《モフモフの魔導師》38 獣人冒険者の夢

暇なら読んでみて下さい。

( ^-^)_旦~

「サマラちゃん。狐っぽい獣人から、渡してくれって手紙預かったんだけど」

フクーベの料店で仕事中のサマラは、同僚から聲を掛けられる。

「ありがとうございます」

『狐っぽい獣人…?誰だろう?』

手紙をけ取って封筒の裏側を見ると、そこにはウォルトの名が。

『ウォルトだ!』

早く開封したい気持ちに駈られたけど、今は仕事の真っ最中。休み時間にゆっくり見よう!と嬉々として仕事をこなしていく。

そして、待の休み時間を迎えた。

休憩室で手紙を読もうとしていたサマラに、またまた同僚達が話し掛けてきた。

「ねぇねぇ。また文?相変わらずモテるねぇ。サマラちゃんは」

「そんなんじゃないですよ。差出人も解ってますし」

「もしかして、ウォルトさん?」

「そうです。よく覚えてますね」

「「「そりゃあね♪」」」

「?」

同僚達は、サマラの想い人が優しそうな貓の獣人ウォルトであることに気付いている。ハッキリ告げると照れるだろうと思って、あえて黙っているけれど。

サマラが男に抱きついて泣いている姿は驚きでしかなかった。ウォルトが頭をでているときの優しげな表を目にして、皆が『すごく羨ましい…』と思ったのは…。

サマラが客から手紙をもらうのは日常茶飯事。獣人や人間から數え切れないほどもらっているが、當然全てお斷りしている。

むしろ、手紙を貰うと周囲が盛り上がって毎回キャッキャ、ウフフである。

そんな同僚達を橫目に『ウォルトが手紙をくれるなんて…嬉しいけど珍しい。もしかして…良くない知らせじゃ!?』とちょっとだけ張しながら丁寧に開封する。

同僚達もサマラの反応に興味津々だが、靜かに見守る。

綺麗に折り畳まれた便箋を開くと、ウォルトが書いた綺麗な文字が並ぶ。そして、仄かに花の香りがした。インクに香料を混ぜてあるのかな。お灑落なことをすると心した。

読む前からまた會いたくなってしまったと思いながら、気を取り直して読み始める。

丁寧な挨拶から始まり、ウォルトの近況やなかなか會いに行かないことへの謝罪が綴られている。まるで、目の前にウォルトがいて語りかけてくるかのような優しい文面。

無意識に微笑んで、ゆっくりと読み進める。その様子を見た同僚達も安心して見守っていた。

その後も嬉しそうに、時に頬を赤らめながら手紙を読むサマラを見て、これ以上は野暮だと皆が席を外そうとしたとき、異変に気付く。

さっきまで、幸せそうに手紙を見つめていたサマラの表が段々と険しくなって、遂に眉間に皺を寄せる。

よく見ると、肩が小刻みに震えている。

ふぅ…と自分を落ち著かせるように息を吐いて、丁寧に便箋を封筒に戻すと大事そうに自分のバッグに仕舞った。

『まさか…。サマラちゃんの路に嵐の予!?』

皆が怖くて容を聞けないでいると、サマラが先に口を開いた。

「休憩も終わりですね。もうひと頑張りします!」

ニコッと、ただし全く目が笑っていない表でそう告げると、足早に店頭に出て接客を始めた。

手紙に何が書いてあったのか気になりながらも、皆は気を取り直して、それぞれの持ち場へと戻って行く。

エッゾがサマラの同僚に手紙を渡していた頃…。

マードックは今日も今日とて晝から酒を飲んでいた。クエストの報酬がった帰りで、懐には余裕がある。

基本、サマラがお金の管理をしているが、渡す前にちょっと酒を飲むくらいはご敬だ。

『そういや、エッゾはちゃんと辿り著いたのか?アイツはとんでもねぇ方向音癡だからな。まぁ、死にはしねぇだろ』

グイグイ酒を飲みながら、そんなことを考えていると、暫くして目の前にエッゾが現れた。

「よぅ。生きてたか」

「なんとかな」

エッゾも酒とつまみを注文し、向かいの席に座る。酒が運ばれてきたところで、グラスを合わせて乾杯した。

「アイツに會えたみてぇだな」

「あぁ。會ってきた」

「どうだったよ?闘(や)ったのか?」

「あぁ…。負けたぞ…。アイツは強い」

