《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》突
私は壁にもたれながら目を瞑って息を吐く。
答えは全て出た。
リナちゃんを恐ろしいと思った。きみが悪いと思っていた。でも、あれは全て當然の反応だった。
突然拐されて親と離れ離れになり、監までされて知らないが母親として接してくる。彼からすれば恐怖そのものだろうし、自分を拐した相手が夜中うなされていても無表で眺めてしまうのは致し方ない反応だ。言葉を失い心が病んでしまっていた。
思えば、私は最初リナちゃんに「お母さんを助けるために來た」と自己紹介していた。あれでは、私たちも巖田さんの仲間だと思って心を開いてくれないのも頷ける。
対して伊藤さんは「リナちゃんを助けられたらいいな」と自己紹介していた。無論伊藤さんの癒しパワーも大きいが、あの言葉にリナちゃんは伊藤さんに心を開いたのかもしれない。
……言葉を失くしても、私たちにサインを出そうとしてくれた事は多々あった。今なら気づけるのに。それを、きみが悪いで片付けていたなんて。自分に呆れる。
もっと早く気づいてあげられなくてごめん。君は、とても強い子だよ。
悔しさと後悔からし目の前が滲んだ時、沈黙を流していた巖田さんがポツリと低い聲をらした。
「……あの子、は」
し震えている聲だった。今まで聞いたことのない、苦しそうな聲に聞こえる。
「あの子は……
私の子です。 返してください」
はっとして巖田さんを見る。その瞬間、彼は隣にあるキッチンにり込み素早い作で何かを取り出し、すぐにまた戻った。僅かな隙間から見える巖田さんの顔は蒼白で目は走っているように見えた。それを見てゾッとする。
ああ、……やばい気がする!
巖田さんがそっと手に持つ銀を掲げた。キラリと反する包丁だった。
「あの子は私の子です、私がお腹痛めて生んだ子なんです、今すぐに! 連れ戻して!!」
耳がキンとするような金切り聲がリビングに響き渡る。その顔と行から、彼に正気がないことは確かだった。いや、人を拐して監する時點で正気などないのだろうか。
九條さんの姿はこちらから見えなかった。ただ私には、包丁を九條さんに向かって構えるしか見えない。
「私の子です、私の子なんです、私の子なんです、私の子なんです、私の子なんです、私の子なんです……私の娘、私の娘、私の可い娘ぇ!」
壊れたテープのように何度も繰り返し言う巖田さんは、包丁を持ったまま走り出した。
「! 待っ!」
巖田さんがびながら九條さんに飛びかかろうとした瞬間、私は目の前の扉を思い切り開いていた。そして、無我夢中でその背中に両手を広げ、彼を背後から羽い締めにしたのだ。
ようやく見えた九條さんの表は、巖田さんと言うより私を見て驚きで目を丸くしていた。
「九條さっ、逃げ」
私と型はほとんど変わりない巖田さんだが、これが我を失っている人間の馬鹿力なのだろうか。包丁を持ちながらを捻る彼の力と強引さはとんでもないものだった。巖田さんが首を振るたび、その傷んだ黒髪が顔に當たって痛い。
先の尖った包丁をブンブンと振り回すその腕に恐怖をじながらも、私は必死にその力に食らい付いていた。
「黒島さん!」
九條さんの聲が響いた瞬間、巖田さんの力に押された私はつい腕が解けて背後に倒れ込んでしまった。腕がったことにはっとし、目の前の巖田さんを目で追う。彼は私には目もくれず、九條さんだけを見ていた。
「九條さん!!」
夜叉のような顔をした巖田さんが九條さんに突進していく。私は悲鳴を上げながらそれを目で追っていた。
九條さんはパニックになることもせず、到って冷靜に巖田さんを見つめていた。鋭いその黒目は獲を捕える野生のようにも思えた。
包丁を両手で構えたまま突進してきたを、九條さんはさらりとを返して避けた。一切無駄のないきだった。
そして、振り返った巖田さんを睨み付けると、黒いパンツを履いた長い足をすばやく蹴り上げ、ピンポイントで包丁を蹴り上げた。洗練されたそのきがしい、と思った。
一瞬の流れだった。包丁が巖田さんの腕から落ちる。
