《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》子トイレの前で一悶著

「ありがとうございます、助かりました……」

「いえ、私は基本人への気遣いなど用なことはできないので、何かあればそうやって言ってくれればいいんです」

どこからかい口調に、が溫かくなる。まあ確かに、びっくりするくらいマイペースで他人のことはお構いなしだけど、九條さんって実は他人に興味ないわけではないんだよね。最近分かってきた。

さっきも伊藤さんに目覚めなくなったら困るなんて言ってたし、多分この人は優しいんだよなあ。じゃなかったら私の自殺を止めたりなんてしてくれるわけない。

……それに気づいているから、こうして意識してしまってるくせに。

「まあ確かに、これだけ広い場所に人がいないというだけで不気味さは出てきますね、人間の心理とは脆いものです」

「九條さんの心は全然脆いように見えませんけど」

「調査を重ねて慣れただけです。今までは一人でやってきたので」

「! そ、それもそうでしたね……!」

今更ながら信じられない。確かに私がるまでは九條さん一人で依頼を全てこなしていたんだ。病院だって學校だって、霊が出る家にだっていつも一人で臨んでいたのか。

鋼の心臓の持ち主だ……私なら絶対無理、慣れるまで達さないと思う。

「そう思えばすごすぎですね九條さん……信じられません……!」

「まあ、伊藤さんやさんがってきた事でだいぶやりやすくなりましたから。今はかなり負擔が減りました」

とても嬉しいお言葉をいただいたが、伊藤さんはともかく私が九條さんの負擔を減らせている実はあまりないのだけれど。

もうちょっと手柄がしいなあ……

そうぼんやり考えていると子トイレに到著する。ほっと息をついて中にった時、隣にいた九條さんも素知らぬ顔をしてってきたのに気づいて橫を二度見した。まるで自分もです、みたいな顔をしてってくる。

「え、え!? く、九條さん中まではらなくていいですよ!」

慌てて彼のを押して外へ追いやる。九條さんはし首を傾げて平然と言った。

「一人は怖いのではないですか」

「だ、だってここ子トイレですよ!?」

「今はさんしかいないからいいでしょう」

「よいわけあるか! トイレの前で待っててください!!」

私に強く押されながら、やや不服そうに目を座らせる。せっかく著いてきたのに追い出すなんて納得いかない、という顔だろうか。

「いくら人がいなくても子トイレは!」

「以前ぼうっとして間違えてってしまったことはあります」

「は!?」

ってすぐと鉢合わせたので間違いに気づいたのですが」

普通間違えるだろうか? ぼうっとしてても、子トイレと男子トイレ間違えるって!

「そ、それ大丈夫でした!? 癡漢扱いされませんでした?」

「素直に間違えましたすみませんと謝ったら、しょうがないですよねえと笑ってましたよ」

「……九條さんって、ほんとその顔面でよかったですよね」

私は嫌味っぽく言ってやった。この人の変人合、顔がだいぶフォローしてくれてると思う。この顔じゃなかったら人生終わってたかもしれない。

「顔? 顔は今関係ないのでは」

「むしろ顔しか関係ありませんよ。

とにかくしの間だけ待っててください! お願いします!」

私はそう斷言しながら九條さんを外へと追いやった。渋々彼は外で立ち止まる。思えば確かにトイレまで著いてきてもらっておきながら外で一人放置させるのはあんまりかもしれないがら仕方ない。

私は急いで子トイレの中へっていった。

翌朝。

固い椅子の上で寢たせいで睡できたとは言えない目覚めだった。私と九條さんは朝食を食べる間も無く、すぐに設置してあった撮影機材を回収した。

朝っぱらからの重労働に私はすでに疲労困憊だが、九條さんは相変わらず飄々として働いていた。

途中見かけた校にある自販売機で、飲みとパンを購する。

朝が訪れたというだけで、校は爽やかな學校へと変するのだからすごい。夜中の不気味さはどこへやら、誰もいない校舎は開放で満ちているとさえ思った。

控え室に戻り、撮影機材でやや狹くなった部屋で朝食タイムとする。九條さんは私がパンを差し出す前にポッキーを取り出し、それをかじりながら夜間撮影した映像を早速再生していた。

「九條さん、朝から良くポッキーなんて食べれますね」

私は椅子に腰掛けて呆れながらいう。

「むしろ忙しい朝にはピッタリではないですか。手も汚れず調理いらずで簡易的」

「朝じゃなくても食べてるくせに……」

したパンを齧る。あまり食のない朝だった。夜遅くまで歩き回り、恐怖心と闘っていた疲労のせいだろうか。

私の隣の椅子に腰掛け、早送りしながら九條さんは畫面を見つめた。あまり期待していない顔だった。

「さて、平日の今日は生徒たちがいる中でやたら歩き回るのもいかがなものかと思いますし、晝間はゆっくりしましょうか。また証言があれば聞くくらいのスタンスで」

「はーい」

「夕方になったら散策開始、夜にはまた撮影。まあ果たしてこの撮影も意味があるのかどうか、ですが……」

はあとため息をつきながら九條さんが言った。

今回設置したのは四箇所。校舎全を映すところと、後はまさに『適當』に設置したものだ。一年生の教室の一つ、化學室、食堂。

「生徒會室に設置すればよかったですねえ……」

私はパンをもぐもぐと咀嚼しながら聲をらした。昨日せっかくあそこに出たのに。

「まあ仕方ありませんね、こればっかりは運……」

言いかけた九條さんの言葉が止まる。私はその理由がわかっていた。

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