て、ちょっと作ってみたんだ!無理のない範囲でいいから、お返事を聞かせてくれるといいなあ。こうして指さしてさ!」
なるべく明るくつとめて言う。でもリナちゃんは頷かなかった。私は彼の目の前に、用意しておいた紙を広げる。しかしリナちゃんはちらりとも見てくれなかった。
負けるもんかと、私は話を続ける。
「昨日の夜、お母さんがうなされてたの気づいてた?」
「…………」
「何か見たかな?」
「…………」
「それか、聞こえたとか」
「…………」
彼は指をさすどころかびくともかない。
話題を変えてみよう。私はとにかく二人の距離をめるところからチャレンジしてみる。
「えーと、リナちゃん好きな食べ何かなぁ?」
無言。
「あ、好きなキャラクターとか……」
無音。
「ええと、犬は好き?」
微だにせず。
いくらか思い當たる質問を投げかけてみたがまるで反応はなかった。昨日しでも頷いてくれたのって奇跡だったのかな、リナちゃんはただボンヤリと私を見上げているだけだ。
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