《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》の心

何やら話し聲が聞こえる。

私は眠い目を瞑りながら耳だけ澄ました。

「あーうん、上手上手! これは? あはは、いいね」

伊藤さんの聲だった。そこでようやくパチリと目を開ける。すぐに視界にってきたのは、一生懸命積み木を積んでいる伊藤さんの姿だった。

ぼんやりした頭のまま上半を起こす。そこまできてようやく、伊藤さんの隣にリナちゃんが座っている事に気付いたのだ。

「……!?」

眠気が一気に冷めた。ギョッとして目を見開く。そんな私に気づいたのか、伊藤さんがこちらを見た。

「あ、ごめん起こしちゃった?」

私をニコニコ見上げる伊藤さんの隣には、リナちゃんも同じように積み木を持っていた。その背後には睡する九條さんがいる。

リナちゃんは笑顔こそないものの、積み木を持っている姿はどこからかい表に見えた。私は見たことのない彼の顔だ。

「い、伊藤さん……リナちゃん!?」

「今さーお城作っててさ! いいじじゃない?」

彼らの前にある積み木のお城は確かにいい出來栄え……って、そういうことじゃない!

あのリナちゃんが私達の控室まで來て遊んでいる。片手にはやっぱり犬のぬいぐるみはあるけど、積み木も持ってちゃんと子供みたいに遊んでいる。

見渡せば巖田さんはいない。リナちゃんは伊藤さんについて來たのだ。

……もはや、心を通り越えた。凄すぎて引いた。伊藤さん、リナちゃんとスムーズに仲良くなりすぎ。

「この部屋おもちゃたくさんあるし、こっちに來てみた! でも全然使ってなさそうだね?」

「リナちゃんが遊んでるところ初めて見ましたよ……」

「そうなの? リナちゃん用だよー創作系得意みたい!」

リナちゃんは無表のまま私を見上げている。その顔に、しだけ笑いかける。

「そっか、よかった」

そう言った瞬間、伊藤さんたちの背後にいた九條さんがむくっと起き上がった。普段は全然起きないくせに、調査中の彼はいつもタイミングよく起きてくれる。髪は中々蕓的な寢癖がついていた。

九條さんは振り返って伊藤さんとリナちゃんを見た。すぐに狀況を把握したようだった。

「あ。九條さんおはようございます〜!」

「……おはようございます。隨分親しくなったようですね」

「まあ、全てではないですけど質問すれば頷くくらいはしてくれますよ」

伊藤さんがリナちゃんに笑いかける。九條さんはゆっくり立ちあがり、彼らの作った積み木のお城を挾んで向かいに座った。一つ三角の積み木を選び、そっと積み上げる。

「リナさん、白い著を著たに見覚えありますね?」

即座に彼は本題にった。回りくどい事はせずに単刀直に言うのは九條さんの特徴だ。

伊藤さんが隣で「どうかな?」とリナちゃんに呼びかける。彼は九條さんが積んだ三角の積み木を見つめながら、小さく頷いた。

私は息を飲んでその景を見ていた。ようやくリナちゃんの気持ちが分かる時が來たのだ。

九條さんはまた一つ積み木を手に持つ。

「そうですか。今もいますか?」

リナちゃんは今度は首を橫に振った。

「夜中になり、巖田さんがうなされると現れますか?」

頷く。

「そのの人は、リナさんに何かしますか?」

首を振る。

九條さんはゆっくりと城を大きくしていった。面と向かって話すより、リナちゃんも圧迫じなくて済むかもしれない。今のところスムーズに意思疎通が出來ている。

「リナさんに何か言ったりしますか?」

首を振る。

「お母さんがうなされているのは、そのの人のせいだと思いますか?」

頷く。

「怖いですか?」

そう九條さんが聞いた時、リナちゃんはぐっと顔を上げた。そして九條さんをしっかり見て、首を振った。

……え、首を振った?

九條さんはピタリと手を止める。私も伊藤さんもリナちゃんに注目した。

あの著の人が怖くない? あの人が怖くて、リナちゃんは外を拒否しているのではないのか。

確かに悪いには見えなかったけれど、お母さんがうなされる原因だと思っている相手を怖くない、とは。

もしやすでにこの子の心はあのに魅られているのだろうか……。

九條さんはそれでも話のトーンを変えずに続けた。

「怖くないのですか。では、あなたが怖いものはなんですか?」

そう聞いた時、リナちゃんの目がった気がした。

は持っていた積み木を置き、大きな黒い瞳をかした。じっと見つめるその先には、この部屋の出口がある。

私たち3人はそちらを見た。

何の変哲もない扉がそこにある。茶のドアはよくあるタイプのものだ。何か得の知れないものがいるだとか、変なものをじるとかはない。

だが九條さんはすっと立ち上がった。ちらりと私の方を見、視線で合図する。私も意を決して立ち上がった。

リナちゃんは未だじっとドアのみ見つめていた。

私と九條さんは並んでドアの前まで歩む。伊藤さんはそっとリナちゃんを庇うようにを寄せていた。

九條さんの頭を借りなくても、私にもそれなりの予測が出來ていた。

全ての元兇はあのの人じゃない。何かもっと、恐ろしいものがリナちゃん達を苦しめている。の人の正は分からないが、リナちゃんがもっと恐ろしい者がいると言うのならそれを信じたいと思った。

ごくりと唾を飲み、あのドアの向こうに何がいるのか想像した。

リナちゃんから言葉を奪い、笑顔をなくさせた元兇は一何なのだろうか? できる事なら救いたいと思った。リナちゃんの笑っている姿を見たいと思った。

九條さんがドアノブに手をかける。一度私の方を見て確認をとる。私は張しながらも、小さく頷いた。

勢いよくドアを開いた。

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