《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》証言3
まだ十五、六のに容赦ない質問の嵐をぶつけた九條さんに々小言を言ってやろうと向き直った瞬間、再び教室にノックの音が響いた。
「あ、はい!」
私が返事をした瞬間、勢いよく戸が開く。そこからってきたのは、四人の生徒だった。
「あのーー! 首吊り見た人はここで証言しろって聞いたんですけど!」
山田さんとはまるで違うテンションでってきた子達に、目をチカチカさせた。顔を見るに、まるでタイプの違う子たちだとすぐにわかる。中央にいる子はセミロングの髪で、目立ちはしないもののうっすら化粧を施しているのが見えた。可らしい顔立ちの子だった。
多分、私の學生時代の頃最も遠くにいたキラキラグループのの子たちだ。こういう第一印象は、同じならではの印象なのだろうか。
九條さんがチラリとこちらを見る。その瞬間、四人はめき立つように小さな聲をあげた。
さては。私は察する。九條さんをどこかで見て知っていたな? 顔だけは文句なしのポッキー星人に會うのを楽しみに來たに違いない。
彼たちは目をキラキラさせて九條さんを見ていた。
「目撃されたのはどなたですか」
九條さんが尋ねる。中央のセミロングの子が手を挙げた。
「はい、はい! えっと、澤井めぐみといいます!!」
嬉しそうにいうその子を見て、若いなあ、と年寄りみたいなことを思ってしまった。イケメンと関わるだけで友達同士と騒げる、學生ならではのノリだ。ちなみに私は學生時代もそんなノリを味わえていないのだが。
九條さんはひとつ頷き、座ったまま言った。
「では澤井さんのみこちらへ。他の方は外でお待ちいただけますか」
殘念そうにする三人に、澤井さんは嬉しそうにピースして見せた。首吊りの霊を見たというのに、まるでそんなことをじさせない。
三人はそのまま教室から出、澤井さんは九條さんの隣の椅子に腰掛けた。私もとりあえず、澤井さんの隣に座る。
「初めまして、九條といいます」
「黒し」
「九條さん! 何歳なんですか?」
「二十七です」
「私二年です、十個上かあ」
私の自己紹介は完全にスルーされたのをもう突っ込まない。もう澤井さんの眼中に私は存在しないのだ。
やや複雑な気持ちを抑え込み、私は黙ってことのり行きを見守る。
「やっぱり大人ってじですよねえ〜もう蕓能人みた」
「では、あなたが見た験をなるべく細かく話してください」
目をキラキラさせて九條さんを見つめる澤井さんの言葉を遮り、九條さんは促した。
彼は一瞬不服そうにしたものの、すぐに証言を始めた。
証言③ 校舎の裏
えっと、五日前のことです。時刻は放課後の、多分五時半頃だったと思います。
私はその日友達と殘って教室で喋ってたんです。別に普通の話題ですよ、テレビがどうとか先生がどうとか。よくあるんです、帰りに教室で殘ってしお菓子食べたりして。
途中、話してた友達がトイレに行きました。私はその場で待ってて、ぼうっと椅子に座ってたんです。教室には私以外もう誰も殘っていませんでした。
教室は夕焼けの赤に染まってて、何をするでもなくただぼーっとしてたんですけど……。
どこかから、不思議な音が聞こえてきたんです。
こう、ええっと……何かがれる音みたいな。規則的に、ずっ、ずっ、みたいなじ。最初はなんだろーぐらいだったんですけど、しばらく続くもんだから気になっちゃって。
ずっ、ずっ、ずっ
立ち上がってどこから聞こえる音か探しました。それが外から聞こえる音だってすぐにわかって、窓から外を覗いたんです。
私の教室は二階にあります。それで、窓から見えるのは校舎の裏で、すぐそばに大きな木が植えてあるんです。桜の木だったかなあ。
すごく太い幹をしていてしっかりした木なんですけど、その木にぶらさがってました。
の子です。
木の高い場所に紐が括り付けられていて、首を吊ってぶら下がっていました。そのが不自然なほどに揺れていて、まさに今その子が首吊りした直後みたいに見えました。揺れるたびにの子の首がぐにゃぐにゃ人形みたいに揺れて、ゾッとする景でした。の子はびくともかず、それもまた人形のようでした。
あの音は、その子の革靴が木の幹とぶつかってれる音だったんです。
私とにかくびっくりして、その時にはもう首吊りの霊がでるって噂は聞いてたのでそれだって思いました。
トイレに行った友達を探しに行って、二人でもう一度教室に戻ってみましたけど、もう音も首吊りも無くなっていました。あれは絶対見間違いなんかじゃないです。
