《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》証言1

証言① 育館

生徒たちも帰宅したのを確認し、僕は育館の鍵を閉めに行きました。育館はバスケ部とバレー部が使用するので、いつもバレー部の顧問と代に鍵をかけにいくようにしています。

育館にり、電気をつけたときは誰もいませんでした。それでも萬が一誰かいたら大変なので、隅にある育倉庫もしっかり確認しにいくのが日課です。

「おーい、鍵しめるけど誰もいないかー」

そう聲を響かせながら倉庫まで移し、埃くさい中もしっかり確認しました。誰もいませんでした。

片付けもちゃんとされていることを見て、僕は倉庫から出、扉をしっかりと閉めました。

そのとき、つけたはずの明かりがふと消えたのです。

「……あ?」

てっきり、誰か他の先生が來てつけっぱなしの電気を消したのだと思いました。慌てて振り返って聲を上げました。

「あ、すみません東野ー……」

背後には、誰もいませんでした。開けっ放しにしていたはずの育館の出り口もしっかりと閉じられて。でも、育館の扉って重くてかすと大きな音が鳴るはずなんです。僕はそんな音全く気づかなかった。

そして、

キイ、キイ

何か揺れるような音が耳にりました。

「…………」

けないことに、一気に怖くなった僕はすぐさま出口に向かって走り出しました。その頃すでに目覚めない生徒たちや首吊りの霊の噂は大きく出回っていたので、脳裏にそれが浮かびました。

慌てて出口についたとき、その扉が開くか不安になったけれど、意外にもそれはすんなり開いたので安心しました。重い扉を開き外へ出て、それを再び閉じようと振り返ったときです。

育館の中央らへんに、ミノムシのようなものが見えました。

「……え?」

キイ、キイ そんな音と同時に、ミノムシは揺れている。

それが首を吊った生徒の揺れる音だと気付くのはすぐでした。僕は扉を閉じる余裕なんてなく、そのまま思い切り走って育館から離れました。

高い育館の天井から長くぶら下がった紐、一人でに揺れる制服を著た子、長い髪だけが、今でも目に焼き付いて離れないんです。

「……というじで、その、見たのも一瞬ですしあまり參考にならないかもしれませんが」

東野さんは申し訳なさそうに言った。九條さんはゆっくり首を振る。

「いえ、とんでもない。いくつか質問してもよろしいですか」

「はい」

「その生徒の顔は」

「後ろ姿だったんです。髪が長いことしか見えてません」

「聲や音は何か聞こえましたか」

「そのキイキイ揺れる音くらいで、聲までは」

「それまでも育館でも目撃報はありましたか」

「まあ、聞いたことはありますが、証言が集中してるというわけではなく。あくまで噂ですが、目撃はトイレだったり教室だったりバラバラでした」

九條さんは黙り込んで腕を組む。私は東野さんの証言を想像して背筋が寒くなった。遠目でも、高い天井から長い紐がぶら下がってて、さらに生徒が揺れてるなんて……不気味すぎる。走って逃げ出すのは普通の覚だ。

私も聲をあげて質問してみる。

「その、似てるなあと思う生徒とかいませんか」

「いやあ……今時の子達はみんな髪長いし後ろ姿じゃなんとも」

「ですよね」

暗い中一瞬見ただけだろうし、そこまで判斷できるはずもない。

九條さんは一つ息を吐いて続けた。

「話は変わりますが、現在目覚めない四名の生徒たちの共通點、三木田さんは見當たらないと言ってましたが何かありませんか」

「ああ……それは僕もわかりません。クラスも部活も學年も違うし、多分お互い名前も知らない同士だと」

九條さんは再び考え込むように一點を見つめる。彼は仕事中は意外と頭が回るので、何か難しいことを考えているかもしれなかった。

しばらく沈黙が流れた後、九條さんは話を切り上げる。

「わかりました。では、他にも目撃した生徒たちがいればこちらに呼んでみてください」

東野さんは頷き、椅子から立ち上がった。そして私たちに笑いかける。

「この前の廊下をまっすぐ行って左手に職員室があります。手伝えることはなんでも言ってください、力になります」

彼の好意に二人でお禮を言うと、東野さんは教室から出て行ってしまった。

九條さんは椅子に座ったまま無言でいる。學校で使われる木の椅子や機がなんだかアンバランスで、し違和だ。

「証言第一號が取れましたが、まあまだなんとも言えませんね」

「そうですね……」

「とりあえずこれからできる限り証言を集めます。集まりやすい首吊りの霊から攻めましょう。目覚めない現象と繋がりがあるかは分かりませんが、同時期に発生したとなれば何か関係がある可能が高い」

「そうですね。証言がいくつか集まれば、また撮影しますか?」

怪奇が起こるとわかっている場所が特定できれば、九條さんの車に乗せられた高能な撮影道でその場所を撮影し続ける。こうすると、霊の姿が映り込むことが多いのだ。

九條さんは困ったように呟いた。

「そのつもりですが……どうも場所はバラバラとのことですし……」

「そう言ってましたね」

「何より、朝からは生徒たちが來るので、夜間設置した撮影道を毎回朝方回収せねばなりません」

「げ!!」

つい悲鳴を上げる。カメラやモニター、多くのコード。高能なカメラたちは意外と重くセットが大変で、毎回苦労するのだ。それを、一晩ごとに回収と設置を繰り返すだなんて! 私は頭を抱えた。

「あれ結構重いし大変じゃないですか〜……」

「しかも學校は広いですから、運ぶにも一苦労ですね。後で臺車も借りねば」

「今回は力勝負になりそうですね……」

「調べが終わったら伊藤さんに手伝いに來てもらうことも考えておきましょう。人手が足りませんね」

九條さんはそう抑揚のない聲で言った。

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