《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》仮説
「…………え?」
九條さんが中から見つけ出したは小さな紙切れだった。彼の隣からそれを覗き込み、首を傾げる。
「どういうことですか? なんですか、これ? え?」
疑問ばかり浮かぶ私をよそに、九條さんは顔を固まらせていた。
そしてはっとした顔になると、彼はくるりと振り返った。部屋の端にあるクローゼットだった。
彼は無言でそれを開いて中を見る。私も背後から覗き込むが、何の変哲もないれだった。數多くのおもちゃが積み重なっている。
それでも九條さんはやはり、というように息を吐いた。さらに、勢いよく方向を変え、今度はモニターの隣に置かれた紙袋を手に取った。
それは私が初日持ってきたお菓子の殘りだった。リナちゃんに返された嫌いなお菓子たち。
「あの、九條さん?」
「こっちは今日伊藤さんが持ってきたですね」
私の呼びかけも無視して、伊藤さんが置いていったお菓子も漁る。それを眺めた後、彼は確信したように鋭い目つきとなった。
まるでついて行けていない私はポカンとしたまま見つめる。
珍しく、九條さんはしばし呆然としたように立ち盡くした。そして、片手で顔を覆う。
「九條さん?」
「……不覚」
九條さんはポツリとそう呟き、私に持っていたぬいぐるみを差し出した。
「とりあえず、これはもう不要なので元に戻してください」
「は、はい」
九條さんはまた大きなため息をつき、言った。
「本的な部分を見直さなくてはなりません」
その夜、九條さんが立てた仮説が正しいのだよと示すかのように、
あの著のは姿を現さなかった。
「おはようございます! ねえ、昨日久々にうなされずに朝までグッスリ寢れたんです……! 九條さんと黒島さんのおかげかしら!」
朝起きたあとリビングにると、嬉しそうに巖田さんが話しかけてきた。それに笑顔を見せる。
「それはよかったです、まだ解決はしていませんが」
「こんなことずっとなかったから嬉しくて。頭がスッキリしています」
そう話す通り、巖田さんの表はいつもより晴れやかで顔も良い気がした。毎晩あんな風にうなされていたら普通を壊すと思う。この人は丈夫な人だ。
巖田さんはキョロキョロと私の背後を見た。
「九條さんは? 朝食をご一緒しようかと」
「あ、えっと。し外に出てます。今日は朝食は結構です」
「あらそうなの……」
殘念そうに言った巖田さんの隣の扉から、まだ眠そうなリナちゃんが現れた。手には例のぬいぐるみを持っているが、特にお腹を裂かれた事は気づいていないらしい。正直、し歪に仕上がってしまった犬のお腹を見て騒がれたらどうしようかと思っていた。
「リナちゃん、おはよう」
私の挨拶に彼は何も答えずただこちらを見上げた。やっぱり伊藤さんいなきゃダメみたいだ。
リナちゃんはトコトコと歩きテレビの前に移していく。その景を見守ったあと、私は思い出したように巖田さんに尋ねた。
「そういえばリナちゃんのいつも持ってるぬいぐるみ、かなりお気にりみたいですね?」
「ああ、あれ? もう汚いし捨てたいんだけど、やたら気にってるみたいで取り上げると暴れるから……」
「どこで買ったんですか?」
「さあどこだったかしら? そこいらのおもちゃ屋さんですよ」
「そうなんですか、代わりのというわけにもいかないんですね」
「多分無理ね、ほんと気にってるから」
諦めたようにため息をつく巖田さんを橫目で見ながら、私はリナちゃんの橫顔を見つめた。
相変わらず笑顔はなく、無の表。
(もし……九條さんや伊藤さんが調べてる事が當たってたら……)
私は大きな勘違いをしていたことになる。
し震えそうになる手をなんとか押さえ、私は平然を裝った。つつつとリナちゃんの隣に移し、ソファに腰掛ける。
「伊藤さんは今日は來ないんだー。昨日せっかく仲良くなったから、また會えるといいね?」
笑って話しかけてみるも、リナちゃんはちらりと見ただけで何も答えない。
でも今は、それに対して私も悲しみは沸かなかった。伊藤さんが凄いだけで、これが普通なんだよ。
私は彼の手の中の汚れたぬいぐるみを見る。
「黒島さんは朝食いかが?」
「あ、では頂きます」
話しかけられた聲に答える。機嫌のいい巖田さんは、鼻歌を歌いながらパンを焼いていた。
そして晝過ぎ。
ようやく九條さんが戻ってきた。
非常に厳しい顔をしていた。彼の口から調べられた容が明かされ、あの著の人が何者なのかという九條さんの仮説も聞かされた。まだ調べは全て終了したわけではないが、十中八九間違いないようだった。
私は言葉もなくそれをただ聞いていた。覚悟していたが、やはり決定事項となればあまりの衝撃に頭が真っ白になってしまった。
それでも九條さんは冷靜に淡々と話し、リナちゃんから言葉を取り戻すため、そして巖田さんがうなされる原因の解明のため行を起こすと話した。
それは、
リナちゃんを外に出すという事だった。
私は驚かなかった。むしろ、それ以外何をしようかと言うぐらいだった。
ただ、タイミングや方法は限られる。私たちだけの力では出來ない。
九條さんはそう言って、これからの計畫を細かく私に説明してくれた。
未だ調べ途中の報の結果を待ち、しっかり確定してからく事。それまで決して悟られないよう今まで通り調査を続行すること。
「正直なところ、こんな展開は私も初めてなので々と戸っています。それでも解決のためには強行的にしなくてはならない」
九條さんは真剣な瞳で告げた。私は決意を固め、ぐっと彼を見據える。
「私も出來る事はやります」
そう宣言した自分の聲は、震えていた。
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