《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》夕方の校舎

いつのまにか、夕日が差し込む時間帯になっていた。澤井さんの証言でも確か夕方での目撃報だった。結構明るいうちから出現するようだ。

私たちは教室から出て、來る時より大分寂しくなった廊下を歩く。みな帰宅したか、部活に勵んでいるのだろう。

それでもまだ頻繁に人とすれ違う機會はある。隣を通る生徒たちは、誰しもが好奇の眼差しでこちらを見ていた。九條さんさんのビジュアルが目立つこと、さらには首吊り霊の調査に來た者たちだなんてそりゃ見てしまうだろう。

磨き抜かれた廊下を無言で歩いていると、廊下に時折嫌なものが視える。しゃがみ込んだ老婆に壁に向かって歩き通り抜けていくサラリーマン。やはり學校とは々なものが集まって來る。

なるべくそれらとは目を合わせないように、私は自然を裝って歩いていく。學生だった頃に比べれば長したなと思った。

「やはり々いますね」

ポツンと九條さんが言う。隣を見上げ、その白いを眺めた。そうか、一緒に視える九條さんが隣にいることも、冷靜でいられる一つの理由なのかもしれない。

「ですね……ちょっと嫌なのもいますけど、まあよくあるレベルですかね」

「あなたはハッキリ視えてしまいますからね。無理はしないでください」

「あ、ありがとうございます」

気遣いの言葉に一人微笑むと、ふと九條さんが足を止める。

「ここ、調理室ではないですか」

「え? あ、そうですね!」

目の前のプレートには『調理室』と書かれていた。中の様子を伺うも、何も聞こえてはこない。今日は山田さんが所屬している調理部はお休みらしい。

私たちは無言でその扉を開いてみた。なかなかの広さがある教室だ。銀のシンクたちがっている。

私は天井を見上げた。特に何もない真っ白な天井だ。ここから紐との子がぶら下がってきたのか……。

九條さんと二人キョロキョロとあたりを見回す。だが特に何も収穫はなさそうだった。至って普通の調理室だ。

「何もじませんが……さんはどうですか」

「私も別に……むしろ廊下の方が嫌でした」

「さて、まずは首吊りと出會うまでに時間がかかりそうですね。困りました」

九條さんは眉をひそめて再び廊下へ出る。

「とりあえず臺車と校の見取り図がしいので一旦職員室へ行こうと思います、あとは出るのをひたすら待つ……夜、學校の探検でもしましょうか」

そう言い放った九條さんの言葉に、納得した瞬間嫌な予がする。私は勢いよく彼の顔を見上げた。

「どうしました」

「いえ、流れとしては特に文句はありませんし妥當だと思いますが……

夜の校探索、まさか別行じゃないですよね?」

恐る恐る訪ねた。九條さんはキョトンとして私を見る。

「二手に分かれた方が効率的でしょう」

勘弁してくれ! 私は心の中でび眩暈を覚えた。

晝間ならまだしも、夜の學校を一人で歩きまわれと? 首吊りの霊が出ることもわかっているのに!?

