《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》出せ

そして、

「……何が目的ですか」

九條さんの聲が響いた。

リナちゃんがピタリと聲を止める。そしてゆっくりこちらを見た。

の背後にはが立っていた。やはり、真っ白な著を著て赤い紅をさしている。背筋をしゃんとばし上品に見えた。

「何が目的でここにいますか」

九條さんが再度尋ねる。リナちゃんは何も反応なくかない。ただその背後で、がわずかに頭を揺らした。

「強い恨みや悲しみを持っているように見えない。なにゆえこののそばにいるのですか、目的は?」

私には何も聞こえない。ただ立ってを見つめる事しか出來ない。

はすっと目を細めた。その微々たる変化が、恐ろしくもありしいとも思えた。ドキドキしながらそれを見つめる。

九條さんはししたあと、首を傾げた。

「何です? 何を、ですか?」

聞き返す九條さんに、は鋭い視線を送りながらすっと手をかした。その手は、目の前にいるリナちゃんの肩に置かれる。無論リナちゃんは気づいていないようで、ただ黙って立っていた。

私は九條さんの橫顔を見上げる。九條さんは困ったように小さく首を振った。

「なぜ、そんな」

そう聞いた瞬間、突如は消えた。殘されたのは暗闇の中立つリナちゃんのみだ。

「う……ん、リナ……?」

気がつけば、巖田さんも目を覚ましたらしく上半を起こしていた。私たちの姿を見、思い出したように反応する。

「ああ、九條さん……! なにか、なにか分かりましたでしょうか?」

寢起きのれた髪を振りしながら、巖田さんが尋ねる。

九條さんはそれに対してすぐには答えなかった。じっと考え込むようにリナちゃんを見つめている。私は口を挾むことも出來るはずがなく、ただオロオロとそれを見上げていた。

「……明日また報告します。リナさんも起きていますから。とりあえず睡眠の続きを」

九條さんはそう一息に言うと、くるりと踵を返し部屋から出て行ってしまった。私は巖田さんに頭を下げ、リナちゃんに軽く手を振ると、急いでその背中を追う。

控え室に戻った九條さんは置いてあったペットボトルの水を一気に飲んでいた。私はしっかり部屋のドアを閉め、すぐに聞く。

「なんて言ってました!? あの人!」

水を飲み、蓋をした九條さんはそれを適當に置くと、ふうと息を吐いて天井を見上げる。

「……真意までは分かりませんでしたが……」

「は、はい」

「聲は聞こえました。比較的ハッキリとした迷いのない聲で」

「なんて?」

「 "出せ"」

私は首を傾げる。

果たして、何を……?

九條さんは困ったように続けた。

「 "この子を 出せ" 」

「……リナちゃん?」

この子と呼ばれるのはリナちゃんしかいない。いつだってはリナちゃんの背後にいるのだし。

「この子ってリナちゃんですよね?」

「でしょうね」

「出せ、って、外に出せってことですか?」

「そう考えるのか普通です」

リナちゃんを外に出せ?

私は頭の中が疑問でいっぱいになる。

「でも外を怖がってるのはリナちゃんですよね? すら嫌がるから部屋もこんなんだし、時々出てもんで暴れて手につけられないって巖田さんが言ってたから……」

そのため巖田さんは外にも全く出ない生活を送っていると言っていた。病院も暴れて中々連れていけないと。

「ええ、何のためにあの子を外に出せと言っているのか……」

九條さんも分からない、というように天井を仰ぐ。

はリナちゃんを外に出せと言っている。

リナちゃんは外を頑なに拒んでいる。

ううんと考えながら、どこかのホラー小説のようなストーリーぐらいしか頭に浮かばない。

「例えば、ですけど。外に出るとあのの人の力が増すとか! リナちゃんも本能的にそれを察しているから外を怖がっているんじゃ……」

言いながら、自信を無くして語尾が小さくなっていくのを自覚する。外に出ると力が増すなんて、ここはただのマンションで寺や神社でもあるまいし。

それでも九條さんは私の話を比較的真剣に聞いてくれたようだ、頷いて同意した。

「スムーズに考えればそれが一番納得はいきます。まあ多くの疑問は殘りますがね。なぜ外に出ると力が強まるのか、そもそも力をだしてリナさんをどうするつもりなのかサッパリです」