カラン、と金屬音が部屋に響いたかと思うと、九條さんは唖然としている巖田さんにすぐさま接近しその腕を捻り上げた。彼は苦痛の表を浮かべながらされるがまま床に倒れ込む。
九條さんはそれを見下げながら言い放った。
「ちなみに守義務は約束通り守れなかったので、今回は依頼料は結構です。まあ、相手が犯罪者となれば守義務も何も関係ないのですがね。
あなたのようなクズ相手には、依頼料すら貰いたくない」
冷たい九條さんの聲が部屋に消えった。そしてそのタイミングで、ようやく玄関が開きバタバタと騒がしい足音が響いたのだ。
「警察です!」
警察の突だった。數名の男が狀況を見てすぐに把握したのか、床に倒れ込んでいる巖田さんを拘束する。
巖田さんはもう何も言わず無言でグッタリしていた。ようやく諦めたのかもしれなかった。
數名の男に囲まれ、九條さんはようやく巖田さんから手を離した。慌ただしく人々がってくる中で、私は床に座り込んだまま呆然としていた。
「大丈夫ですか!? 怪我は!」
警察の一人が話しかけてくれた。私は首を振って否定する。
「だい、大丈夫です、腰が抜けただけで」
「よかった」
目の前で繰り広げられた出來事が現実とは思えず頭がうまく回っていなかった。包丁を持った人間を羽い締めにしたのだって初めてだったし、九條さんがあんな機敏なきを見せたのも驚きだったし。
……何より、九條さんがもう死んじゃうかと思った……
あのまま包丁で刺されるんじゃないかと。
未だ立ち上がることが出來ない私を見た九條さんは、ゆっくりこちらに歩み寄る。しゃがみ込むと、私に言った。
「なぜあなたがここにいるんですか」
「……だ、って……」
安心から、ぶわりと涙が込み上げてくる。彼の無事を改めてじ心が軽くなった。見慣れた白いを見上げながら、呟く。
「く、九條さんになんかあったら、って……」
彼は泣いた私を見て、しだけ困ったように視線を泳がせた。
「……これでも護はそこそこに付けています、あとポケットには催涙スプレーも」
「……そ、ですか……」
ポタポタと溢れてきた涙を必死に拭いた。だって、いつもポッキー食べてる姿しか見てないもの、護に付けてるなんて想像もつかない。
いや、もしそうだとしても、一人で危険に臨むようなことはしないでほしい。本當に、怖かったのに。
九條さんは無言で私を見つめた後、その長い指で私の頬を拭いた。しひんやりした彼の溫をじて、ついが直する。
「……ありがとうございます。しかし、危険な真似はしないでください」
「こ、こっちの臺詞です」
「まあ、それもそうですね」
しだけ口元を緩めた九條さんは、私の頭にポンと手を乗せた。それだけで、私の心臓がぎゅんと鳴った。口から心臓が出るかと思った。
彼の顔を見つめながら、顔から火が出そうなくらい熱くなるのを自覚する。九條さんの大きな手をじながら高鳴る心を必死に抑えた。
そのに、抱きついてしまいたい。そう、思った。
九條さんはすぐにパッと手を離し、すっと立ち上がる。
「さあ、立てますか。立てないなら抱っこしましょうか」
いつだったか聞いたあまり笑えない冗談を言ってきた彼になんだかムカついた私は、口を尖らせて九條さんを睨んだ。いつだってそうだ、笑えない冗談をぶっ込んでくる。私一人慌てふためいてるんだから。
分かってるのかな。私がこんなになってる原因。
「……ええ、立てそうにないから抱っこしてもらえますか」
冗談返しのつもりだった。し意地悪を込めた。
しかし私が言い放つと、九條さんはゆっくりこちらを見下げた。そして無言で再びしゃがむと、私の膝の下に手をれようと腕をばしたのだ。
突然の行にひょ! と変な聲を出した私は慌てて言う。
「じょじょ冗談です立てます!!」
「なんだ、冗談ですか。せっかく抱っこしようと思ったのに」
いつもの能面で言い放った九條さんは一人立ち上がった。その飄々とした顔が憎い。
くそう。結局、私だけいつも戸っているんだから。
背の高い彼を見上げて、こんなことならいっそ抱っこされればよかった、なんて思う自分がいた。
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