「どうしましたさん」

「私無理です! 學校ですよ? 夜ですよ? 一人なんて怖すぎます!」

「これだけ様々な霊をみてきたのにまだ怖いんですか」

「ええめちゃくちゃ怖いですよ!」

「変わった人ですね」

「どの口が言ってるんですか?」

強く彼を睨みつけた。九條さんにだけは言われたくない臺詞だ、この人以上の変わった人は存在しないだろうに。

「非効率的なのは承知ですけど……夜一人にはさせないでください、本當にこれだけはお願いします!」

私は手を合わせて拝んだ。晝間ですら廊下にこんなにウヨウヨ変なものがいるのに、夜なんて耐えられない。

九條さんはふうと一旦息をつくと、仕方ないとばかりに許可した。

「まああなたは私より鮮明に見えてしまいますからね、恐怖心が強くなっても仕方ないですか。わかりました」

「はあ……命拾いした……」

「トイレもついていってあげましょうか」

「は、はあ!?」

「冗談です」

真顔でよくわからない冗談を言った彼に呆れたとき、ちょうどすぐそばに職員室を発見した。九條さんはそのまま中へとっていった。私のその背中に慌ててついていく。

扉を開けて見えたのはどこか懐かしい景だった。多くのデスクにコピー機。まだ多くの教師たちが殘っていて作業していた。

が、何名かはこちらを見た後怪訝そうな顔をする。首吊り霊の調査という得の知れない私たちに、反を持っているのは明白だった。

遠くに座っていた東野さんが私たちに気づいてくれる。立ち上がり急足で駆けてきてくれた。

「どうされました」

「お借りしたいものが」

「はい、なんなりと!」

東野さんは非常に優しく対応してくれた。そこで私たちは臺車や校の見取り図をお願いする。

見取り図はすぐに手にった。東野さんは近くにあった引き出しの一つから紙を取り出し、私たちに差し出す。

「これですね。どうぞ」

け取った紙を二人で見下ろした。なんの変哲もない、よくある平面図だ。

「生徒たちの教室は二階、三階、四階になっています。ですが三年生はもう卒業したので、そこの教室は使ってませんね」

「あ、そうか、三年生は卒業式も終えたんですね……」

今が三月だということをすっかり忘れていた。あとしすれば、今度は春休みに突するシーズンなのだ。

今現在いるのは一年生と二年生のみか。

「どこも基本出りは自由にしてもらってかまいませんが、部室とかは生徒たちも驚くので避けていただければ。あ、シャワールームもありますよ、使われるならご自由に」

「あ、シャワールームですか!」

喜びの聲をあげたのは私だ。九條さんは興味ないですとばかりに無言を貫いている。

何日かかるか分からない調査だ、いちいち銭湯を探して足を運ぶのも億劫だ。現場で済ませれるならそれに越したことはない。

「合宿とかした時のためのものですけど、今は合宿もしてないし使ってませんから」

「多分使わせてもらうと思います、ありがとうございます」

「あとは臺車ですね。外にある倉庫にあるから、一緒に行きましょうか」

そう提案してくれた東野さんに続いて職員室を後にする。ちらりと後ろを振り返ると、やっぱり冷たい目でこちらを見ている人たちを目が合った。

こういう目、慣れてる。でも、やっぱり辛い。

東野さんは霊を目撃したということで職員の中でも浮いてしまったと言っていた。教育者たちが心霊調査事務所なんて怪しげな者たちを疎ましく思うのはわかるが、ともに働く仲間の言葉は信じてもいいのに。

視えない者と視える者は、分かり合えることは難しい。

東野さんに臺車をお借りし、私たちは一度駐車場へ來ていた。中にある機材を、とりあえず一旦運び出すのだ。

ただそれをどこに設置するかは未だ決めかねている。首吊り霊が出る場所はバラバラで、次にどこに出現するか見當がつかないからだ。

私はとりあえずキャリーケースを取り出す。九條さんはトランクから大きなモニターを臺車に移していく。

「誰も首吊りの顔を見ていないというのが、どうも引っかかります」

ごちゃごちゃしたコード類を束ねながら、彼が言う。確かに、今までの目撃報の共通點の一つだ。

私はううんと考えながら答えた。

「まあ、顔が見えにくい霊って珍しいわけではないと思いますが」

よくあることといえばよくあることだ。彼らはどう言うわけかその顔を隠したがることが多々ある。酷く俯いてたり、こちらに背を向けていたり。

九條さんは一旦トランクを閉じる。彼の隣に行き、臺車からし落ちているコードを手に取ってしっかり乗せる。

「まあそれもそうですが……その首吊りの霊の正が分かれば、前進できる気がするのです。それが一誰なのか、重要なことですから。そこから目覚めない現象の原因がわかるかもしれない」

「でも最近自殺した生徒はいないっていうし……」

「ふむ、不可解ですね」

車の鍵をかけた後、ゆっくり臺車を押しながら九條さんが歩き出す。なんだか彼が臺車を押してる姿って違和だ、いつも荷なんて持たずに歩いていることが多いから。

私もキャリーケースを引きながら隣に並ぶ。

「まあ後で伊藤さんの報収集の結果を聞きましょう。學校側が隠蔽してるだけで自殺者がいるかもしれない」

「はい」

「それと、もし首吊り霊に會った時はよろしくお願いしますさん」

「え、私ですか?」

キョトンとして隣を見る。九條さんが無表のまま言った。

「私は霊の姿がはっきり視えないので。首を吊ってる者の顔を確認できるのはあなただけです」

げ。そんな下品な聲が自分のかられた。

いや、それはその通りなのだ。むしろ、私が事務所に貢獻できる絶好のチャンスはこう言う時。九條さんほど頭も回らないし、しっかり霊の姿を見ることしか出來ない。

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