３人が住み家に辿り著いた時には、もうが落ち始めていた。

小さなで歩き続けたリスティアは、途中からウォルトが背負ってきた。今はベッドで夢の中だ。

王様を寢かせたまま、ウォルトさんと居間でお茶を飲んでいる。もらって帰りたいほど味な花茶を頂きながら労われた。

「アイリスさんもお疲れ様でした。明日、故郷に戻られるんですか？良ければ、今日も泊まって下さい」

労われたうえに、お願いしようと思っていたことを先回りして言われてしまい、思わず苦笑する。

「ありがとうございます。何から何までお世話になって…申し訳ありません。…ウォルトさん」

「何ですか？」

「貴方は…私たちが何者か聞かないんですね…」

ウォルトさんは、出會ってから１回も私達の事や素を聞いてこない。名前しか知らない者の願いを、危険な思いをしてまで葉えてくれた。とても普通とは思えない。

「聞きません。誰だって言いたくないことや、言えないことはあります」

「貴方は…お人好し過ぎますよ」

「そんなことないです。ただ聞くのが怖いのかもしれない」

「怖いと言うと？」

『そうだニャ…』とか言いそうな顔で思案している。薄々じていたけれど、可い人だ…。

「実は…２人はとんでもない詐欺師で、ボクを騙して多幸草を手にれたあと、高く売り捌こうとしている…とか」

首を傾げて「うまく言えニャいが…」とか言いそうな顔をしている。

「ぶっ！何ですかそれ！あり得ません！」

「笑ってくれて良かったです。ボクは冗談が下手なので、自分に參ってしまいます」

ホントに…この獣人は…優しすぎる。

もう我慢できないといった風に告げた。

「ウォルトさん！恩人に向かって言い辛いんですが、個人的に１つお願いがあります」

「何でしょう？」

「私と…勝負してもらえませんか？」

「勝負？闘うということですか？」

表が険しくなったウォルトさんに向かってコクリと頷く。

「理由を教えてもらえますか？」

「私は話すのが下手なので、長くなるかもしれませんが…いいですか？」

「構いません」

自分を落ち著かせるように呼吸を整えると、意を決して話し始めた。

「既にお気づきかもしれませんが、私は騎士です」

「はい」

「私は…民を守るために闘っています。ですが

今日貴方に守られてじたんです。貴方の闘う姿は仲間を安心させる。正直、凄いと思いました」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「そして、貴方と一緒に誰かを守れたら…と思いました。それは噓偽りない気持ちです。でも…」

「でも？」

「その一方で、私は思ってしまったんです。それほどの力を持つ貴方に、純粋に騎士として挑んでみたいと…。自分の力は貴方に通用するのかと。私は…自分が貴方ですら守れるような存在であるのか確かめてみたくなったんです」

「そう…でしたか」

「ウォルトさんは…昨日までの私の常識ではあり得ない存在です」

「それは…ボクが魔法を使う獣人だから…ですか？」

頷いて続ける。

「失禮を承知で言えば、この目で確かに見たのに、今でも信じられないという気持ちが完全には拭えない。それ程、私にとっては衝撃的な出來事でした」

「よく言われます。同じ獣人には特に」

ウォルトさんは「困ったもんです」と腕を組んで苦笑する。おかしくてクスリと笑った。

「それ以外でも、貴方は獣人っぽくないですが」

「えっ！？まさか…獣人なのに尾が上手くかせないの、バレてましたか？」

「それは初めて知りました。違います」

獣人なのに異常に禮儀正しくて優しかったり、綺麗好きだったり、料理上手だったりするところなのだが、『気付かれた！』という的外れの表を浮かべている。

話しやすい雰囲気を作ってくれているのだろう、と好意に甘えて言葉を続ける。

「私にはウォルトさんの苦労は解りません。でも…これだけは言えます。貴方は相當な苦労、おそらく私の想像を絶するような努力を重ねて今に至っている」

「そんなことはないんですが」

いや、ある。あれ程の魔法をるには、並大抵の修練では無理だと素人でも解る。おそらく宮廷魔導師よりも…技量は上。

「私は苦しむ者、力なき者を守りたい故に強さを求めた。それが自分の使命だとも思っています。でも、貴方はそうではない」

「その通りです」

「私の見立てが正しければ、貴方は王都の魔導師と同等かそれ以上の力を持っています」

「それは買い被りです。ボクはそもそも魔導師ではないですし」

「…そうですね。し前までの自分ならここで、そうかもしれない、と自分の眼力に自信のないことを言っていたと思います。けれど、ある人に言われて…私は私を信じると決めたんです。自分を卑下しないと。だから、もう１度言います。貴方は素晴らしい魔導師です」

「栄です」

「そして、私の常識の壁を壊してくれた…。世界は広いと教わりました。そのことに謝しています」

「そんな大層な存在じゃないですが」

「私達は…明日帰ります。もしかしたら、二度とウォルトさんに會うことはないかもしれない。ならば、私の想いを葉えるのは今しかないんです」

ここまで申し訳なさそうに話していたが、パッと表を明るくする。

「々言いましたが、要約すると私のワガママです！ただでさえ々とお世話になっておいて…斷られても當然だと解っています。それでも、お願いせずにはいられなかった！」

言いたいこと言えた！とスッキリした表のアイリスを見て、ウォルトは何故かし嬉しくなる。

きっとアイリスさんは普段言いたいことを言えない立場にあるか、若しくはそういう格なのだろう。そんな彼が、ワガママを言ってる自覚はあるのに願を素直に口にした。

ここに來てからずっと申し訳なさそうに過ごしていたアイリスさんが「凄い」と…「一緒に誰かを守りたい」と言ってくれた。自分の常識が覆されたとも。

い頃から蔑まれることはあっても、褒められることのない日々を送っていた。

だからかもしれない。純粋にお世辭でなく褒められたことが嬉しかった。アイリスさんは、誠実で噓など吐くような人じゃないことは話していれば解る。

そして…そんなアイリスに昔の自分を救われたような気がして、純粋にその気持ちに応えたいと思ったウォルトは、アイリスに告げる。

「解りました。ボクでよければ手合わせしましょう」