《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》ぬいぐるみの中に

「きゃっ!」

小さなび聲が響く。はっと見ると、そこに立っていたのは巖田さんだった。

「あ、巖田さん……」

しホッとした私をよそに、九條さんは廊下に出てすぐに左右を確認した。じっくり観察するも、そこには何もいなさそうだった。

私も遅れて確認する。何も異常は見當たらない。

「あの、何か……? リナは大丈夫ですか?」

心配そうに聞いてきた巖田さんに笑顔を見せた。リナちゃんの様子が心配で見にきたらしかった。

「すみません、何でもないです。リナちゃんも積み木で遊んでます」

「あの子が遊んでいる……?」

「大丈夫ですよ」

巖田さんをフォローする私の隣で、九條さんは何か考え込むように腕を組んでいた。そして、巖田さんの背後をじっと見つめる。彼に何が憑いていないか再度見ているようだった。

だが無論、巖田さんからは何もじない。そりゃそうだ、この3日間何も気づかなかったんだ、巖田さんには何も憑いていないのだ。

「あの。おやつの時間なんです。そろそろリナをいいですか?」

「あ、そうでしたか。九條さん」

私が言うと、彼は小さく頷いた。中にいる伊藤さんとリナちゃんに聲をかける。

「おやつの時間だそうです。一旦遊びは休まれては」

リナちゃんと並んで座っていた伊藤さんは笑顔で頷き、リナちゃんに積み木の片付けを促した。彼は片付けに消極的で、まだ伊藤さんと遊んでいたかったらしい。俯いて犬のぬいぐるみを握りしめていた。

それほど伊藤さんに懐いたのかと改めて驚かされながらも、私もその片付けを手伝いリナちゃんを部屋の外へ連れて行った。

部屋に殘されたのは散らばったおもちゃと、ふうとため息をつく伊藤さんだ。

「お疲れ様です、伊藤さん……」

「え? いや疲れる事してないけどねー」

「伊藤さんって何者なんですか? 正直私ちょっと引いてます」

「ええっ! 引かないでよ!」

ケラケラと笑うその笑顔を見てつられて笑った。ああ、こういうとこなんだよな、と思いつつ。

九條さんも遅れて部屋にり、首を傾げながら床に座り込む。

「伊藤さんのおかげで巖田リナに々聞けたのは大きな収穫でした。が、疑問は殘る……」

「リナちゃん、あの人のこと怖くないって言ってましたね?」

「…………」

九條さんは無言で考え込んでいた。私と伊藤さんはただ黙ってその景を見つめる。

「伊藤さん、頼んだ通り裁は持ってきましたね?」

「え? あ、はい!」

「ありがとうございます。気になることは全て調べましょう。今夜、あのぬいぐるみの存在を見ます」

九條さんは決意を固めた。

夜、日付がもうしで変わるという頃。

私と九條さんはき出そうとしていた。巖田さんとリナちゃんはもう寢靜まっている。

伊藤さんは帰宅していた。夜中になれば著の人が出るのは分かりきっており、守りを持っているとは言え伊藤さんと得の知れない彼を近づけるのは危険との九條さんの判斷だった。

晝間にいくらか睡眠をとっているとはいえ私の疲労は溜まりに溜まっていた。眠いし疲れたし、今日は結局メイクも施していない。を捨てていた。

それでも眠いに鞭を打ち起き上がる。眠っているリナちゃんからあのぬいぐるみを拝借するという役割があるのだ。

「行きましょう。もう睡しているはずです。これ以上遅くなってはまたあのが出てきてしまいます」

「はい」

私と九條さんは音を立てないように控え室から出た。照明の明かりがるといけないので、廊下も電気をつけなかった。

そっと目の前の扉を開ける。暗い部屋に寢息が響いていた。

九條さんは攜帯のライトを足元にかざし、足音を立てないように確実に進む。私もそれに続いて中へった。

今日もカメラは起していた。録畫中の赤いランプがっている。ベッドでは巖田さんがリナちゃんを抱きしめるようにして眠っていた。

ベッドサイドにたどり著いた私たちは、その姿を見た。リナちゃん自も、今日はきちんと眠っている。寢顔はよくいる子供のように思えた。

(ちょっと布団を……ごめんよ)

私は心の中で呼びかけながらゆっくりと布団をめくった。やはり、リナちゃんの腕の中に例の犬はいた。だが、眠っているためそこまで強く握られてはいない。

九條さんが隣で頷いた。私はそうっと手をばし、ぬいぐるみを摑む。

そのまま優しく引き抜いた。幸運にもリナちゃんは起きなかった。規則的な寢息を立てているだけで、私たちに気付いてはいなそうだ。

ほっと息をつきながら、布団を優しく元に戻して二人その場を離れる。足音を立てないよう細心の注意を払い、扉を閉める。

意外にも簡単に功したことに拍子抜けした。てっきりあのの霊が出てくるとか、リナちゃんが突然目を開けたりするとか想像していたのに。

控え室に戻った私ははあーと大きな息を吐く。

「こんなアッサリ終わるとは思いませんでした、びっくり」

「同ですね。あっという間のことでした、気を張っていたのが無駄でしたね」

「さて、これですが……」

私は手に持っていたぬいぐるみを見た。普段リナちゃんに握られているため全貌はよく見てなかったが、よくある白いぬいぐるみだった。

UFOキャッチャーの景品でありそうな小さめなもので、いつも握られているためか汚れが目立つ。垂れた耳、黒い目、笑った口。なんの変哲もない可らしいものだ。

「ぱっと見普通ですけど。どうぞ」

九條さんに手渡すと、彼はじっとそれを観察した。くるくる回しながら一通り見たところで頷く。

「特に変なところはありませんね。外は」

そう言って彼は用意しておいた裁ち鋏を手に取った。キラリと銀る。

ああ、ぬいぐるみを真顔で切りつける姿はちょっとヤバい人に見える。それにごめんねリナちゃん、頑張ってうから。ワンコもごめん。

心の中で謝る私とは裏腹に、九條さんは一切の迷いなくお腹を切り裂いた。

例えば。きみの悪いお札が出てきたとか。

の長い髪がっていたとか。

に汚れたハンカチがってたとか。

ホラー映畫に出てきそうな展開の方が、私は心の準備は出來ていたのに。

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