《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》その特徴、まさに
私のやる気と気合はどんどん萎んでいく。自分の聲だけが響くリビングの気まずさったらない。かれこれ30分間、私は様々な角度からリナちゃんを攻めたが、どれも無駄に終わってしまう。
とうとう諦めの目で九條さんを見た。彼も仕方ない、というように頷く。その隣でなんだか巖田さんはほっとしたように微笑んだ。
「また、後にしようかな! うん、ありがとうねリナちゃん」
笑って話しかけるがこれもスルー。巖田さんはよく正気でいられるなと思った。返事のない子と部屋に篭りきりだなんて、気がおかしくなりそうだと思う。
やや疲れた足取りで立ち上がり九條さんたちの元へ行くと、彼も立ち上がる。
「とりあえずまた家中を見させて貰います、今後についてももうし細かく練らねば」
「え、ええ。お好きに見てやってください。あ、お風呂とかもってもらって構いませんよ、狹いですが外に出るの面倒でしょう?」
「そうですか、ありがとうございます」
九條さんは軽く頭を下げると、そのままリビングから出て行く。私もフラフラした足取りでその背中を追った。最後にチラリとリナちゃんを見たが、彼はやっぱりじっとこちらを無言で見つめているだけだった。
九條さんに続いて巖田さん達の寢室へ足を運ぶ。ドアを開けると、無造作にめくれた布団が目にった。相変わらずダンボールで塞がれた窓。部屋の片隅には録畫用のカメラが設置してある。
「……やはり何もじない」
九條さんは不思議そうに呟いた。部屋中を歩き回り、クローゼットまで開けて見ていたがそこには誰もいない。
それは私も同じ想だった。のらない部屋という不気味はあるものの、他は別段変わりない寢室だ。嫌なじもない。
九條さんはふうと息を吐いて腕を組み私に言った。
「文字盤作戦はダメみたいですね」
「はい……いま意気消沈してます……」
ぐったりと答えた。あんなに手応えがないなんて。リナちゃんが重要なキーになりそうなのに。
「そんな落ち込まなくても」
「私今まであんまり小さな子と関わった事ないですし……私自子供ウケしそうな人間じゃない自覚もありますし……」
「後退りされた私よりはいいですよ」
「ぶはっ。すみません笑っちゃいました」
つい吹き出してしまった自分を戒める。笑ってる場合じゃないよね、二人して肝心な人間と距離をめれてないんだから。
そりゃ母親にすらあんなじなんだから、懐いてもらえるなんて思ってないけど……せめてイエスかノートくらい、なぁ。
九條さんはベッド周辺を細かく調べながら言う。
「こうなったらまた甘いでも買ってきてみましょうか」
「ですねぇ……フィナンシェの効果短いけど多はあるし……なくとも私よりはリナちゃんに好かれてますよ」
「拗ねすぎです」
「うーん子供ウケするのってどんなじかな……今まで友だちすらろくに作ってこなかったから……」
「やっぱりあれじゃないですか。どちらかと言えば子供っぽい人の方が」
「ああ、ですねぇ。あとニコニコして明るいじで」
「優しそうと思わせるオーラ」
「トーク力もあって……」
「…………」
「…………」
私と九條さんの目が合う。今、初めて九條さんと心が通じ合った気がする。
今まであげてきた特徴ってまさに……
「まあ、もうし様子を見て最終手段にしましょう」
「はい」
素直に頷いた。人に頼ってばかりはいけない、私も落ち込んでないでもうし頑張ってみよう。
九條さんは設置してあるカメラを何やら作している。私はとりあえず、部屋の中をぐるりと見渡し観察する。昨晩畫面越しに見えたを思い出す。
白い著にれのない髪は結っていた。カメラ越しだからか、イマイチ表はよく見えなかったけれど、悪いというようにはどうしても見えない。
あの景を思い浮かべるだけで、どこかが引き締まる思いがする。なぜだろう。
はあと息を吐いた。あのの人は私たちに何を伝えたいんだろう。
「さて、何も見つからず、ですね」
九條さんは立ち上がって言う。
「浴室なども見ましょうか。あ、黒島さんシャワーを浴びながら何かいないか見てきてください」
「シャワー浴びるついでに霊を探すって聞いたことないですね」
「巖田さんが使っていいと許可してくれたんですから、あなたもりたいでしょう」
「ではお先に。九條さんもそのあと借りてください」
「私はまだ別にらなくても」
「ってください」
「…………」
めんどくさそうに九條さんは頷いた。男の人ってこんなもんなのだろうか、いや彼が無頓著すぎるだけだだろう。それでも彼からは不潔をじないのが幸いだ、やっぱり顔か? 顔なのか。
とりあえず一度荷を持ってこようと振り返った瞬間、目の前にが立っているのが目にりつい驚きでんでしまう。
「うわっ! リナちゃん!!」
心臓が飛び跳ねた。部屋の出口に、リナちゃんが立っていた。
未だ真っ白なパジャマを著ていた。し丈が大きいのか裾を引きずっている。見える手先にはやはり犬のぬいぐるみだ。
いつのまに來たのか、全く気づかなかった。音も気配も何もない。
し自分を落ち著けて、彼の前にしゃがみ込んだ。
「えっと、お部屋を見させてもらってたよ。リナちゃんは気になるところある?」
を固く結び、彼は私を見ていた。じっとそらす事なくぶつけてくる視線は大人の私の方が気まずくたじろいでしまいそうになる。
そんな様子に気がついたのか、離れたところから九條さんが話しかけてきた。
「リナさん。白い著を著たの人に心當たりは」
核心をついた質問だった。驚いて九條さんを振り返ってみれば、彼はとても真剣な眼差しでリナちゃんを見ていた。
私はリナちゃんに微笑みかけ、どうかな? と聲をかけてみる。
私を見つめていた彼の視線がゆっくり泳いだ。部屋を見渡すようにき、どこかを見てそれが止まる。
リナちゃんはそのまましばらくかなかった。このくらいの年の子なら、じっとしてる事の方が出來ないはずなのに、彼はいてる方が珍しい。
時折大きな瞳を潤すために瞬きをするくらいで、あとはピクリともかない。
私も九條さんも何も言わずに待っていた。沈黙による靜寂は耳が痛くなりそうだ。
すると、ずっと固く結ばれていた彼の小さながほんのしだけいた。はっとしてそれに注目する。
形の良い淡いピンクをしたから、し空気がれてくる。
小さな音も聞きらしてたまるかと、私はぐっと耳を澄ませて集中した。
「………ぉ」
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