《モフモフの魔導師》12 モフモフの魔導師
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
ウォルトは、オーレンとアニカを見送ったあと不穏な気配をじた。鼻と耳がピクリと反応する。
「やっぱり、こうなるのか…」
ふぅ…と溜息を吐いて気配のする方角へと全力で駆け出す。人間を遙かに凌駕する速度で木の間をうように森を駆ける。
すぐに気配のする場所へと辿り著くと、気配の主に語りかけた。
「引き下がってくれないか?」
眼前では、オーレン達が戦ったと覚しきムーンリングベアが唸りを上げている。
皮は焼け爛れて右腕には刀傷。話に聞いた通りで、ほぼ間違いない。火傷や傷が化膿しているのか匂いが酷い。だからこそ、距離があっても匂いに気付けた。
2人がムーンリングベアと戦ったと聞いたとき、こうなる可能に気付いていた。
この魔は、狙いを定めた獲をとことん追い詰める習がある。鋭い嗅覚と記憶力で獲を狩るまで逃がさない。そんなしつこさを持つ魔。
「彼らは大切な友人なんだ。その傷はボクが代わりに治す。だから、大人しく住処に戻ってくれないか?」
獣人は、獣型の魔や森のとある程度の意思疎通ができる。でも、意思疎通の度合は人による。自分で言うのもなんだけど、できる方だと思ってる。
魔と対峙したまま、右手を翳して詠唱した。
『治癒(クラウル)』
「グルルル……ガァッ…?」
ムーンリングベアを淡いが包み込み、焼け爛れた皮と傷付いた前足がみるみるうちに回復する。
魔は、突然そのを包んだ魔法に驚いた様子だったけど、痛みが引いたことに気付いた次の瞬間には怒りをわにする。
「グ……ガァァァ!!」
魔は凄まじい咆哮とともに駆け出す。その進行方向は、オーレン達の帰路と同じ方角。
「ダメか。怒りで我を忘れてる」
先回りするために後を追う。
疾走するスピードは魔より速い。余裕で回り込むと、再び魔と対峙する。
「グァァォォ!」
魔は『邪魔をするな!』とばかりに前足を振り回して攻撃してきた。冷靜にを躱して距離をとる。
「もう一度だけ言う…。住処に帰ってくれないか…?」
「グルァァ!キシャァ!」
興が収まらないといった様子の魔は、爪で牙で、と猛攻を仕掛けてくる。
攻撃を捌きながら、魔の走った目や剝き出しの牙に『止まる意志はない』と判斷して、説得を諦め覚悟を決める。
魔を回復させたのはボクだ。だから…責任をとらなきゃならない。
「これ以上、進ませるわけにはいかない」
魔から距離をとってに魔力を纏う。ほぼ同時に、跳びかかろうと魔が立ち上がった。
『疾風(トゥール)』
翳した掌から風の刃を放つ。
絶え間なく唸り聲を上げていた魔のきがピタリと止まったかと思うと、頭部がズルリとり落ちる。
切斷された首からはが溢れ、程なくして巨は崩れ落ち、完全にきを止めた。
かなくなった魔を見下ろしながら、オーレンとアニカに想いを馳せる。
『ボクが2人にしてあげられるのはここまでだ。2人とも…元気で』
あの2人にまた冒険してもらいたい。心からそう願った。
★
ボクは…生まれつきも小さくて、痩せっぽちで獣人の特徴である頑強さや屈強な力を持たない。いくら鍛えても能力はびなくて、力はいつまで経っても獣人の中では底辺だ。
そのことが原因で、い頃から『お前は獣人らしくない』『お前みたいな奴は獣人じゃない』と他の獣人から揶揄され蔑まれてきた。
だから…小さな頃から『自分は獣人らしくないんだ…』と自的に何を誇ることもなくひっそり生きてきた。
でも…アニカが教えてくれた。
人間と同じでんな獣人がいると…。ボクは、優しくて立派な獣人に見えると…。
その言葉が嬉しくて、おかしいのは自分の考え方なのだと素直に思えた。
アニカに……心を救われた気がした。
★
「う~ん…。どうしよう?」
魔とはいえ、死をこのまま放置するのは忍びない。食べるにしても、獨りでこの量は食べきれない。
となると…。
「森に還そう」
目を閉じて詠唱する。
『昇天(センシオン)』
橫たわったムーンリングベアの周りに生えている植がグングンびて、橫たわる巨を包み込む。
やがて地面に吸収されるように消滅して、その後には短時間で驚くほど長した草木が凜として生えている。
「これでよし。帰ろう」
そういえば、アニカは魔法を使えると言っていた。また會うことがあったら魔法の話をしてみたいな。
2人には黙っていたけど、実際は回復薬ではなく『治癒』の魔法を使ってオーレン達を治療した。
倒れている2人を発見したとき、酷い出と傷の深さから、とても薬だけで治療できる狀態じゃなかった。直ぐに『治癒』で回復しなければ命を落としていた。
そんな事実を伝えず、魔法を使えることを黙っているのにはボクなりの理由がある。
それは【獣人は魔法を使えない】のが世界の常識だということ。
歴史上、誰1人として魔法を使える獣人は存在しなかったと云われてる。だから、信じてはもらえないだろうと回復薬だけで治療したことにした。
『獣人が魔法を使える』と『回復薬で綺麗に傷が無くなった』のどちらを信じるかと聞かれたら、十中八九、後者だとボクも思う。
もし正直に伝えていれば、オーレン達は信じてくれた…かもしれない。
でも、今まで助けた冒険者や旅人に誰1人として信じてくれた者はいなかった。中には『噓つき』と罵る者さえいた。
「実際、魔法を見せてくれ」とすら言われず、「頭のおかしい獣人だ」と呆れたような表を浮かべられる。
あの表は、もう見たくない。
そんな理由もあって、いつしか魔法を使えることを他人に隠すようになった。
急の場合を除けば人前で魔法を詠唱することはないし、口に出すこともしない。誰にも話さなければ疑われることも自分が傷付くこともない。
「魔法を使えない」という噓も吐きたくないから、何も言わずに黙っているだけだ。
でも…何故だろう。不思議とオーレンとアニカには伝えてもいいと思えた。
『きっとあの2人は信じてくれる』
そんな気がした。
「いつかまた會えたら、噓を吐いて黙ってたこと謝らなきゃいけないな」
そんな在るかも解らない未來を楽しみにしながら、獨りになってしまった住み家への帰路につく。
そして、別れから3日後…。
オーレンとアニカが街で買った手土産持參で現れて、ウォルトは驚くことになる。
読んで頂きありがとうございます。
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