「そうか…。けど、負けて嫌な気はしねぇだろ?」

「なんでお前がそんなことを言う?」

真顔に戻って告げる。

「実は…俺も負けた。誰にも言うなよ」

「そうか…。だが、今ならその言葉も信じられる。それ位、アイツは強かった」

ウォルトと闘った者にしかその強さは解らない。そういう意味では2人はをもって知っている。

互いに酒を煽りながら続ける。

「アイツは…まだ強さの底が知れねぇ」

「なに…?確かに強いが、そこまでか?」

「お前との闘いで魔法を使ったか?」

「刀と素手では當然だろ。手甲でもあれば別だが」

「まぁな。多分、アイツが俺らに見せたのは、使える魔法のほんの一部だ。俺の勘じゃ、もっと強力な魔法を使える。アイツの格からして対人では使わねぇはずだ」

この間の闘いでウォルトが見せたのは『強化』と『火炎』だけ。それでも闘いの中での流れるような詠唱と、威力は驚異だった。

『治癒』も使えるのは解ってる。アイツの格からして、『火炎』が命中したとしても治療できる自信があって詠唱したに決まってる。

全容は計り知れないが、ウォルトは魔法をほんの一部しか見せていない。そんな気がした。

「それが本當なら、どれ程の強さか予想もつかんな…。にわかには信じ難いが…なくはないと思える。アイツなら」

俺に繰り出した魔法でさえ、今までじたことない魔法だった。見えないのに、まともに食らえば死ぬかもしれないとじた。

「だろ?こういう時の俺の勘は當たるからな。ククッ!」

「お前、何か楽しそうだな?」

「あぁ。お前には教えてもいい。俺は昔からやってみてぇことがあるんだ。夢みてぇなもんか」

「お前の…夢?最強の獣人になることだろ?」

「それもある。けど、違うな」

「何だ?」

この暴でガサツで、好き勝手やっている男に他の夢などあるのか?とエッゾは思う。もしあるとすれば、世界中の酒を飲みたいとか、々な種族のを抱きたいとかだろう。

「…お前、何か失禮なこと考えたろ…?」

誤魔化すように酒を煽る。

「まぁいい…。俺のやってみたいことってのは、お前も1度は考えたことあると思うがな」

「俺も?」

「あぁ…。獣人だけのパーティーでの冒険。しかも、最高峰のダンジョンを攻略する」

「それは…。確かに夢だな」

これまで、獣人はその能力を生かして冒険者パーティーの前衛や斥候を務めてきた。だが、獣人だけのパーティーではどうしてもバランスが悪い。だからエルフや人間の魔導師が必要不可欠だ。

ダンジョンの攻略には魔法が欠かせない。理攻撃が効かない魔も多いし、補助魔法や回復魔法が必要になる場面は必ずくる。

「フィガロみてぇに歴史に名を殘した獣人は何人かいる。けどよ、獣人だけの冒険者パーティーでは上に行けないって常識が、俺は昔から大嫌いだった」

フィガロは伝説の獣人で、勇猛果敢な戦士だったと伝わっている。その強さは凄まじく、死ぬまで1対1の戦闘では負けたことがないと云われている。世界中の獣人の憧れ。

「仕方ない。幾ら獣人の能力が高くても、それだけで攻略できるほどダンジョンは甘くない。高難度ダンジョンになるほど、それは顕著に現れる」

「解ってるよ。だから葉わねぇ夢だと諦めてた。ただ…アイツの存在が俺の夢を揺り起こした」

「なるほど…。ウォルトなら魔導師として必要な実力もあるかもしれない…か」

「まさか、自分が生きてるうちに獣人で魔法をれる奴が現れるなんて思うか?長い獣人の歴史で誰一人存在してねぇんだ。それなのに、この時代に俺の近くにいる。ただの偶然で終わらせたくねぇんだよ」

「面白いな。だが、アイツはそんなことに興味ないだろう」

「あぁ。だが、アイツも獣人だ。闘って解ったろ?優しそうに見えても、闘えば本能は顔を出す」

「確かに鬼気迫る顔をしていた。まさに獣人だった」

「冒険して、強者と闘えばアイツもきっと自分を止められねぇ。もちろん今すぐじゃなくていい。俺ももっと腕を上げて、アイツを倒して無理矢理にでも連れて行く。1回だけでいい」

