手合わせが終わった後、アイリスが照れ隠しのためウォルトを追い回すという、子供のような行に出たが、離れて見ていたリスティアが聲をかけたことにより終了した。

大の字になって息を荒げるアイリスを目に、ウォルトが自分に『治癒』をかけようとした時、リスティアが近寄ってくる。

「ウォルト！ちょっと待って！」

「？」

リスティアはウォルトのにれる。

「が付いてしまう…よ…？」

リスティアのが淡くを纏うと、『霊の加護』で傷が回復していく。ウォルトは初めて目にする力を、信じられないといった風に眺めていた。

「はい、治ったよ！」

「これは…魔法じゃない？」

「うん！私の『霊の加護』の力なんだ。凄いでしょ！」

「『霊の加護』の力…。本當に凄い。ありがとう、リスティア」

「どういたしまして！今日のお禮だよ♪親友！」

初めて目にした能力。ドヤ顔を決めるリスティアに、『凄い子だな』と目を細めた。

その後すぐに『今日はたくさんいたから、お腹空いたでしょう』と、ウォルトは夕食の支度を始めて、しばらく待たせた２人に差し出す。

ウォルトの作る料理は基本的に創作料理だが、とても味しそうな匂いが食をそそる。

「味しぃ～！もう、ウォルトは天才認定！」

「本當に…味し過ぎます。料理人になっていいと思います」

「大袈裟です。でも、ありがとうございます」

宮廷料理人にも負けない、味な夕食に胃袋を摑まれてしまった２人。獣人の男で、料理が上手い者は本當に珍しい。聞いたこともない。

後片付けを終えたウォルトは、花茶を淹れて２人に話し掛ける。

「明日、帰るときは見送ります。いつ頃出発する予定ですか？」

「フクーベから長時間、馬車に乗るので早めに著いておきたいんです。なので、出発は朝早くになるかと」

「ねぇ！ウォルトも私達と一緒に行かない？」

リスティアが無邪気に問いかけると、ウォルトは微笑みを湛えてそれに答える。

「ってくれるのは凄く嬉しいけど、今はここから出て行くつもりはないんだ。ゴメンね」

「殘念…。ウォルトも一緒なら楽しいのに…」

リスティアが落ち込んでいる。それを見たウォルトは頭を優しくでた。

「ボクらは親友だろ？また會えるさ」

「そうだけど…」

リスティアの頬はリスのように膨れている。

「王様。ワガママはいけませんよ。ウォルトさんが困ってます」

「えっ？！王様？」

「あっ！？」

「「「………」」」

完全にやってしまった…。

ウォルトと手合わせして、すっかり打ち解けたアイリスは、つい気を抜いてしまって普段通りにリスティアに話し掛けてしまった。一生の不覚。

『最後の最後にやってしまった…』と頭を抱える。リスティア様がカネルラの王だと解ってしまったら、ウォルトさんといえども今まで通りに接してくれないのではないか？と、後悔した。

こんなに親しくなれたのに、今さら他人行儀なウォルトなど見たくなかった。

ところが…。

「リスティアはカネルラの王様だったんだね。びっくりしたよ。名前だけは知ってたけど、単に同じ名前かと思ってた」

ウォルトさんは何一つ変わらない風で、王様に話し掛けている。本當にびっくりしたかも怪しいくらいに…。

「うん…。黙っててごめんね…」

「いや、當たり前だよ。どこの貓の骨か判らない獣人に、王だなんて普通名乗らないよ」

そこは別に『馬』でいいのでは？。己の種族に対する誇りだろうか？獣人のことはよく知らない。

「…私が王でも、親友？」

リスティアが呟く。

「もちろん。友達に立場なんて関係ないよ。リスティアは違うのかい？」

それを聞いたリスティアは「私も関係ないよ！生涯の強敵(とも)だよ！」と元気を取り戻した。

「それは…意味が変わっちゃうから、やめとこうね」

『それ、私が言いたかった！』とアイリスは歯ぎしりしたとか、しないとか…。

それから、リスティアとアイリスは素を含めてこれまでの経緯をウォルトに包み隠さず話した。

リスティアはカネルラの王で、アイリスは騎士団の騎士であること。多幸草を手にれるために城を走して、アイリスはそれに巻き込まれてしまったこと。ウォルトのことはフクーベで狼の獣人に教えてもらったことも。

