《モフモフの魔導師》18 ウォルトの過去
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
ウォルトとマードックが、初めての毆り合いを終えて、目を覚ましたマードックの言う通り、街へ向かうことに決めた2人。
「おい、まだか!さっさと準備しろ!」
イライラしている様子のマードック。昔から短気でせっかちなのは変わってない。
「そう急かすなよ。これでよし」
もし自分がいない間にアニカ達が訪れてもいいように、書き置きしておく。2人には合い鍵を渡してあるから安心だ。
ほんのし前までなら、有り得なかった自分の行に思わず顔が綻ぶ。
「じゃあ、行こう」
「さっきから言ってんだろ!行くぞ!」
ホントにせっかちだな、と苦笑する。
住み家を出て森へると、脇目も振らず街へと向かう。その道中で、マードックが冗談じりに言ってくる。
「サマラに會っても泣くなよ」
ふっと上を向いて答えた。
「ボクは笑うために行くんだ」
優しい笑顔を浮かべるウォルトの言葉を聞いて、マードックは複雑な表を浮かべる。
『コイツは優しすぎる…。昔から…』
本當ならサマラの橫に立っているのはコイツのはずだった。
小さな頃からサマラがウォルトに好意を持っているのは解ってたし、逆もまた然り。
コイツは、賢いくせに人の気持ちにはとんでもなく鈍い。サマラの気持ちには気付いてなかったかもしれねぇ。
2人は誰が見ても好き合ってた。けど、周りの獣人はウォルトの獣人らしからぬ容姿や格を問題視した。他ならぬ…俺達の両親もだ。
びいきじゃなく、サマラは大きくなるにつれしく長した。そのに沢山の獣人の野郎共から好意を寄せられるようになる。
そんな奴らは、到底ウォルトのような貧弱な獣人がサマラの人になるなんて認められねぇ!と吠えて、様々な嫌がらせや暴力で痛めつけた。
そうでなくても「獣人らしくねぇ」と日々蔑まれていたのに、追い打ちをかけるように扱いは酷くなった。
獣人の世界じゃ、強さが正義だ。
ウォルトは……獣人として弱過ぎた。
あまりに弱すぎたから、庇いきれなかった部分はある。家族でもねぇのに四六時中守ってやることはできねぇし、いくら友達でもそんな義理もねぇ。何よりアイツの獣人としてのプライドを傷付ける。一時期は、會う度ボロボロになってた。
獣人にはあり得ないほどの優しかろうが、どんだけ頭が良かろうが、そんなモンで自分のは守れねぇ。
アイツらは、いつか番うことを夢見てたはずだ。けど…ある日突然ウォルトが街から姿を消した。
毎日のように他の獣人からけるリンチみてぇな扱いに、と心がボロボロになって耐えきれなくなったと聞いたのは再會した後だ…。
ウォルトがいなくなった後のサマラは、憔悴しきってた。見るのも痛々しかった。あの頃……俺はウォルトを恨んだ。
けど、サマラは恨んでなかった。むしろ自分に関わったせいでウォルトが犠牲になったと自分を責めてた。
姿を消したウォルトの行方が解ったのは、行方を眩まして3年過ぎた頃だったか。
若ぇ冒険者が森の中で獣人に助けられたと言いだした。聞けば魔法のようなものを使えるらしい、という眉唾の報まで出てきた。
その話を聞いて『獣人が魔法を使うなんて法螺話だろ。馬鹿馬鹿しい』と思ったが、同時に『ウォルトならあり得る…』と思った。
獣人の記憶力は決して悪くねぇ。ただ、複雑なことを覚えるのが苦手で、魔法の式を覚えるなんてできっこねぇ。頭が発する。
けど、ウォルトは計算や記憶が得意で、人間でも難解な問題すら解いてやがった。そんな獣人離れした能力も、獣人らしくねぇと蔑まれる一因だったけどな。