「何回も最高峰のダンジョンを攻略できないだろ。ところで、その時は當然俺にも聲を掛けるんだろうな?」

「それはお前次第だ。どうしても連れて行く必要がある獣人になっとけよ」

「ククッ!面白い…!お前の話は荒唐無稽だ。だが…もしそうなったらと思うと興が収まらん!」

「こんな所で盛んな。花街に行けよ」

「フハハ!そうするか!またな」

飲んだ分の料金をテーブルに置いて、そそくさとエッゾは店を出た。マードックはその後もしばらくお一人様を楽しんで、いい気分で帰路についた。

飲み終えたマードックが家に著くと、サマラは既に帰宅して食事の準備をしていた。匂いから察するに料理だな。

「サマラ!俺は飯食ってきたからいらねぇぞ!」

「はぁ?そういうことは早く言いなさいよ!もう飲んできたの?うわっ、酒臭っ!」

「おぅ!クエストで金ったからな。ほらよ」

巾著袋にった報酬をサマラに渡す。それをけ取ったサマラは溜息をついた。

「気分が良いのは解るけど、クエストで疲れてるんじゃないの?」

「かなりキツいクエストだったから、まだ完全には回復してねぇけど、どうってことねぇよ」

「呆れた。ご飯要らないなら、何か肴を作ろうか?」

「珍しく気が利くじゃねぇか!頼むわ!」

「珍しく…?まぁいいや…」

怒りながらもサマラは臺所に向かう。

とりあえず先にこれでも飲んでおけと、常備された酒を持ってきた。早速、用のグラスに酒を注いで飲み始める。

すると、しばらくしてに異変が起こった。

『何だ? が… 痺れる…』

が痺れて、冷や汗が止まらない。何だ?毒か?と思っていると、サマラが顔を出した。

「効いてるみたいね…。気分はどう?」

「これは…お前が…?」

「そうよ。酒にれておいたの。無臭だから気づかなかったでしょ?」

毒なら匂いで気付いたはず。酒に他の匂いは混じってなかった。何だってんだ?

「サマラ… お前が… 何で?」

「1つ聞きたいんだけど」

「…?」

「ウォルトの所にエッゾさんを送り込んで、どうするつもりだったの?」

「なんで… 知ってんだ…?」

何故、サマラが知ってんだ?エッゾとサマラに縁はねぇ…。

「ウォルトから手紙が來た…。最後に書いてあったよ…。マードックがウォルトの住み家をエッゾさんに教えて、闘ったら刀で刺されたって!怪我は大したことなかったけどって!」

は変わりないが、サマラの瞳には怒りの炎が見てとれた。これは……ヤベぇな…。

「それは… 々と訳が… あんだよ…」

力が抜けて上手く話せなくなってきた。何を飲ませやがったんだ…。

「へぇ~…。エッゾさんみたいな戦闘狂いのド変態狐を、ウォルトに會わせる必要があるって言うの?」

『アイツ… 酷い言われようだな…』

エッゾは、過去何度かマードックと闘っているので、戦闘狂の狐獣人としてサマラも認識している。

「マードック…。もしかして私がウォルトと番になりたいって思ってるのを、邪魔しようとしてるの…?それで目障りなウォルトを始末しようと、エッゾさんを送り込んだの?それとも、ウォルトに負けたから逆恨みで嫌がらせ?」

『そんなつもりはさらさらねぇ…。むしろ応援してるし…』と言いたいが、毒が回ってきたのか聲を出せない。

「そう……無言は肯定とみなすよ。…私の路を邪魔する1番の障害が、親なる兄だったなんて…。皮だね」

サマラは涙を人差し指で拭うような仕草を見せる……が、泣いてなどいない。

『違うけどお前の毒のせいで喋れねぇんだよ!』とびたいが、ピクリともけない。

「マードック……いや、お兄ちゃん。これで會話するのも最期だね。言い殘すことはある?」

『ありすぎるわ!』とびたいが、聲にならない。

「言いたいことは無いのね……。その意気や良し!じゃあ、今からウォルトがけた痛みの10倍…いや100倍の痛みをけてもらおうか!」

『もらおうか!じゃねぇよ!』と思いながら、最後に見たのは狼の眼で笑顔のまま迫り來るサマラの姿だった。

そこで記憶は途絶えている…。

次の日、目を覚ましたマードックは顔や中を毆られてボロボロになっているものの、何故かスッキリした爽快に包まれていた。

『訳がわからねぇ…』

それもそのはず、サマラがマードックに飲ませたのは、ウォルトの母親ミーナ直伝の疲労回復スープ。

いずれはウォルトの番になってしい、と昔ミーナから伝授されていた。ミーナほどの完度では無いものの、疲れたマードックには充分効果的だった。

今回はミーナから聞いた副作用を利用してマードックを拘束した。流石にサマラも兄に毒は盛らない。

なので、疲れが取れて爽快な気分と、中を襲う痛みで複雑なのマードックは、しばらく混狀態に陥った。

その後、エッゾを引き合わせた意図については伝えなかったが、サマラの路を応援していることやエッゾの件についてとりあえず詫びをれて、一応の許しを得た。

ただし、サマラに「今後もウォルトにちょっかいを出すなら、兄妹でも容赦しない。それが解ったら、どんな手を使っても抹殺するから」と、黒い笑顔で釘を刺されてしまい、マードックの夢は前途多難になってしまった。

読んで頂きありがとうございます。

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