気持ち良さそうに眠っているリスティアを住み家に殘して、２人は靜かに外に出ると更地で対峙する。

手合わせということで、アイリスにはオーレンとの鍛錬に使う木刀を渡し、ウォルトはローブをいだ狀態だ。

「ウォルトさん。改めてお禮を言わせて下さい。願いを聞きれて頂いて謝します」

「気にしないで下さい。あと、１つ約束してしいんですが」

「何でしょうか？」

「ボクらの闘いは命の取り合いじゃない。あくまでお互いを高めるために闘うということを」

「承知しました。では……參ります」

「いつでも」

アイリスさんは遠い間合いで木刀を構える。さすがは騎士。構えに隙がない。

剣の間合いにはかなり遠いと思うけど、行くと言ったからにはアイリスさんからくはず。

そう推測していると、アイリスのが急にブレた。

『何だ！？』

次の瞬間、まるで瞬間移したかのように目の前に現れる。

「ハァッ！」

「くっ！？」

凄まじい速さでを薙いでくる。『化』をかけた腕でけ止めた。

「これを初見でけるとは…。目がいいですね」

「かなり危なかったです。いつの間にここまで？」

「騎士特有の運足です。ハァッ！」

アイリスは更に連続で斬りかかってくる。

『強化』を使用して斬撃を躱すと、距離をとるため鎧を蹴り飛ばした。

「ウラァ！」

「がはっ！」

ウォルトは蹴った反で距離をとる。衝撃で後ろに倒れ込んだアイリスは、鎧のおで骨や臓は無事だが、重い衝撃は充分伝わった。

『やはり強い。これは余裕など…いや、思い上がりだ……元より余裕などなかった！』

素早く起き上がったアイリスは、表を引き締めて再度構えると、目を閉じてオーラのようなモノをに纏う。

「あれは…何だ？」

「フゥゥ！」

再度、ブレたがふっと消えたかと思うと、あっという間に接近して一直線に突きを繰り出してきた。

「ハッ！」

突きは正確にを狙ってきた。

『さっきよりも速い？！くっ！』

間一髪、を捻って躱すと、今度はそのまま水平に薙ぎが繰り出される。屈んで躱して、水面蹴りで足を刈るつもりだったが…蹴りが當たったのにびくともしない。

さっき吹き飛ばした蹴りと同じ威力の蹴りをけても、アイリスの足はを張ったようにかない。

「ハァァッ！」

きが止まったところに、頭部を狙った袈裟斬りが襲いかかる。

「くっ！」

辛うじて両腕を差させけ止めたが…。

「甘い！」

「ガハァッ！！」

がら空きの腹に蹴りを食らって吹き飛ばされる。靴に何か仕込んであるのか、予想以上の衝撃に骨が軋む。

剣を意識しすぎた。まさか蹴りを食らうとは思っていなかった。完全な油斷。

「騎士でも剣が壊れたり使えない狀況になれば近接戦闘も必要。徒手で強い者も多い」

ウォルトを見下ろしながらアイリスが言う。表は真剣そのもの。油斷している様子はなく、構えには隙がない。

には、やはり魔力とは違う何かを纏って揺らめいている。

「強い…。に纏っているのは…一？」

アイリスが疑問に答える。

「これは『闘気』といって先人達が長年かけて造り上げた騎士特有の【技能(スキル)】。魔力を持たない者でも、に纏い自の能力を底上げすることができる」

「そんなものが存在するなんて…。カネルラ騎士の魂…。素晴らしいです」

「栄です…。だが…こちらは貴方の戦闘魔法をまだ見ていない！ハァッ！」

倒れているウォルトに追撃を仕掛けようとする。負けじと倒れた狀態から右手をアイリスに翳し詠唱した。

『破砕』

衝撃波がアイリスを襲う。だが、アイリスは魔法を回避せず、腕を前で差させ『闘気』でを覆いながら魔法に耐えてみせた。

「なっ！」

回避すると予想していたので、まだ起き上がれない。エッゾさんの時も同様に相手が魔法を避けると予想して、痛い目を見たのに悪癖が出てしまった。

反省する間もなく、間髪れずにアイリスの袈裟斬りが襲いかかる。もちを著いたままを捻って頭への直撃は躱したものの、左肩を強打した。

真剣なら肩から両斷されている威力。

「ガァッ！」

「まだだ！ハァッ！」

痛みでけなくなったところに、更に追い打ちで顔面を蹴られて、ウォルトは倒れ込んだ。

「グゥゥッ！」

「素晴らしい威力でした…。だが、『闘気』は魔法にさえ耐える。これが騎士の対魔法戦！」

「くっ！」

「貴方は優しい人…。だが、それでは私には通用しない！」

グラつく視界を気合いで固定し、カッと目を見開くと、もう一度アイリスに向けて手を翳し『破砕』を放つ。

「無駄だ！その魔法はもう見た！」

さっきと同様に、衝撃に備え防の姿勢を取るアイリスだったが、さっきとは比べものにならない衝撃が襲う。

『これは…！さっきと、全然威力が違う！くっ！？』

アイリスは堪えきれず後ろに吹き飛ぶ。倒れはしなかったが、距離が遠ざかった。その隙にウォルトは立ち上がる。

「強い…。貴方の剣が真剣なら、ボクはもう死んでます。これが…王族や國民を守る騎士の強さ…」

「栄です。貴方も素晴らしいが、私は騎士として負けられない」

「貴方に…カネルラ騎士にボクの力をけてもらう」

『氷結』