その後、半信半疑で冒険者に聞いた場所に向かうと、黒いローブを著た見覚えのある獣人がいた。數年ぶりに會うウォルトだ。
俺は、ウォルトが生きてたら見つけた瞬間にぶん毆るつもりだった。…けど、俺を見つけると力無く笑いながら歓迎しやがった。拍子抜けして、毆るタイミングを失った。
そして、姿を消した経緯やその後の生活を聞いた。
そん時「と神の限界だったのが一番の理由だ。でも、自分がいくら努力してもサマラの橫には立てない。それも姿を消した理由の1つだ」と言われた。
「ボクが獣人である以上、獣人社會の慣例を完全に無視できない。…いくら鍛えても強くなれないボクが、皆に認められることは絶対にない。ボクといることで、サマラにまで迷をかけたくない」と。
俺は…ウォルトの想いを聞いて、サマラのことを口にするのをやめた。そして…昔みてぇにただの友達として、たまに顔を見にいくことにした。
サマラには緒で…。
★
「お前が街に行くのはいつぶりだ?」
「3年ぶりだ。最後に行ったのは、再會する前だからな」
「何しに來たんだ?」
「調味料を買いに來た。すぐに帰ったけど」
「そん時、どう思った?」
「もう2度と來ることはないと思った」
「冷たい奴だ。顔ぐらい見せりゃよかったのによ」
「住み家が変わってないとは限らないし、悪いけど…その時は會いたいと思わなかった。それに、お前もボクは死んだと思ってたろ?」
「まぁな」
會話しながら森を抜けて、しばらく進むと遠くに街が見えてきた。
マードック達が住み、ウォルトも住んだことのある【フクーベ】の街。
ウォルトは目を細めて、ピスピスと鼻をかす。
「懐かしいな。フクーベの匂いだ」
「もう解るのかよ!?どうなってんだ、その鼻?」
まだ街は小さくしか見えねぇ。いくら風下とはいえ遠すぎる。何の匂いがするってんだ?コイツの嗅覚が異常なのは昔からだ。
「街は、んな匂いでごった返してるから解りやすい。集中して嗅いだら誰でも解る。昔より、幾つか匂いの種類が増えてるな」
「そんなの、獣人でも絶対お前だけだ」
數年ぶりなのに匂いを覚えてて、種類まで判別できる獣人なんているわけねぇ。けど、コイツが噓を吐かねぇのは知ってる。
なくとも、俺は五の鋭さでウォルトの上をいく獣人に會ったことがねぇ。俺達がガキだった頃から、コイツの覚はぶっ飛んでた。
その後も、迷いなく街へと歩みを進めるウォルトの姿を見て、いまさら複雑な気持ちが湧き上がる。
コイツには、フクーベに良い思い出など1つも無いはず。本當は近寄りたくもねぇだろう。無理やりに近い形でここまで連れて來たことに罪悪が無くはねぇ。
本人は「自分が逢いたくなった」っつってっけど、サマラに會って話してもコイツにとっては辛いだけかもしれねぇ。
それでもコイツらを會わせてぇんだ。
2人の現狀を知っているのは俺だけだ。今はそれぞれ笑って過ごしてる。けど、ウォルトの失蹤はお互いにしこりとして殘ってるはずだ。それは間違いねぇ。
會って…2人にケジメをつけさせてやりてぇ。
やがて街の口に到著すると、ウォルトは懐かしげに開かれた門を見上げる。マードックは隣に並び立ち、視線を同じくして尋ねた。
「ココまで來て言うのも何だけどよ、ホントに良かったのか?……今ならまだよ」
「大丈夫だ。ボクがサマラに會いたくて來た。気にしないでくれ。さっきも言ったけど、ボクは笑うためにフクーベ(ここ)に來たんだ」
微笑むウォルトを見て、悩むのをやめた。元々自分が言い出したことだ。今さら男らしくねぇな。
「行くぞ」
「あぁ」
俺達はフクーベの街に足を踏みれた。
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