《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》外へ

二日後。

全ての調べが終了し、綿な話し合いを重ね計畫は立てられた。

その間、夜中巖田さんがうなされることは一度もなかった。リナちゃんを外に出す事をあのが待っているためだろうか、巖田さんは非常に喜んでいたが。

前日の夜から伊藤さんもマンションに泊まり込んでもらい、計畫に參加した。今回は伊藤さんの存在は必須なのだ。

この二日間、伊藤さんはここに通いリナちゃんと更に親しくなっていた。伊藤さんの呼びかけに対してだけは、リナちゃんは反応をしてくれる。今回の結末にとても重要な事だった。

そして夜三時。まだ巖田さんもリナちゃんも夢の中にいる頃。

私たちはき出す。

「行きます」

九條さんが呟いた。私と伊藤さんは顔を合わせて頷く。

らないこの部屋では朝も夜もじないが、時計は午前三時。外は真っ暗のはずだった。

張で吐いてしまいそうだった。正直なところ、私にそんな重要な役割はないのだがどうしても気持ちが昂る。

今回一番重要なのは伊藤さんだった。いつもニコニコしている彼が、珍しく影を落とし表も暗くなっていた。さっきから何度も落ち著きなさそうに咳払いをし、困ったように息を吐いていた。

そんな彼を勵ますように、九條さんが言う。

「大丈夫です。この二日間もリナさんと打ち解けて仲良くなってましたから。あなたはいつものように笑っていればそれで十分です」

「はい、行けます」

「もしづかれた場合は計畫通り強行突破です。いいですね」

「はい」

強く頷いた。そしてみんな顔を見合わせ、伊藤さんが先頭となって部屋から出る。

足音を立てないようにそうっと歩み、廊下に出た。床の軋む音すらどきりと心臓を鳴らせた。

伊藤さんがゆっくり目の前の扉を開ける。真っ暗な部屋にり、九條さんが足元をライトで照らした。私は出り口で見守ることにする。

二人は細心の注意を払いながらベッドに近づいた。睡しているリナちゃんと巖田さんがいる。

伊藤さんはしゃがみ込み、優しく寢ているリナちゃんの肩を叩いた。

とんとん、とんとん

その小さな衝撃だが、意外と彼は目を覚ました。子供なら起きないかもしれないと心配していたが、彼はパチっと目を覚ましたのだ。これも、何かの力が働いているのだろうか。

目を覚ましたリナちゃんを見て、伊藤さんがニコリと笑った。

そして人差し指を立て、口元に當てた。しーっと小聲がれる。

リナちゃんは無言で頷いた。

伊藤さんは目を細めて優しく微笑み、ゆっくり布団を剝ぐ。リナちゃんも音を立てないように起き上がり、そうっとベッドから足を下ろした。

伊藤さんがそんなリナちゃんを抱きかかえた。素直にそれに従い、彼の服を握りしめている。

巖田さんはまるで起きなかった。寢息すら聞こえてこない。不気味なほどに、彼睡している。ハラハラしながら私はただ見守っていたが、これまでは思った以上にスムーズで早く事が進んでいる。

九條さんたちはそこから退散した。

寢室から出てきてハッキリ見えたリナちゃんの顔は、どこからかく見えた。伊藤さんに抱っこされてるからなのか、これから外に出られる事を分かっているのか。

九條さんが先頭になり玄関へ急いで移する。どうしても巖田さんが寢ている隙に外へ出たかった私達は、どうか彼が起きませんようにと祈った。リナちゃんを外に出すだなんて、反対することはわかり切っているのだ。

そして私たちはそのまま玄関から飛び出し、あのの閉ざされた部屋から出した。廊下は夜中のためひっそりとしており、當然ながら人気はない。

私は走り出し、すぐにエレベーターを呼んだ。エレベーターは即座に扉を開けた。

全てが驚くほど順調だ、恐ろしいほどに。

みんなで箱に乗り込み1階へと下がる。誰も言葉を発さなかった。ぐんぐんと下降するエレベーターの中で、みんなが険しい顔をしていた。ただ一人伊藤さんだけは、優しく微笑んでリナちゃんに笑いかけていた。今更ながら、彼のこういう気遣いは嘆してしまう。

そしてついにエントランスに辿り著き、私たちはリナちゃんを連れて外に飛び出したのだ。

未だ暗い道。でも、外気の空気は心地よく街燈の燈りだけでも、あの部屋よりずっと明るくじた。

「で、出た……っ」

私は聲を出し、すぐにリナちゃんを振り返った。

は怖がることもなく、暴れることもなかった。伊藤さんにしがみつき、キョロキョロとあたりを見回していた。伊藤さんはリナちゃんが寒くないよう、抱っこしながら自分のコートの中に彼れる。

はあ、と息を吐く。張が解けた。

九條さんが言った。

「まだ迎えは來てませんでしたか。すぐ來るはずです、伊藤さんと黒島さんはここで待機しててください」

「え……九條さんは?」

私は驚いて彼を振り返る。九條さんはまだマンションの出り口の扉を開いたままにしていた。オートロック式の口なので、閉まったらもう中にはれなくなるのだ。

「戻ります」

「は」

「巖田さんは私のクライアントなので。調査報告をせねばなりません」

「で、でも!」

言葉を出したのは伊藤さんだった。九條さんはそれでも続ける。

「これを逃すとチャンスは無くなりますから。あなた方はここで迎えを待っていてください」

九條さんはそう告げると、くるりと踵を返してマンションの中へとって行ってしまった。私は反的に、閉まりそうになった扉を手に摑む。

こんな時に、律儀さを出さなくてもいいのに。調査報告なんて、今やってる場合ではない。

九條さんの白い服がエレベーターの中に吸い込まれていく。その背中を見て、どうしようもない不安に包まれた。

が締め付けられる。嫌な予がする。

焦燥に苦しくなり拳を握った。

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