《モフモフの魔導師》36 苦労人
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
予期せぬ真剣勝負へのいに面食ったウォルトだったが、闘うからには負ける訳にはいかない。
エッゾさんは…間違いなく本気で來る。しかも、あの斬撃をまともに食らえば命の保障はない。
目の前の風変わりな狐の獣人は、いつだったかオーレンに語った『マードックより強いかもしれない』と思う獣人の1人。
かなり前になるが、その當時から戦闘狂で有名だったエッゾさんが、マードックと1対1で勝負しているのを遠目に見たことがある。
その時も武を駆使した攻撃で、力に勝るマードックに対抗していた。敗れはしたものの幾度も惜しい場面があって、今でもその闘いはボクの記憶に濃く殘ってる。
その闘いを見て、闘いは力が全てではないと思えた。そういった意味でエッゾさんは憧れの存在。
さっきの斬撃を見ても、明らかにあの頃より技に磨きがかかってる。どう闘えばいいのか思案していると、エッゾさんが確認してきた。
「おい、ウォルト。お前の武は何だ?持ってこなくていいのか?」
武を持っていないことを疑問に思ったみたいだ。こんな痩せた獣人がマードックと引き分けたと言ったのだから當然の疑問。きちんと伝えておこう。
「大丈夫です。もう持ってます」
「なに…?」
エッゾの眉がピクリといて、ウォルトを観察する。
どう見ても力で勝負するタイプには見えない。ならば、何かしらの武を使うはずだ…。
もう武を持っていると言うが、どう見ても素手にしか見えない。武も持たずに、あの細いでマードックと引き分けた…?そんなことがありえるのか?
訝しがっていると、ウォルトが口を開く。
「では…いきます」
とりあえず考えるのは後だ…。揺をうための方便の可能もある。
「こい!」
「シャアア!」
ローブをぎ捨てたウォルトが雄びを上げると、顔がみるみる獣の表に変化する。
エッゾは対照的に無表で呼吸を整えている。
ウォルトのが『強化』で魔力を纏うと、エッゾに向かって駆け出す。
間合いを詰めるスピードはエッゾが刀を抜くよりも速く、一瞬で間合いが詰まる。
「なにぃ!」
「ウラァァ!!」
ウォルトは、至近距離からエッゾのに右拳を叩き込んだ。
全く防できず、まともに衝撃をけて片膝を著く。肺の空気が全部抜けてしまうような打撃。なんて威力だ。
「ガハッ!ガッ!ガハッ!」
顔を上げると、ウォルトは眉間に皺を寄せてこちらを見下ろしていた。
「エッゾさん…。ボクを舐めてますね…?この一撃は、さっき技を見せてもらったお禮です。相手を舐めるとどうなるか…しかとに刻め!」
「くっ…!」
ウォルトの言う通りだ。完全に舐めていた。貧相な軀から繰り出される打撃など恐れるに足らずと。
だが、打撃をけて解った。驚くべきスピードと力強さ。油斷したら一撃でやられる。今のは手加減されていただろうに、それほどの衝撃だった。
脳裏に浮かぶ『舐めてんなら、やめとけ』の言葉。なるほど…。噓ではなかったか。
「そのでこの力か…。お前、とんでもない奴だな」
「何を言ってるんです…?…もしかして…貴方は視えないんですか?」
「何だと?」
ボクが言っているのは魔力のことだ。
ほとんどの獣人は、魔力を視認することができる。それは五が鋭いからと云われているけど、覚が優れた獣人の中にも、稀に魔力をじられない者がいる。人間では珍しくないらしい。
思い返せば『強化』を使った瞬間もエッゾさんは反応しなかった。魔力を目で捉えられていなかったのなら、納得の反応。
エッゾさんはティーガ達みたいに細かいことを気にしないバカな獣人とは違う。魔力を視認できない故に、痩せたから繰り出された一撃の威力に驚いている。
「何を言ってるか解らんが…、次はこっちの番だ!フゥッ!」
「速いっ!」
呼吸を整えたエッゾさんは、すり足のようなきで高速で接近してくる。予測できないきに一瞬スキができた。それを見逃さず、居合を繰り出してくる。
「くっ!『化(ストレグ)』」
間一髪、両腕に魔法を纏って辛うじて刀を弾く。
『化』は、魔力の調節次第で鉄のような度までを強化できる魔法。だが、數秒経つと効果が失われてしまう。
持続させることも可能だが、戦闘中は意識を魔法だけに集中できないため困難だ。
「これを素手で止めるのか?!お前のはどうなってる!?面白い!」
やっぱりエッゾさんは詠唱したことに気付いていない様子。興で聞こえていないのか、それとも魔法を使うとほども思っていないから聞き流しているのか…。
その後、立て続けに鋭い斬撃を繰り出してくる。皮一枚でその全てを躱すと、大きく距離をとった。
「どうした?何で攻撃してこない?」
