《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》トイレが怖い
九條さんがそう尋ねた瞬間だった。突如ドアが勢いよく開かれたのだ。
はっとした瞬間には、もうの霊は跡形もなく消えてしまっていた。中には機や椅子、多くの資料などが雑に置いてある部屋のみ。
しん、とした沈黙が流れる。私は未だしゃがみ込んだまま停止していた。
首吊り。ドアノブに紐を繋げての。
「……逃げられましたね」
悔しそうな九條さんの聲がする。私ははあっと息を大きく吐き、両手で顔を覆った。
「さん顔は見えましたか」
「いいえ、橫からの姿で、ひどく俯いてましたから……ロングヘアで顔は覆われていたし」
「でしょうね。形から見て、ドアノブを使用しての首吊り、ですか?」
「その通りです……」
あんな至近距離で首吊り姿。私の心臓は一旦止まったかと思った。
夕方に見た窓から飛び降りるタイプとはまた違った首吊り方法。一なぜ、あの霊はこんなにも首吊りを繰り返しているんだろう。
「九條さんは何か聞こえたんですか?」
「いいえ、聲ではなくはじめ音が聞こえたんです。會話は何もできてません、しようとしたら消えてしまったので」
「……心臓に悪い」
「それにしても、今度はドアノブを使っての首吊り……やはり、微妙にやり方に差がある……。これは一?」
「というか、この學校にきて半日で二度も遭遇できるなんて運がいいんだか悪いんだか、ですね」
私はしゃがみ込んだまま低い聲でそう獨り言のように呟いた。普通霊って最初は大人しくなることが多いのに、今回はすでに二回もお會いできてる。
ふと九條さんの顔を見上げると、彼は目を丸くして私を見下ろしていた。その表に驚く。
「え、何ですか、なんか変なこと言いましたか私?」
「いえ、最もです。確かに出向いてすぐに霊を見つけるパターンもありますが、これだけ広い空間で探し回らねばならない狀況にしてはなかなかの確率です」
それだけ言うと、九條さんはじっと誰もいない生徒會室を見つめた。私も何となく視線の先を追ってみるが、とく何も珍しいものはない。
私たちはそのまま、ただ黙って考え込んでいた。
その後控え室に戻り、私たちはどっと疲れたを休ませるために一度仮眠を取ろうという話になった。九條さんは教室にある椅子や機をいそいそと運んでは寢床の準備をしていた。
私はといえば、だ。
もう時刻は日付も変わり、これから睡眠となる。今日の浴は諦めている、明日晝間どこかでシャワー室を借りよう。
ただ、化粧を落として顔を洗いたかった。メイクをしたまま眠るのはとして斷固避けたい。
ここで一つ問題が生じていた。比較的分かりやすい問題點だ。
『怖い』。
私は椅子を並べる九條さんの背中を見ながら悩んでいた。夕飯を食べ終えた後歯を磨いた時、なぜ化粧も落としておかなかったんだ。なけなしのとしての意識が働いてしまった。
この教室は廊下の一番端に存在していた。トイレはというと、教室を出てしばらく歩かねばならない。あの暗い廊下を歩いて、誰もいないトイレに行って、電気をつけて、広いトイレの中で顔を洗わねばならない。
正直に認める。夜の學校は私の想像を絶して怖かったのだ。
しかも先ほど至近距離で首吊りの霊を新たに見てしまい、私の恐怖アンテナはビンビンなのだ。
「…………九條さん」
私は恐る恐る聲をかける。彼は手を止めることなく答えた。
「はいなんですか」
「お願いが、あるんです」
「はあ、なんでしょう」
「…………トイレ著いてきてくれませんか」
まさかさっきこの男がかました冗談が現実になってしまうと誰が想像しただろうか。自分の愚かさに呆れる。
ピタリと手を止めた九條さんが振り返る。
「……子供ですか」
ああ、子供向けゲームに一日ハマるような人に言われてしまった。でも今だけは言い返せない。私は項垂れた。
「お願いします、怖いんです。さっき近くで首吊り見ちゃったし、何よりトイレこの部屋から結構遠いんですもん……せめて目の前にあってくれればなんとかなったのに」
「…………」
私は恥を捨てて九條さんにお願いした。そもそも霊を視る仕事とわかって就職したくせに、なんて頼りないんだと思われても仕方ない。
しばらく沈黙が流れ、流石に呆れてられてしまったかと落ち込んでいた時、小さく吹き出す聲が聞こえた。
ぱっと顔を上げると、九條さんが俯いて肩を震わせながら笑っていた。くっくっと笑いを堪えているような聲がれてくる。そんな姿を見たのは初めてのことで、私は唖然としてその景を見ていた。
いつだって九條さんは能面みたいな顔してて、時々微笑むのすら貴重だっていうのに。
「あ、あの……」
おずおずと聲をかけると、ようやく顔を上げてこちらを見た。その顔はどこか子供らしさをじる微笑みだった。不覚にも、そんな顔を見てしまってとんでもなく心臓が鳴ってしまう。これは反則だ、てゆうか何がそんなに面白かったの?
「面白いですね」
「え、な、何がですか……!」
「まさかこんな大人にトイレに著いてきてくれと言われる経験をするなど、思ってませんでした」
「す、すみません……」
「いいえ、別にそれぐらい構いませんよ、確かに先ほど至近距離で霊を目撃してしまいましたしね。では行きましょうか」
すんなりと私の要に答えてくれた九條さんは、早速教室から出ていく。私は慌てて洗面道をキャリーケースから引っ張りだすと、その背中を追った。薄暗い廊下にでるも、九條さんの隣に並ぶと恐怖心はだいぶ薄れる。
なんだか意外だった。そりゃ、一人で行けって冷たく斷るようなことはないだろうなとは思っていたけれど、あんなに笑って快く來てくれるなんて。
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