右手を翳した瞬間、アイリスの両足が足下から膝まで凍り付き、一気に間合いを詰める。

「なにっ！くっ、けん！」

「シャァァ！」

アイリスに接近して連打を浴びせる。

足を固定されたアイリスは、どうにか剣で捌こうとするが、幾つか打撃を食らってしまう。『強化』された拳と腳による打撃は、鎧に『闘気』を纏っていてもに響く。

「ぐぅぅ！がはっ！」

「ウラァァァァ！」

マードックと闘ったときのように、毆るのを止めない。アイリスも反撃したいが、足がかないので防一辺倒になる。

『速い！そして…一撃が重い！』

闘気の放出を続けながら『このままではマズイ』とじたアイリスだったが、一瞬の隙をつい渾の打撃がまともに腹部を捉えた。

「がはっ！」

鎧の上から伝わる衝撃。アイリスは上半が崩れそうになる。だが、脳裏をよぎるのは騎士の誇り。

『私は…カネルラの民を守る騎士…！この程度では終われない！』

「ハァァァ！！」

アイリスは『闘気』を一気に解放した。

ウォルトは闘気にを弾かれ、後ろに吹き飛ぶ。アイリスの足下を固定していた『氷結』も砕け散った。

肩で息をしながら、ウォルトを見據えてアイリスが口を開く。

「私の『闘気』は、もうほとんど殘っていません…。次で決めます」

「はい」

「私の全全霊で打ち込む！そして…騎士として……貴方に勝つ！」

アイリスは、肩で息をしながらも鋭い眼に曇りはない。ウォルトも険しい表で口を開く。

「ボクは…尊敬します。貴方達、騎士の先人が誰かを守るために造り上げた技と『技能』を…。それをけ継ぎ、磨き続ける者の強さを」

それを聞いたアイリスは、ふっと穏やかな表を浮かべた。

「ありがとう…。やはり貴方と手合わせできて良かった」

「こちらこそ。でも、ボクも負けるつもりはありません」

「同意！いざ！」

アイリスは木刀を腰に構える。まるでエッゾの使う『居合』の構え。そしてを包む『闘気』が膨らんでいく。

それを目にしたウォルトは、一気に間合いを詰めてくると予想して構えた。

しかし、アイリスはその場からく気配がない。その靜かな気配にゾクリと嫌なモノをじた…その時。

『騎神舞』

アイリスはその場で居合のように抜刀する作を見せた。すると、剣先から闘気で型取られた凄まじい數の斬撃がウォルトに襲いかかる。

「なっ！」

予想もしない攻撃に回避が遅れた。

『これは躱せない！『化』！』

全に『化』をかけてけ止めるが、容赦なく斬りかかる強烈な闘気に、が切り刻まれて飛沫が舞う。

魔力の出力を上げても、斬撃の勢いは止まらない。

「ウラァァァァ！！」

ウォルトは『化』の箇所をの前面だけに切り替え、必死に耐える。ほんの數秒が途方もない時間にじる。

魔法と闘気の正面からのぶつかり合い。

そして數秒後、騎神舞は霧散した。

アイリスのに一滴の闘気も殘さず放たれた技能を、正面からけきったウォルトは………立っていた。

腕を顔の前で差させて、中傷だらけになりながらも堂々と立つ。

それを確認したアイリスは、納得と…しの悔しさをじさせる表でその姿を見つめていた。

「私の敗けです…。これ以上は闘えません…」

アイリスの敗北宣言をけたウォルトは、穏やかな表で語りかける。

「アイリスさんは変われましたか？」

「？」

「ボクは…貴方のおで『化』の使い方も改良できた。『闘気』の凄さも學んだ。貴方は何か変われましたか？」と微笑む。

そうか、これは勝負ではなかったな…と思い出したアイリスは、しばらく思案して答える。

「私は……魔法を使って凄く堅くなる獣人を斬るための訓練を怠っていたことに気付いた…かな？」と首を傾げた。

「そんな獣人、そうそういませんよ」とウォルトは笑う。

生真面目なのか、笑わせようとしてくれたのか解らないが、今までのアイリスさんにはきっと言えなかった言葉。この闘いで、彼の中で何かが変わったのだと思いたい。

アイリスに近づいて『治癒』を使うと、打撲の痛みが消えていく。

「…貴方は回復魔法も使えるんですね。しかも、一瞬で痛みが引いた。驚かされてばかりです。…そういえば、私は防の上からしか毆られていない。手加減されたのですか…？」

アイリスの疑問に即答する。

「手加減はしてません。ただ、いくら手合わせとはいえ、ボクには綺麗なの顔やを傷つける趣味はないです」

「なっ…！！き、急に変なことを言わないで下さい！な、毆りますよ！」

アイリスはこれでもかっ！てくらいに顔が赤くなっている。

「何でですか？ホントのことを言ったのに」

「う、うるさい！…もう許さん！」

アイリスは木刀を投げ捨てると、鞘から真剣を抜き取り、振り回しながらウォルトを追いかけ始めた。

「ハァァァ！」

もうけないのではなかったか？と思いながら、ウォルトは訳も解らず逃げ回り、アイリスは獣人に勝るとも劣らぬスピードで追いかけてくる。

「アイリスさん！やめましょう！危ないですって！うわっ！ちょっと！」

「うるさい！許さん！」

いつからいたのか、リスティアが家のすぐ橫に立って２人の追いかけっこを笑って見つめていた。