《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》小話4
まだ事務所が男二人でり立っている時のこと。
「九條さんって、容室どこ使ってるんですか?」
ある晝下がり。來客もなく暇な事務所はのんびりとした時間が流れていた。
伊藤は一段落ついた仕事から離れ、コーヒーをれてゆっくりお茶をしていた。デスクに置いた黒いから湯気が立っている。
九條氏はいつものごとくソファにだらしなく座り、テレビを眺めながら例のお菓子を摘んでいた。
彼の髪は後頭部が寢癖で跳ねている。これはよくある景だ、伊藤はもう指摘することすらしない。
「なんですか急に」
「いや気になっちゃって。九條さん容室行ってる姿想像つかないなーって。ネット予約とかしてるんですか?」
「容室は使うところはいつもバラバラです」
「へえ!」
「街を歩いていたら聲をかけられるのでタダでやってもらいます」
「………」
いわゆるカットモデル、だろう。九條氏の顔面を見るに、カットした後雑誌に載ってもおかしくはないビジュアルだが、彼がそれを引きけるとは思えない。
恐らく新人の容師たちの練習臺なのだ。
伊藤は呆れる。
「九條さんびっぱなしでボサボサの時ありますもんね…聲かけたくなるんでしょうね、容師さんも…」
「髪なんて洗うの面倒です。いっそ坊主にしたい」
「そんな理由で坊主ですか!!無頓著すぎですよ!」
「容室で頼んでも斷られます」
(頼むんだ…ガチだな…)
「あ、あと前から聞きたかったんですけど長何センチですか?」
「なんでそんなこと聞きたいんですか」
「読者の疑問です」
「読者…?」
「まあまあ深く考えないで。」
「ほとんど測ってませんからね…學生の頃が最後でしょうか。178だった気が」
「悔しいな、食生活あんなんなのに僕より高い…」
171センチの伊藤は口を尖らせた。彼が長をばしたくてカルシウムを取りまくっていた學生時代、あまりその効果は得られなかった。
あの顔面にその長。なのにこの中。天は二を與えずとは言うがこういう時に使えばいいのだろうか。
伊藤は一旦を潤すためにコーヒーを飲む。
「まあカットモデルでも、ちゃんと切ってもらってるようで安心しましたよ。九條さんもしかして自分で切ってるとか言い出すかと」
冗談半分に伊藤は笑いながら言った。しかしそれを聞いた時、九條氏はなぜか驚愕したように目を見開いてこちらを見たのだ。
その目力についたじろぐ。
「それもそうですね、何故今まで思い付かなかったんでしょう」
「はい?」
「容室で髪を切られる時間が勿無いと以前からじていたのです。でもびると鬱陶しいので切ってもらってましたが。
自分で切ればいいんですね」
しまった、余計なことを言ってしまった!伊藤は目を閉じて空を仰いだ。
これはいけない、この男きっと自分で切ったらとんでもない髪型になる。こだわりも何も無いのだ、左右非対稱でもおかっぱでもきっと気にしない。
このままではこの事務所の責任者がとんでもない髪型で登場するハメになる、依頼者もドン引くような!
伊藤は何とかしてそれは止めたかった。
「九條さん!」
勢いよく顔を戻す。
「お願いだから髪だけは容室行ってください、多のだしなみは仕事の一つでもあるんですよ!」
「はあ」
「いいですね?もし次自分で切ってヘンテコな髪型にしてきたら、戸棚のポッキー全部捨てます!」
「!」
「分かりましたね!」
九條氏を脅すのはこの文句が一番だと知っていた。案の定、彼は眉をひそめて悲しげにソファにもたれた。
「…わかりました」
はあと伊藤は安堵の息を吐く。これで九條氏のおかっぱは免れた。
自分の発言は気をつけねばならないな。改めて彼は反省する。
- 連載中886 章
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