「………」
ウォルトは悩んでいた。
剣と素手では明らかに不利だが、魔法を視認できない獣人を相手に戦闘魔法を詠唱していいのか?それは…卑怯ではないかと。
そんな心を察したのか、エッゾさんが口を開く。
「お前が何を悩んでるか知らんが、真剣勝負で手を隠すのは相手を舐めてるってことだ。さっき、お前が言ったんだぞ?人を舐めるなと…。何か武持ってるんだろう?遠慮なく使え。俺なんか最初から使ってる」
刀の背で肩を叩きながら笑う。
その言葉を聞いて悩むのをやめた。相手は武の達人。力が足りなければ、それを補う何かで闘えばいいことを教えてくれた獣人。
そんな相手に、己の最大の武を使わないのは失禮だ。ボクに相手を舐めるような余裕は無い。
「ボクの武を…使わせてもらいます!」
「むところだ!かかってこい!」
即座に右手を翳す。
『火炎』
炎がエッゾさんに襲いかかる。すると、まるで炎が見えているかのように橫に跳んで躱した。
「今のは何だ!?お前の武って…まさか……魔法か?!」
「ボクの魔法が視えたんですか?」
「いや、視えない。だが、うっすらだがじ取れる。昔から魔法が視えなくて、魔の魔法を食らって何度も死にかけた。それが嫌で、々と試してたらじるようになった」
「貴方は…」
言葉に詰まる。
普通、魔力をじられるようになんてなる訳ない。それを努力で…。何て人だ。
「獣人なのに魔法が使えるなんて、信じられん!そんな奴に初めて會った!…面白過ぎるぞ!ククッ!燃えてきた!」
「…ボクもです」
互いに駆け出し間合いを詰める。
「シッ!」
エッゾが首を狙って薙ぐ。
ウォルトはそれを躱して、懐にり込むと至近距離から『疾風』を放とうとする。
しかし、エッゾは魔法が発する前に袈裟斬りを仕掛けた。
「くっ!」
『化』で刀をけ止めてを蹴り飛ばすと、追撃とばかりに『火炎』を放ったが、エッゾはこれも跳んで躱した。互いに張が走る。
「お前の武は怖いな…。全が総立つ。たいした重圧だ」
「じるだけで、全部躱す貴方のほうが怖いです」
決してお世辭じゃない。魔法が視認できないのに闘えるなんて、信じられないくらい凄い。
「ククッ!褒めてもらったお禮に…お前にいいものを見せてやる」
「桜花繚ですか?」
「1度見せた技じゃつまらない。お前に通用するとも思えない」
エッゾさんはスッと左足を前に出し、半に構えて弓を引くように刀を持つ右手を後ろに引いたまま呼吸を整えている。
「フゥゥ…」
突きが來ると予想して構えた次の瞬間、一艘跳びで間合いを詰めてくる。
直線的なきで來るのは予測できていた。これは予想通りのき。接近する軌道上に『火炎』を放つ。
『捉えた』
そう思った瞬間、エッゾさんは地面を蹴って橫に躱した。そののこなしに驚いたが、追撃しようと姿を目で追った次の瞬間、エッゾさんの手には…刀が無かった。
「ガァッ!!」
突然の衝撃とともに、左脇腹に刀が突き刺さっていた。
腹部を襲う鋭い痛みに、刀を抜こうと刀を摑む。すると、まるで摑んだ掌から逃げるかのようにひとりでに刀は抜け、スルスルッとエッゾさんの手元に戻っていく。
「グゥゥッ!」
ウォルトは刀傷からの出を手で押さえながら、を焼かれるような痛みで片膝をついた。手元に戻った刀を鞘に収めたエッゾが口を開く。
「お前は、知らない技に対して下手に避けるより魔法で反撃すると思った。こっちのきが直線的だったしな。反撃するときはその場をかないだろうという予想も當たった。なまじ威力があると、相手が避けると思うよな。おそらく炎系の魔法を使ったんだろうが、自分の魔法が目眩ましになるとは思わなかったろう?」
エッゾさんの言う通りだ…。
技の構えと、武が刀であることから近距離攻撃だと思い込んだ。だったら、接近させなければいいと『火炎』を放ったけれど、武を手放す技だとは予測できなかった。
魔法が死角となって、迫り來る刃も視認できえなかった。獣人の天敵である炎で反撃することも読まれていたのだろう。
闘いの経験値が違いすぎる。戦闘に関しては、向こうが一枚も二枚も上。
「刀を取られちゃ困るから、柄に細い鉄線を巻付けて回収できるようにしてるが、正直この技まで使うことになるとは思わなかった」
ウォルトの耳に屆いているのか解らないが、下を向いて肩で息をしている。これ以上はやっても無駄だ、と思いながらも確認してみる。
「まだやるか?俺はどっちでもいい」。
さて、ウォルトの返答は…。
「最初は…貴方と闘いたくなかった…。だけど、今は違う…。ボクは……負けたくない!」
「いい……。いいぞ!お前もやはり獣人だな!」
最高だ…。やはり獣人はこうでなくちゃいけない。いくら優しかろうと弱かろうと…負けるのは死ぬほど嫌だ。それでこそ獣人!
