《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》証言2

それから十五分後。

九條さんと今後について話しているとき、教室の扉が叩かれる音がした。はい、と私が聲を上げると、ゆっくりとした速度で戸が開かれた。

恐る恐ると言ったじで顔を覗かせたのは、ショートカットに眼鏡をかけた、小柄なの子だった。やや張してるようにこちらを見る。

「あの、東野先生から聞いたんですけど……」

私は急いで立ち上がって彼の元へ駆け寄った。笑顔で招きれる。

「こんにちは、來てくれてありがとう。どうぞ座ってください」

「は、はい」

気そうなその子は、小で九條さんが座る席まで移する。そして、座る彼の顔を見てし驚いたような表を一瞬見せる。彼の顔面に騙されているようだ。

「初めまして。九條といいます。どうぞ座ってください」

無表でそういう九條さんの言葉に頷き、彼は座る。私もその隣に腰掛ける。掛けている眼鏡をくいっと上げ、その子は言った。

「一年の山田彩っていいます。あの、見た幽霊の話を聞いてくれるって……」

もじもじしながらそういう山田さんに、私は笑いかけた。

「あまり張しないで大丈夫ですよ。見たことをそのまま教えてください、私たちは全部信じますから」

プリーツのスカートをぎゅっと握りしめる山田さんは、一度小さく頷く。

「私今までお化けとか見たことなくて、だから幻覚かもって思ってたんです。まだ首吊りの噂とか全然出回ってない頃で……もしかしたらですけど、見たの第一號なのかも」

私と九條さんは顔を見合わせた。だいぶ早期に目撃したらしい。

山田さんは小聲で語り出した。

証言② 調理室

私は調理部に所屬してます。週に一、二回放課後に調理をする部活で、ゆるい活です。

その日は確かブラウニーを焼いて、解散した後のことでした。あの、大二時間もあれば終わる部活なんです。時刻は多分夕方の六時くらいだったと思います。

片付けも全て終わって、部活の友達と帰宅するために學校を出たとき、忘れに気がついたんです。調理室に置きっぱなしにしてしまったエプロンでした。

友達はその場に待っててもらって、急いで調理室に走って行きました。もちろんもう誰も殘っていない調理室に駆け込んで、置きっぱなしにしていたエプロンを取ったんです。

よし、と思って、何も考えずに振り返りました。

ごつん、と顔面に何かがぶつかって。

びっくりして顔を引くと、目の前に革靴が見えたんです。私の視線の高さに、革靴です。

人って驚くと思考回路停止するんですね……私はぽかんとしたまま、そのままゆっくりと上を見上げました。

革靴、白い靴下、プリーツの紺のスカート、長い黒髪。それをぶら下げる、白い紐が見えました。

の子が紐で首を吊っていました。ゆらゆらと小刻みに揺れる姿が今も忘れられません。

私は聲の限りんで、そこから飛び出しました。その、その時は本の首吊り死だと思ったんです。調理室にるときは見えなかったのにとか、そんなこと気にする余裕もなくて。

職員室に駆け込んで、目の前にいた東野先生に伝えて二人でまた調理室に走りました。先生もかなり迫した様子で走っていました。

でも、調理室に戻ると誰もいませんでした。首吊りも何も。

二人で々確認して、それでも何も見つからなかった。東野先生はその時は、不思議だけど何かの見間違いじゃないかということになりました。絶対見間違いなんかじゃないと思うんですけど。

納得できないまま帰宅しました。待っていた友達には話したけど、半分信じてないようなじでした。

ただ、それから他にも首吊り死を見たという生徒がいて一気に噂が広まったんです。今では、あの目を覚まさない生徒たちも首吊りの霊に呪われたんだとかみんな噂してます……。

「ふむ……」

九條さんが腕を組んで唸る。山田さんは話し終えてほっと息をついていた。九條さんはすぐに質問を浴びせる。

「その目撃した時には、目覚めない生徒がいると知っていましたか」

「あ、はい……確か、一番最初に目覚めなくなった子が眠り始めて三日後だったと思います。ちょうどその日の朝、その子の噂を聞いたんです」

「首吊りの顔は見えましたか」

「いいえ、後ろ姿でした。長い髪のの子で……」

「聲や音は何か聞こえましたか」

「いや何も……」

「質問を変えます。今現在目覚めない四名の生徒たちをご存知で?」

山田さんは首を振った。

「全員クラスも違うし、名前も今回初めて聞きました」

九條さんが黙り込む。その沈黙を、山田さんは気まずそうにして待っていた。もじもじと座りながら必死に手をかしている。

そんな彼がいじらしくて、私はなるべくらかい聲で話しかけた。

「びっくりしちゃいますね、そんなの見たら……」

「あ、ほんとに。今でも鮮明に思い出せるんです、本當にリアルで、幽霊だっていうのも信じられないくらいで」

話していて思い出してしまったのだろうか。彼は自分の腕をさすった。普段視ない人が視えると、突然の恐怖に怯えてしまうのだろう。その気持ちは痛いほどわかる。

それでも、九條さんはお構いなしにいくつか山田さんに質問をし続けた。彼も慣れてきたのか、次第にはっきりした聲でハキハキと答えるようになる。

この學校について、いじめの有無、教師たちについてなど、まるで尋問のように質問を繰り返す九條さんにやや呆れる。たっぷり二十分、山田さんは九條さんの質問に応え続けた。

「なるほど、よくわかりました。たくさん答えて頂いてありがとうございました」

ようやく質問し終えたらしい。山田さんもほっと息をつく。それ以降どこかをみてぼうっとし始める九條さんに変わり、私が山田さんにフォローする。

「すごく助かりました、長々とありがとう」

「い、いえ役立ったのか……」

「もし他にも首吊りを見た知り合いがいたら、ここに來てもらえるよう言ってくれる? 休み時間とかでもいいし」

「あ、はい、わかりました」

山田さんは立ち上がってペコリとお辭儀した。私も深くお辭儀する。

はそのまま教室から立ち去っていく。扉がパタンと閉められた。

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