《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》學校へ到著
「あ、見えましたねあれです」
九條さんがいう。私が目を向けると、なるほどとても立派な校舎が見えてきた。
高校自は古くからある學校だが、ここ數年で立て替えたらしい、新しくきれいで、おしゃれな外観をしている。白い壁が眩しいほどだ。
「なんていうか、首吊りの霊を見るってなれば古い校舎を想像しちゃうけど新しいんですよねえ。アンバランス」
「古い校舎となれば雰囲気も出るのですがね。さあ駐車して一旦三木田さんと合流しましょう。さまざまな手配が間に合っているといいのですが」
九條さんは車を駐車場へとれ、空いている場所に停める。とりあえずは私も荷を持たずに車から降りた。広々とした駐車場には多くの車が見える。遠くから笛の音が鳴り響き、一気に懐かしさに襲われた。育の授業で使われているのだろうか。
校舎の裏側のようだが、果たしてどこからればいいのかと二人で當たりを見渡す。その時、一人の男が校舎からできてきたのが見えた。
年は三十歳くらいだろうか。上下紺のジャージをに纏っていた。短髪でも健康的に焼けており、服の上からでもわかるガタイの良さからして、育教師かもしれなかった。
彼は私たちめがけて小走りで近寄ってくる。白い歯を見せて、彼は笑顔で話しかけてきた。
「こんにちは! もしかして九條さんですか?」
「ええ、そうですが」
「よかった! ご案します」
ハキハキと通る聲に爽やかな笑み。九條さんや伊藤さんとはまた違うタイプの、でもに非常にモテそうな人だった。スポーツマンタイプ、というやつか。
彼は丁寧に頭を下げて、自己紹介をした。
「僕はここに勤めてます、東野といいます。育教師をしています。三木田より九條さんたちの案係を任されまして。専用の部屋も準びしてますから」
東野さんはやはり育教師のようだ。私は當たっていたことになぜか喜ぶ。九條さんは一つ頷くと、いつものように抑揚のない聲で言った。
「今回調査を承りました九條です」
「あ、黒島です」
慌てて私も続く。東野さんは私を見て、一瞬意外そうな表をした。が、すぐに笑う。
「よろしくお願いします! こちらへどうぞ」
東野さんに言われるがまま三人で足を踏み出した瞬間、懐かしいチャイムの音が鳴り響いた。
授業が終わり休み時間となったらしい。私たちが校舎に足を踏みれた時、中には大勢の生徒たちが廊下で忙しそうに走り回っていた。
制服をきた男は當然ながらみんな若い。子供でも大人でもないその未さが、とても微笑ましいと思った。私はつい目を細めて彼らを見る。
楽しそうに笑いながら廊下を歩むその姿に、自分ももうし青春ぽいことをすればよかったと、今更ながらに後悔する。
友達らしい友達もいなかった私は、こんなふうに笑いながら廊下を歩くことすらほとんどしなかったなあ。
「おーい走るなよ」
東野さんが軽く聲をかけて注意したとき、生徒が振り返った。その瞬間、彼たちは驚いたようにこちらを見たのだ。
道を開けるようにそろそろと廊下の端に寄る。視線は私たちをじっと眺めたままだ。
「…………?」
不思議に思いながら歩みを進めれば、すれ違う生徒たちはみんな私たちに注目していたのに気がついた。特に生徒の多いこと。そこであっと気がつく。
ちらりと隣を歩く九條さんを見た。これだ、この顔面國寶無駄遣い男のせいか。
無言で廊下を進む九條さんは、言わずもがな一人浮いてしまうくらい男前だ。悔しいことに彼のビジュアルは文句のつけようがないほど。や異に敏な子高生たちが注目してしまうのは致し方がないことだと言える。中には男子生徒すらこちらに見惚れていた。
特に教師でも生徒でもない部外者の私たちはただでさえ目立つ。
「ほらー終禮始まるぞ、教室れよー」
東野さんは呆れたように聲をかける。それでも子高生たちの熱い眼差しとひそひそ話は止まなかった。
……やっぱり九條さんって、何も言わなければめちゃくちゃモテるんだろうな……
そりゃ、この顔でモテないわけないけど。
「ええと、一室使われるということで、空いてる教室があるんですがそこでいいですか?」
「ええ、どこでも構いません」
「こっちです」
東野さんについて人ごみを抜けていくと、廊下の一番端にネームプレートのついていない教室があった。引き戸のり口を開けると、置として使われているようで三分の一ほどはたくさんの荷が積まれていた。
テーブルや椅子、パネルに教材。
電気をつけると、薄暗い部屋が明るく燈る。置といえども、十分に綺麗な部屋だった。
「すみません、急なので片付けもできてなくて……」
申し訳なさそうにいう東野さんに、九條さんが答える。
「いいえ十分です、助かります」
「今眠ったまま目覚めない子たちについては、簡単なことだけ三木田が事務所の方へ送ったみたいです」
「ああ、早速ありがとうございます」
「あとー……」
東野さんが言いにくそうに口ごもる。
「首吊りを見た人たちから直接話を聞きたいってことでしたよね、大々的に生徒たちに言っても興味本位の子たちが押し寄せてたいへんだと思うので、心當たりある生徒たちに個人的に聲をかけようかと思ってるんですが……」
「それで構いませんよ。あとは生徒たちからたどっていきます」
九條さんは教室にり、隅の方にあった機とテーブルを移させる。その背中に向けて、東野さんが意を決したように言った。
「ではまず一號、いいですか」
九條さんが手を止めて振り返る。東野さんは頭をかきながら続けた。
「教師の中で唯一の目撃者、僕なんです」
九條さんの瞳が鋭くなった気がした。彼は無言で椅子を何腳か取り出し、教室の中央に運び込むと自も腰掛ける。
「どうぞ」
東野さんはおずおずとその椅子に座り込む。私もそれに続き、二人の間に腰掛けた。どこか張しているように見える東野さんに、とりあえず微笑みかけて言う。
「話せる範囲で結構ですし、私たちは東野さんの話全部信じますから」
以前伊藤さんが一般人に聞き込みをしていた時、こんなじのことを言って張をほぐしていたのを思い出したのだ。伊藤さんのスーパーな癒しオーラは真似できないが、その世渡りをしでも真似してみたかった。
不用な私の聲かけだったが、東野さんはし表を緩めた。ふうと息を吐いて機の上でぎゅっと両手を握る。
「ありがとうございます。やっぱりこういう話って、噓つきだとか妄想だとか言う人たちも一定數いて。三木田さんは真剣に聞いてくれましたけど、職員の中ではし浮いてしまって」
俯き加減に寂しそうに言った彼を見て、が痛んだ。
視える者として、視えない者と分かり合えない苦しさはよく知っている。
私の場合母だけは信じてくれたけれど、父や妹は頭のおかしいやつという認定が下されただけだった。未だにあの二人とは分かり合えていない。いつのまにか、理解されようとすら思わなくなった。
どう答えようか迷った私の隣で、九條さんがストレートに言った。
「我々は信じます。なぜなら、私たちは視えるからです」
「…………」
ふ、と東野さんが笑う。そしてすぐに表を引き締めて私たちを見た。
「僕はバスケ部の顧問をしているのですが、あれは部活も終了し學校に殘っていた時でした、確か時刻は夜の二十時頃だったと思います」
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