《モフモフの魔導師》19 まぬ再會
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
フクーベに足を踏みれた2人は、「とりあえず飯でも食うか」というマードックの提案で食事に行くことに決めた。
ウォルトは歩きながら街を見渡す。
『たった3年で、結構変わってるな』
街の景観はボクが住んでいた頃とは大きく様変わりしていて、何処が良い店か見當もつかないので、店選びはマードックに任せよう。
マードックの薦めた店にると、通されたテーブルに座る。どうやら、まだ混み合う時間ではないみたいだ。
「どうだ。久しぶりの街は?」
「人が多いな。昔より増えたんじゃないか?」
「そりゃそうだろ。まだ発展してるぜ」
「凄いな。まだ大きくなるのか」
他のない會話をしていると、直ぐに1人の獣人が歩み寄ってくる。その獣人は唸るような野太い聲で話し掛けてきた。
「おい、マードック。珍しい奴を連れてるな」
「あん?ティーガか。いたのかよ」
その男はボクもよく知る獣人。近づいてるのは匂いで解ってた。良く覚えてる…嫌いな匂いだ。
「おい!ウォルト!」
「なんだ?」
「あぁん!?馴れ馴れしいぞテメェ!やんのか?!アァン?!」
意味が解らない。自分が話しかけておいて、酷い言い草だ。一気に店の注目を集めてしまって、他のお客さんに申し訳ない。獣人は聲がデカい。
目の前の騒がしい獣人ティーガは、虎の獣人で大柄な格。マードックよりは小さいけど、大きな牙に白と灰の縞模様がった皮は威圧充分。容姿もほぼ虎そのもので、人間っぽさはない。
ティーガは昔からサマラに惚れていて、ことある毎にボク嫌がらせをした。だからこそ匂いも良く覚えてる。
「うるせぇな。ところで、何か用かよ?」
「尾を丸めて逃げた、どこぞの貓と一緒にいたもんだから気になってな。別に用はねぇよ」
「そうかよ。じゃあな」
「あぁ。おい、ウォルト」
「なんだ?」
「うるせぇぞ、ゴルァ!やっちまうぞ、ゴルァ!あぁん!?」
騒音再び…。いい加減にしてしい。
とにかく無駄に聲がデカい。咆吼をあげるように聲を出すから店にとっては迷極まりない存在。
ティーガのような奴がいるから、獣人は橫暴だとか暴だと他の種族に言われるんだと思う。余りのやかましさに耳をパタンと閉じた。
「うるせぇのはお前だ、バカ」
「けっ!」
マードックに軽く睨まれたティーガは、ボクを睨み付けながら肩で風切るようにして店を後にする。
「相変わらだな、ティーガは」
「何も変わりゃしねぇよ。ガキのままデカくなったような奴だからな」
そうこうしていると、食事が運ばれて來たので頂くことにする。見たことのない料理だったけど、とても味しくて満足した。
食事を終えて店を出ると、歩き出したところで鼻を鳴らして立ち止まる。また懐かしくて…嫌いな匂いがした。溜息を1つこぼす。
「ふぅ…。全然変わってないな…」
「無視していいだろ。どうすんだ?」
どうやらマードックも気付いているみたいだな。
「せっかく來てくれたんだ。ちょっと挨拶してくる。しだけ待っててくれ」
「なら、ちょっとんとこ寄ってくるわ」と言って近くの建を指差す。
マードックは獣人の中でもかなり強いので、昔からにモテる。風貌より強さが獣人のモテる要素だからだ。
ただ、マードックは見た目とは裏腹にに紳士で優しいのを知ってる。侍らすようなこともしない。にも厳しいのは口調だけだ。
別れてすぐ、建と建の間、細い路地にる。何人かの獣人が後を追うようについてきた。その中にはさっき會ったばかりのティーガもいる。全員、ボクの顔見知りだ。
「久しぶりだな…ウォルトォォ!…つうか、てめぇ死んでなかったのか!」
「今さらフクーベに帰ってきて、どういうつもりだぁ?」
「また、昔みたいに可がってしいのか?」
ニヤニヤした3人の獣人が蔑むような目で見てくる。反吐が出そうな視線。
「ボルゾー、コーリンも元気だったのか」
ボルゾーとコーリンは犬の獣人。この2人も昔からボクに絡んできては、嫌がらせをしてた。舊知の大嫌いな顔ぶれがそろい踏み。いきなり出會うなんて運がない。決して會いたくはなかった。
「「「うるせぇぇぇ!馴れ馴れしいぞボケェ!?殺すぞカスゥゥ!!」」」
聲が路地で反響して、思わず耳を塞ぐ。
獣人社會ではこんなことが日常茶飯事なので、道行く者も通りからチラリと様子を窺うだけで、誰も気にしない。
「鼓が破れるかと思った…。もうちょっと靜かに喋れないのか?」
「お前は、相変わらず人をイラつかせるな!」
「この貓ヤローが!」
「ムカつくぜ!」
イラつかせるようなことをした覚えはない。言ってる意味が解らないけど、とりあえず聞いてみる。
「で、何か用か?」
「用なんかねぇよ!どっかの貓ちゃんが、サマラにちょっかい出すつもりじゃねぇのかと思ってな」
「なんでだ?」
「なんでって…お前はサマラにホの字だったろうが!この泥棒貓が!」