ウォルトは立ち上がると深呼吸して鋭い視線を向けてきた。
いい目だ…。勝負を諦めていない気持ちが伝わってくる。久しぶりに心躍る闘い。コイツに…獣人の魔法使いに引き合わせてくれたマードックには謝しなきゃならない。
「せめて、俺の最高の居合(わざ)でお前を倒してやる」
「ボクは……貴方を尊敬する」
「いきなり、何だ…?」
尊敬だと…?一、何が言いたい?
「貴方は努力の獣人…。磨き上げられた技と…不可能なことを可能にする忍耐と工夫…。そして、発想。ボクは…超えてみたい!」
俺の努力を…敵を尊敬するとは不思議な奴だ。だが、嫌いじゃない。
「超えてみろ!やれるものならな!」
腰を落として居合の態勢を取る。これまでの闘いに敬意を表して、せめて一撃で沈めてやる。
まだ間合いはし遠い。ジリッジリッとすり足で接近する。
『アイツの傷は深い。痛みでまともにはけまい』
大きく息を吸い込んだウォルトは、傷を押さえていた手を離して雄びをあげた。
「シャアァァァ!」
碧くる獰猛な眼を向け、グッと腳に力を込めて跳ぶ態勢にる。間合いにった瞬間、拳を握り締め跳びかかってきた。
『俺の居合の方が速い!』
勝利を確信して渾の居合を繰り出そうとした時、違和に気付く。
『刀が……抜けん!?』
刀が鞘に張り付いているような違和。
お構いなしに、引き剝がすようにして無理矢理抜刀したが、ほんのしだけ作が遅れた。
それは…勝負を決するのに充分な時間。
「ウラァァァ!」
発的な速さで迫るウォルトは、固く握りしめた右拳をエッゾの顔面に叩き込んだ。
「ガハァッ…!」
握っていた刀を地面に落とし、エッゾは力無くその場に倒れ込んだ。
読んで頂きありがとうございます。
【書籍化・コミカライズ】三食晝寢付き生活を約束してください、公爵様
【書籍発売中】2022年7月8日 2巻発予定! 書下ろしも収録。 (本編完結) 伯爵家の娘である、リーシャは常に目の下に隈がある。 しかも、肌も髪もボロボロ身體もやせ細り、纏うドレスはそこそこでも姿と全くあっていない。 それに比べ、後妻に入った女性の娘は片親が平民出身ながらも、愛らしく美しい顔だちをしていて、これではどちらが正當な貴族の血を引いているかわからないなとリーシャは社交界で嘲笑されていた。 そんなある日、リーシャに結婚の話がもたらされる。 相手は、イケメン堅物仕事人間のリンドベルド公爵。 かの公爵は結婚したくはないが、周囲からの結婚の打診がうるさく、そして令嬢に付きまとわれるのが面倒で、仕事に口をはさまず、お互いの私生活にも口を出さない、仮面夫婦になってくれるような令嬢を探していた。 そして、リンドベルド公爵に興味を示さないリーシャが選ばれた。 リーシャは結婚に際して一つの條件を提示する。 それは、三食晝寢付きなおかつ最低限の生活を提供してくれるのならば、結婚しますと。 実はリーシャは仕事を放棄して遊びまわる父親の仕事と義理の母親の仕事を兼任した結果、常に忙しく寢不足続きだったのだ。 この忙しさから解放される! なんて素晴らしい! 涙しながら結婚する。 ※設定はゆるめです。 ※7/9、11:ジャンル別異世界戀愛日間1位、日間総合1位、7/12:週間総合1位、7/26:月間総合1位。ブックマーク、評価ありがとうございます。 ※コミカライズ企畫進行中です。
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