よくあんなルンルンテンションで話に來たなと心する目撃報だった。視えるのが日常の私でも、いつもいる教室からそんなものをみたらしばらく引きずると思う。メンタルの違いだろうか。
それにしても、育館に調理室、校舎裏と目撃場所はてんでバラバラだ。
九條さんはまたしても、今までと同じ質問を繰り返す。
「顔は見えましたか」
「いや、髪の長いの子ってだけで、後ろ姿でした」
「聲などは聞こえてませんか」
「さすがに」
「今目覚めない四名をご存知で?」
「ああ、一人はクラスメイトです」
九條さんがし前のめりになる。澤井さんは戸うようにややのけぞった。
「どのような方ですか」
「ええ? 至って普通の子ですよ〜の子ですけど、私はそんな仲良くないんですけど……」
澤井さんは考えるように腕を組む。
「例えばクラスでイジメがあったなど」
「ええ? ないない! どちらかといえば地味な子でしたけど、イジメとか無視とかはほんとないですって!」
驚いたように言う澤井さんの言葉に噓はないようにじた。九條さんはそれでも質問を重ねる。
「例えば目覚めなくなった直前、何か変わったことがあったとか」
「特に思い浮かばないですけど〜……」
「他の三名との共通點に心當たりは」
「他の子は知らない子ばっかです。だからよくわかんない」
九條さんはようやく背もたれに背をつけた。しばらく沈黙が流れたあと、話を切り上げるようにして言う。
「分かりました。助かりました、証言ありがとうございました」
今回まるで言葉を発していない私は、ほっとして澤井さんにお禮を言おうとした。がしかし、今度は彼が前のめりになって九條さんに問いかけたのだ。
その表はさっきの証言中とは違い、好奇心旺盛な子高生の顔だ。
「九條さんって、彼いますかー?!」
真意をついた質問に、一瞬私がむせかえる。怖いもの知らずの若さ、この能面男になかなかぶっ込んでくる。
九條さんは表ひとつ変えずに答えた。
「特にいませんが」
「えーー!! こんなにカッコいいのにですかあ! どれくらいいないんですか? あ、最近別れたとかですか?」
「さあ、結構前でしたから」
「ええ! 結構前からいないんですか! しんじらんなーい! 理想高いとかですかね?」
「どうでしょうか」
「今彼候補はいますか?」
「特に」
どきりと心臓が鳴ったあと、勝手に一人しょんぼりと落ち込んだ。いやいや、そりゃそうだ。私なんて彼候補なわけもないし、霊が視えるポッキー管理者としか思われてない。それより、今は彼に候補がいないことに喜ぶべきだ。
……それより。ちらりと二人を見比べた。
九條さんと働き出して一ヶ月以上経つと言うのに、私はまるで聞けていない報をこうも簡単に引き出している。積極、と呼べばいいのだろうか。私にはないパワーだ。
世間話のようにして々聞くことすら臆病だ。以前彼がいないことだけは聞いたことがあったけれど、それっきり。好みのタイプとか、過去の歴とか何も知らない。
は、難しい。
「えーじゃあ……」
「では、我々はやることが山積みですので。他に目撃した友人などがいましたらここへくるよう伝えてください。今日はありがとうございました」
淡々と話を切り上げた九條さんにしほっとする。可い子高生にちやほやされたら普通男なら喜びそうなのに、変わらないテンションが嬉しかった。
澤井さんは不服そうに頬を膨らませたが、意外に素直に出口に向かっていく。
「じゃ、他の目撃者連れてまた來ますからね!」
最後にそう堂々宣言すると、澤井さんはようやく扉を開けて外へと出ていった。廊下で待っていた友人たちがすぐにきゃあきゃあと騒いでいるのがここまで聞こえてくる。
ああ、若いなあ……なんてさっきも思ったことを心で呟くと、隣に座る九條さんを見た。
「さて、目撃場所はバラバラでしたね」
「え? あ、ああそうでしたね……」
ぼうっと他事を考えていた自分は慌てて同意する。いけない、仕事中なのに。
困ったように眉をひそめた九條さんは天井を仰ぐ。
「一応撮影は実行しますがどこに設置するか……あまり期待できそうにない。映ればいいのですが……」
「もうし証言もしいですね……」
「しかし、三名の話からしは共通點が見えましたね。
目撃の時刻は放課後、丁度これからです。誰も首吊りの顔は見えていない。髪の長い生徒であることも同じ、と」
そう一人納得したように話すと、彼はガタリと立ち上がった。
「さっきよりは生徒たちも人數が減っているはず。さん、ちょっと探しに行きませんか」
「え、探しって」
九條さんはスタスタと歩きながら扉へ向かう。
「首吊りを繰り返す生徒、どこで會えるでしょうね」
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