《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》そのコミュ力し分けてしい
「うちのスタッフです、伊藤です」
「おはようございます! 伊藤です、巖田さん電話でお話ししましたよね」
リビングにり、まず伊藤さんは巖田さんに挨拶をした。巖田さんは疲れた顔でダイニングテーブルに座っていた。立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「ああ。電話で対応して頂いた……巖田友子です」
「僕は全然視えないタイプなので雑用ですが、よろしくお願いします」
「はい、お願いします」
伊藤さんは簡単に挨拶だけを済ませると、早速奧の赤いソファに座るリナちゃんを見た。リナちゃんはいつものように犬のぬいぐるみを持ったまま、テレビのアニメを眺めていた。
伊藤さんは買ってきたお菓子を確認し、ゆっくりリナちゃんに近づいた。そして特に許可を取る事なく、彼の隣にぽすんと腰掛けたのである。
巖田さんと九條さんと私は、それを無言で見ていた。巖田さんは特にハラハラしながら見ているようだった。
伊藤さんはしばらく何も言わずにリナちゃんの隣でアニメを眺めていた。そしてCMにったところで、隣のリナちゃんに笑いかけた。
「これ知ってるよ、確か真ん中の赤いの子がロンドちゃん、だっけ? リボンが可いよね」
リナちゃんはゆっくりゆっくり、伊藤さんに振り返る。いつもの無表で彼を見上げた。
「あ、初めまして。僕は伊藤太、九條さんたちのお友達だよ。よろしくねリナちゃん!」
屈託のない笑顔で告げた。リナちゃんは何も返さずただ伊藤さんを見上げている。
笑顔の伊藤さんに無表のリナちゃん。大変チグハグなコンビがそこにいる。
「このお家で起こっている不思議なことを調べにきたよ。解決したくて。リナちゃんがもし困ってることがあるなら、助けられたらいいなぁ」
「…………」
「あ、僕青のマロンちゃん好きだなー。リナちゃんはやっぱり、ロンドちゃんが好き?」
アニメについて、調べてきたのだろうか。気がきく彼ならありえると思った。
そしてそのアニメトークに気が緩んだのだろうか。まさかのリナちゃんは、ほんのわずかにだが小さく頷いたのだ。
……え、今、頷いた!? フィナンシェないのに!?
私は目をって二人を見つめ直した。噓だ、まさかそんな!
伊藤さんはニコニコしながら続けた。
「そっかー可いよね! あ、そうそう、お土産持ってきたんだ。甘いものは好き?」
リナちゃんは再び小さく頷いた。
「よかった! チョコレートとかケーキとか、僕も好きだからたくさん買っちゃった。一緒に食べていい?」
頷く。
「あ、食べ過ぎはダメだよね、あとで歯磨きしようね〜」
しっかり頷いた。
……信じられない。
私は驚愕の目で彼を見た。
伊藤さんは凄い人だ、優しいし可らしいし、気がきくし溫かいオーラだし。大の人は彼に會うとほほが緩むはずだと分かってはいる。
でもでも、まさかあのリナちゃんもこんな短時間で打ち解ける!? まだ會って數分じゃない、せめて時間かかって打ち解けるなら分かるけど!
リナちゃんが反応するようになった事はいい事なのに、なんだか悲しい気持ちにもなった。丸2日んな角度からあの子にアタックしたのに全然駄目だった私の立場。一度もらった反応は多分お菓子の力だし。
隣の九條さんを見上げると、彼もし複雑そうな顔をしていた。後退りと全然反応違うものね。
でもまあ、いいことだ。もしかしたら、著のの事も何がわかるかもしれない。気持ちを切り替えなくては。
そう巖田さんに話しかけようと振り返ったとき、彼の表がとんでもなく固いのに気がついた。ついびくっと、私のが強張るほどに。
巖田さんは口を結び無表でリナちゃんを見ていた。てっきり、反応がいい事に喜んでいるのかと思っていた私は聲を掛けれず戸う。
そんな様子に気づいたのか、巖田さんは私を見て苦笑いをした。深く出來た眉間の皺が、なんだが切なく見えた。
「私にもあまり反応してくれないのに……ちょっと複雑な気持ちになっちゃいました」
「あ……」
それもそうだ、と思う。私ですらちょっと落ち込んだのに、毎日付きっきりの巖田さんがそう思うのも無理はない。たった2日頑張った私とはわけが違う、2人きりでずっと頑張ってきたのに。
「その、伊藤さんは特別ですよ。ほんと、彼は凄いですから」
「そうですね、お會いして分かります」
「私や九條さんは全然ダメでしたし! 伊藤さんは人間対応のプロですから。巖田さんが落ち込む事はないです!」
私が勵ますも、彼は力なく微笑むだけだった。切ないなぁ、娘に話してもらえないってきっと辛いだろうに。
それ以上かける言葉も見つからず、私はまたリナちゃんたちに目を向ける。伊藤さんと二人でお菓子を見ているようだった。
「あ、僕このチョコ食べようっと。リナちゃんどれにする?」
リナちゃんは緩慢な作でいくつかお菓子をじっくり見て選ぶ。私の時のように、気にらないものは全て伊藤さんの膝に戻していた。
伊藤さんも何も言わずじっくりリナちゃんのきを見守って待っていた。待つ、って意外と難しいんだよなぁ。ああいうところかな伊藤さん、人のペースに合わせられるの。
「じゃあ頂きまーす」
二人で並んでお菓子を食べる様子はとても微笑ましかった。初めてリナちゃんが普通の子供に見える。両手でし大きめの焼き菓子を摑んでいる姿は可らしい。
「このままし彼に任せておきましょう」
隣の九條さんが言う。私も同意した。
「そうですね、じっと見てるのもなんだし」
「我々はし休息を取る事にしますか。夜はまた働く事になりますし」
「はい」
私と九條さんはそう結論づけ、一度退散することにした。チラリと最後に見た伊藤さんとリナちゃんは、やっぱり仲良さそうにお菓子を食べていた。
控室に戻り私はまた巖田さんにシャワーをお借りした。もう持ってきた著替えは最後の一枚になってしまった。明日コインランドリーでも行く時間があるだろうか。
髪を乾かして部屋に戻れば、床で眠る九條さんが目にった。狹く散らかった部屋の角で、膝を曲げて小さく橫になっている。彼からは気持ちよさそうな寢息が聞こえた。
その様子がなんだか微笑ましくて、私はそっとそのに布をかけた。ここに來て毎回私にベッドを貸してくれているため、九條さんはいつも床で寢ている。大変申し訳ない。
私はしばらくその寢顔を眺めた後、自分自もベッドにを投げるとすぐに眠ってしまった。
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