《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》ずっと価値があるもの
「リ……加奈子ちゃん!」
私はわっと笑顔になる。
目のクリッとした可らしいの子は、父親と見られる男に抱っこされていた。彼を抱く人は優しそうなタレ目の男だった。そしてその隣に、ショートカットの黒髪のがいる。
パッと見て上品だなとじるご夫婦だった。二人は私たちを見るなり、泣きそうな顔で部屋にってきて深々と頭を下げた。こちらが恐してしまいそうな勢いでつい慌てる。
「加奈子の母です。この度は……本當に、本當にありがとうございました!」
「あなた方のおかげで加奈子と無事再會できて……なんとお禮を言っていいか分かりません」
目と顔を真っ赤にしているお二人に、ああ本當に加奈子ちゃんをずっと待っていたんだと痛させられる。
隣の九條さんが言った。
「顔を上げてください、我々はそんな大層なことはしていません。お嬢さんがいながらに必死にシグナルを送ってくれたおかげですよ」
二人は顔を上げる。私は加奈子ちゃんを見た。
お父さんの首にぎゅっと腕を巻きつけてくっついている。笑顔までは見れないが、その表はらかく普通の子供に見えた。
ああ、やっぱり。本當のご両親の前では、そんな顔をするのね。
つい鼻がつんとなる。あれだけ無表で言葉を失くしていたの子が、今ようやく自分を取り戻そうとしている。
お父さんは加奈子ちゃんをそっと下ろした。加奈子ちゃんの手にあのぬいぐるみはなかった。本當の親の元にいれば、もう必要ないようだ。
お母さんが加奈子ちゃんの頭に手を置いて言う。
「……まだ、言葉は喋らないんです。やっぱり、カウンセリングに通って時間をかけていくしかないみたいで」
6歳のにとっての半年はかなり長い。その間外にも出れず両親と離されては、心に大きながあくことは免れない事実だと思う。あのがしでかした罪は重い。
伊藤さんが加奈子ちゃんの前にしゃがみ込み、目を細めて笑った。
「でも、表が全然違いますよ! うん、時間かかってもいいよ。加奈子ちゃんのペースでゆっくり楽しくやれればいいよね」
伊藤さんの言葉に、加奈子ちゃんが小さく頷いた。伊藤さんがニコニコ顔で彼の頭をでる。
お父さんが言った。
「警察に今回のあらましは聞いています。その、守護霊に関連することで依頼をけてきたとか……」
し戸う口ぶりに、九條さんは首を振った。
「すみません、一般的な方々にけれ難い事案であることは承知しています。ですが、我々から見たらそれが真実なので警察にもそのまま告げました。
加奈子さんにつく力の強い守護霊がなんとか守ろうと必死になっていたのです。彼の力なくては解決に至りませんでした」
「……そう、なんですか」
「普通守護霊はなかなか人前に現れないし人を攻撃しませんからね。よほどの霊でした。
ありがとう、と思っていれば伝わると思いますよ。力の強い守護霊なので、これからも加奈子さんを守ってくれると思います」
九條さんの言葉に、二人は顔を見合わせた。そして微かに微笑む。
「普段なら、そう言った類の話は信じないタイプなのですが……今回ばかりは、信じざるを得ません。その守護霊とあなた方のおかげでこうして加奈子と會えた。紛れもない事実です。全てのものに、謝します」
二人は再び深く頭を下げた。
ああ、半年間、どんな思いでいたのだろう。
大事な子供がいなくなり消息も摑めなくなって、最悪の事も考えて、毎日きっと地獄を味わっていたに違いない。
どうかこの溫かい家族が、失った時間を埋めていけますように。
私がそう心で祈っていると、つんと腕が引っ張られる覚に気づく。ふと下を見てみれば、加奈子ちゃんが私の服の袖を握ってこちらを見上げていた。
私の袖と同じように、隣にいる九條さんの白い服の袖も小さな手で握っている。
し驚きながらも、私と九條さんはしゃがみ込んで彼と視線を合わせた。大きな二重の目がこちらを見ている。
「加奈子ちゃん、よかったね。たくさんご両親に甘えてね」
私がそう話しかけると、彼は頷いた。
そしてほんの僅かに、口元を緩めて微笑んだ。
その表を見た瞬間激で心が震える。あれだけ人形のようだと思っていたが、何をしても反応してくれなかったが笑っている。その微笑みからは、「ありがとう」が伝わってくる気がした。
隣の九條さんを見てみれば、彼も驚くほど優しい顔で微笑んでいた。そして加奈子ちゃんの頭をそっとで、言う。
「あなたは非常に強い子です。これから先もきっと大丈夫。いつかまた、會いましょうね」
反則並みの笑顔が二つ、ここにある。
ぐっとくると、こんな時にときめいてしまう気持ちで心が混ざった。笑顔、って、なんでこんなに特別なんだろう。
涙が溢れそうになるのを必死に抑え込み、そしてドキドキしている心臓も抑え込んだ。私はただ、加奈子ちゃんに優しい笑顔だけを見せた。
加奈子ちゃんの手を引いて、ご両親が幸せそうに笑う。そしてまた最後に深々と頭を下げた。
「……あ」
頭を下げたその一瞬の背後に映り込む。
彼らの後ろに、あのの人がいた。白い著をに纏い、髪はしっかり結われていた。
だが今日見えた彼は優しく微笑んでいた。赤い紅をさしたが見える。そしてしだけ私たちに頭を下げると、そのまま加奈子ちゃんの中にるようにすっと消えた。
……あの人のことも、あんなに怖がってしまったけれど。
守護霊として最高の役割を果たしていた。これから先もずっと加奈子ちゃんを見守っていくんだろうなぁ。なんて凄い力なんだろう。霊にも々種類があって、優しい霊もあるんだな。
三人が部屋から出て行った後、私達はほうっとため息をらした。それだけでお互いのがわかるようだった。
伊藤さんがし潤んだ瞳で言う。
「依頼料よりずっと価値あるものが見れましたね」
そう、本當にそうだ。私は大きく頷いた。お金より、加奈子ちゃんという子を助けられたと言うことはずっと大きなことだ。タダ働き上等だ。
九條さんは何も答えなかった。でも、目をしだけ細め、もう閉められた扉を見つめているその橫顔が、彼の返事のような気がした。
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