ティーガは意味不明なことをのたまう。言うに事欠いて誰が泥棒だ。この、バカ虎め。
「泥棒?ボクが何を盜んだって言うんだ?お前らが泥棒なのは知ってるけど。キャロル姉さんの下著とか盜んだろ?見てたから知ってるぞ」
キャロル姉さんは貓の獣人で、し年上の超人なお姉さん。スタイルも抜群で、若い獣人には目の毒だった。
同じ貓の獣人ということもあって、ボクは可がってもらった。姉さんは元気にしてるだろうか…。
「そういえば、ウォルトが帰ってきてるんだって?」
「もう知ってんのか。耳が早ぇな」
「ティーガのバカが、通りで騒いでた。あんなデカイ聲じゃ嫌でも聞こえるよ」
マードックは、時間潰しに栗鼠の獣人である彼の家で酒を飲んでいた。彼もウォルトのことを知っている。
「アンタが連れてきたんでしょ。付いとかなくていいの?」
「あん?誰に?」
「ウォルトによ。絡まれてるんじゃないの?」
「もう絡まれてるぜ。ガハハ!」
「は?ヤバいじゃない。アイツらバカだから、なにするか分かんないよ!?」
焦る彼とは対照的に、平然と酒を呷る。
「大丈夫だ。アイツは強ぇから」
「え?…なんて?」
「今のウォルトは、アイツらより強ぇから心配すんなっつうの。余計な心配なんだよ」
ガハハ!と笑うマードックを見て、彼は信じられないという顔で固まってしまった。
「若者ならみんなしいだろうから、キャロル姉さんには悪いと思ったけど黙っといたんだ。ボクに謝してくれ」
懐かしみながら苦笑すると、3人とも黙ったままを震わせている。『恥ずかしいのか?それとも泥棒したのを思い出して反省してるとか?』と思ったのも束の間…。
「てめぇ…。コケにしやがって…許さねぇ!」
「ぶっ殺す!」
「オラァァァァ!」
3人同時に駆けてくる。どうやら気が立ってるみたいだ。事実を伝えただけなのに、何をそんなに怒ってるんだ…?
愉悅の表で迫りくる3人。その表を目にして、脳裏に苦い思い出が蘇る。
昔は…立ち上がれなくなるくらい毆られた。いくら謝っても許してくれなかった。
ウォルトは…獲を狙う獣のような顔をして嗤う。
「今のボクは…昔ほど弱くないぞ…」
薄ら『強化』をに纏うと、3人に向かって駆ける。
「うぉらぁ!死ねや!」
ティーガの拳が眼前に迫る。それを最小限のきで躱しながら拳を顔面に叩き込んだ。
「ウラァァ!!」
「ガァッ!」
まともに食らったティーガは吹き飛んで、倒れ込む。潰れてしまった鼻からはが溢れている。殘りの2人は驚いて足が止まった。
「ガァッ! ウォルト… てめぇ!」
「何だ?」
見下ろされたのが癪に障ったのか、目を走らせて立ち上がるティーガ。ペッ!と唾を吐いて睨みつけてくる。
「殺してやる…」
「それは無理だ。お前らの方が弱いからな」
挑発するような臺詞を口にすると、我先にと襲いかかってくる。
「まぐれで調子に乗るんじゃねぇ!」
「俺らがテメェより弱いだと!ほざきやがって!」
「嚙み殺してやる!」
きを見てため息が出た。
フクーベにいた頃はコイツらに全く歯が立たなかった。一生敵わないとさえ思った…。
でも今は違う。この3人はマードックとは全然違う。森の魔とも違う。威圧や恐怖を微塵もじない。
「獣人のケンカは、引き際が肝心だろ」
ウォルトは、その穏やかな口調とは裏腹に、獣の顔で3人と対峙する。
「うぅ…」
3人組はき聲を上げながら地面に這いつくばっていた。ウォルトの真っ白な両拳はで赤く染まって、無傷のまま無表で3人を見下ろしている。
『もういい』
これ以上やっても意味はない。毆って気が晴れた訳でもない。踵を返して路地を出ようと歩き出す。
すると、倒れているティーガの聲が聞こえた。
「クソが……気にらねぇ…。テメェも、サマラも…」
耳がピクリと反応する。振り返って顔を上げているティーガに聞く。
「何だって…?」
「気にらねぇんだよ…!テメェも…いくら言っても俺に靡かねぇサマラもな!」
「だから何だ?それに、サマラは関係ないだろ?」
フラつきながら立ち上がるティーガ。
「今までは優しくしてやったが、もう容赦しねぇ…。どんな手を使ってもぶっ殺してやる…!テメェも……テメェに與するサマラもな!サマラは、充分楽しませてもらったあとにやってやるよ!」と下品な笑みを浮かべる。
「俺らも手伝うぜ!後悔させてやるぜ!クソ貓が!」
「ククッ!楽しみだ!ハハッ!」
他の2人もフラつきながら立ち上がって、ティーガの提案に乗ると口を揃える。
獣人が負けず嫌いなのは、をもって知ってる。…が、ここまで捻くれたことを言い出すとは思ってなかった。
ウォルトはスッと表を無くす。
そして…ゆっくり口角を上げて兇暴に嗤うと、小さく呟いた。
「ボクが間違ってた…。ここからは……お前らの好きな獣人のやり方でやってやる…。嫌というほど……」
ウォルトは満創痍の3人に向けて駆け出した。
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