「で、すね……」

「どちらにせよあの子に危害が及ぶ可能があるならば迂闊に外には出せません。どうしたものか……」

考え込み悩む九條さんを眺めながら、私もあまり自信のない脳みそをフル回転させてみるがまるで分からない。

そうしばらくした時、ふと九條さんが思い出したように言った。

「そういえば、彼、いつも同じおもちゃを持っていますね。さっきもカメラの前で持ちながら立ってました」

「え? ああ、犬のぬいぐるみですよ。そういえば昨日の朝、私がぬいぐるみについて聞こうとしたら凄い反応してました。珍しく焦っていて……」

「なんですって?」

九條さんの目が丸くなり、こちらを見た。

「あれだけ何に対しても無反応なあの子がそんな反応を?」

「え、ええ……そういえば不自然ですよね。すみません、早く言えばよかったですね」

「いえ、それはいいですが」

九條さんはゆっくり部屋を見渡す。數々のおもちゃにモニター、コードの山が部屋にはある。

「あの子はあれ以外のおもちゃで遊ぶところを見た事はないですし、子供らしさのかけらもないのにあのぬいぐるみだけ執著しているのは違和じます」

「それもそうですね……」

「もしやあれに何か……?」

話しながら反省した。確かに九條さんの言う通りだ、あのリナちゃんが唯一反応したなのに、ちゃんと気付いて報告するべきだった。

九條さんはそんな私を責める事は無く、決意したように言う。

「調べましょう」

「それがいいですけど……多分簡単にはらせてもらえなさそうですよ」

「寢ている隙に」

「ああ、そうか……」

「ですが今夜はまだやめておきましょう、々準備をしておかねば」

「準備?」

「黒島さん裁は出來ますか?」

なるほど、九條さんが言う『調べる』はかなり細かく見るようだ。調べたあと元通りにしておかねばリナちゃんが可哀想だ、針と糸を用意せねばならない。

私は頷く。

「まあ、人並みに」

「決定です。それとやはり、違う方面からも巖田リナと接をはかりましょう」

「え、ということは」

私が聞くと、九條さんは仕方ない、とばかりに息を吐いた。

「甘いお菓子と、子供ウケしそうな彼を召喚です」

「おはようございまーす!」

朝、疲れた顔をした私のいる部屋にってきた伊藤さんは、両手に沢山紙袋を持っていた。

リナちゃんたちと靜かな朝食を取った後、控え室でぐったりしていた私の元に、迎えに行った九條さんと伊藤さんが顔を覗かせた。ちなみに九條さんは全然疲れているそぶりは見えない。

伊藤さんは相変わらずの癒しオーラをまとい笑顔で私を見た。それだけで心が安らぐ。あれだ、伊藤さんっての癒し畫と同じものをじる。

「伊藤さん……! おはようございます……!」

「おはよー! あらら疲れてるねぇちゃん。九條さんとちゃんにも差しれ買ってきたよ、エナジードリンクでも飲んでおきな! 九條さんには著替えとかも持ってきましたよ、もう、ちゃんみたいに自分で用意してくださいよー」

狹い部屋に一人男が増えて更に狹くなるが、そんなこと何も気にならなかった。持っていた袋から、食べや飲みなどを取り出して並べる。勿論ポッキーはあって、九條さんは一番にそれを手に取って封を開けた。

「今回はエサ要員じゃないらしいから僕ウキウキで來ちゃったよ」

伊藤さんは笑顔で言う。彼はかなり『引き寄せやすい質』らしく、霊をきよすために現場に來ることが時々ある。とてもよく効く守りで普段は寄せ付けないようにしてるらしいのに、あえてそれを置いてくるらしい。を張っている。

九條さんはポッキーをかじりながら言う。

「むしろ今回は相手がやや得の知れないじがありますから、決して守りは離さないでください。危害が及ぶ可能もありますから」

「はーい」

「伊藤さんには私と黒島さんがお手上げのコミュニケーションを」

「僕子供好きですよ〜」

想像通りの言葉だった。勝手なイメージだけれど、好きであってほしいと思った。

伊藤さんは困ったように頬をかく。

「……とは言っても、今回は大分訳ありみたいですからねぇ。僕もお役に立てるかどうか。あ、お菓子は々買ってきました! 経費で」

「はい、ありがとうございます」

「おもちゃとかも考えたけど、九條さん曰く興味なさそうっていうから。話せないっていうし、あんまり期待出來ないと思いますけど……」

自信なさげな伊藤さんに、私は微笑みかける。

「大丈夫ですよ、伊藤さんがダメならきっと人類みんなダメです」

「めちゃくちゃ大袈裟だね」

つい笑ってしまう。だって本當にそう思う、伊藤さんほどらかい人って見たことないもの。

……とは言っても、さすがにあのリナちゃん相手では伊藤さんのパワーも無駄になるかなぁ。そう私は思っていた。

この後、伊藤さんパワーに驚愕することとなる。

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