その他諸々を話し終えると、２人は隠しごとをしなくて済むことでスッキリ気分は晴れて、何故もっと早く伝えなかったのだろうとちょっぴり後悔した。

話を聞いたウォルトは神妙な面持ち。

「狼の獣人…。もしかして、見た目が『騎神舞に耐え抜いた傷だらけのゴリラ』みたいな見た目じゃ？」

ウォルトの問いに、リスティアとアイリスは揃って頷く。

「もしかして、２人はゴリラの獣人と見間違えたとか？」

２人は若干申し訳なさげな表を浮かべて無言で頷くと、ウォルトはクスッと笑った。

「彼はマードックといって、ボクの友人です。冒険者なので、２人のことを知っていたのかもしれません」

「なるほど。それならば騎士団長の知り合いであっても納得です。あの雰囲気は、きっと高ランク冒険者でしょうから」

「彼は戦闘好きなので、ケンカでも売ったんでしょうね」

納得する２人の橫で、リスティアが笑う。

「マードックは、多分ウォルトとアイリスが闘うのも解ってた！」

「何故だい？」

ウォルトの問いに、リスティアは即答する。

「マードックは、多分アイリスの強さを見抜いてたの。ウォルトに會わせたら面白そうだ、って顔もしてた！何故かは解らないけど、ウォルトのことを私達に教えたのはそれが理由だよ！」

「それはリスティアの想像？」

「そう！でも、多分當たってる！」

ニコッと自信満々に笑ったリスティアを見て、ウォルトがアイリスに目をやると靜かに頷いた。

「王様の人を見る目は確かです。この國にも悪事を企む輩がなからずいるのですが、王様に會ったが最後、計畫は頓挫します」

「凄いな…。じゃあ、ボクが何を考えてるかも解るとか？」

「解るよ！……ん～とね…」

チラリとアイリスを見る。そして、ニヤリと笑った。

「アイリスのことを綺麗だと思ってる！」

「！！」

「當たってる…。凄いよ、リスティア…」

ウォルトは素直に心している。手合わせの時に、會話を聞かれていたことに気付いていない。

「エヘン！あとね、何でそれを正直に言ったのに怒られたのか、全く解ってない！」

「その通りだよ…。人に人って言って怒られる理由が解らないんだ。リスティアは凄い。心眼の持ち主じゃないか」

「えへへ…！でしょ！私は、ウォルトが優しくて凄い獣人だって會った瞬間に気付いたよ！」

「それは嬉しいな。」

２人が盛り上がるその橫で、アイリスは俯いたまま耳まで真っ赤に染めて小刻みに震えている。

リスティアはその姿を見て、しだけ意地悪そうに笑った。

「アイリス！よかったね！」

アイリスは、俯いたままコクリと小さく頷いた。

次の日の朝。

２人が王都へ帰還する前にウォルトは早起きして弁當を作っていた。森の食材をふんだんに使用した特製弁當だ。

昨日告白される前から２人の正に薄々は気付いていた。というか、さすがに気付かないほうがおかしい。

まだいながら、隠しきれない高貴な雰囲気を纏ったと、強者の佇まいを見せる騎士風の。誰がどう見ても普通の組み合わせじゃない。

しかし…何処かのお嬢さんと護衛のだと勘繰っていたら、まさかカネルラの王様と近衛騎士だとは想像していなかった。

そうこうしていると弁當が出來上がる。

「よし、完！あとは…」

３人で採ってきた多幸草のった瓶を手に取ると、淡くりだす。

『保存(セイブ)』

『保存』の魔法は、植や食材などあらゆるモノの狀態を新鮮に保つことができる魔法。者の技量によって保てる狀態が変化する繊細な魔法で、技量が低いと徐々に劣化したりもする。

ちなみに魔力を込めれば込めるほど長期間保存できるが、最長でどこまでいけるかは不明。

全ての準備を終えると、２人が起きてきた。

「ウォルト、おはよ～」

「おはようございます」

欠をしながら寢ぼけ眼をるリスティアと、凜とした姿のアイリスは対照的で、ウォルトの気持ちは和む。

「おはようございます。朝食できてますよ」

「食べるぅ～！」

「ありがとうございます。頂きます」

３人でゆっくり朝食を楽しんだあと、いよいよ２人は出発の時を迎える。

森を抜けるまでは護衛を兼ねて同行するつもりだったけど、見送りは玄関の外までで充分だと言われた。

言われた通りに外で見送る。

「リスティア。アイリスさん。よかったらこれを晝ご飯に食べて。魔法をかけて冷やしてあるから、晝過ぎが食べ頃だよ」と微笑んだ。

「貴方は、どこに魔法を使ってるんですか…」

アイリスさんには若干呆れられたけど、弁當を渡すと２人は素直に喜んでくれた。

容は木の皮で編んだ籠のような形で、持ちやすいよう取っ手も付けておいた。『保存』をかけた多幸草も渡す。

そして、遂に別れの時を迎える。

外に出て、互いに向き合うウォルトと２人。

「ウォルト！」

「なんだい？」

「ギュッとして！」

リスティアは両手を広げて待ち構えている。

ウォルトは微笑みながらしゃがむと、リスティアの背中に優しく手を回してそっと抱きしめた。リスティアもウォルトの首に手を回す。

「皮モフモフだね！気持ちいい！」

「ボクは獣人だからね」

「私…次に會うときは、もっと大きくなってるよ！」

「うん。楽しみだ」

「どうしても會いたくなったら、會いに來てもいい…？」

「もちろん。ボクはいつでもここにいる」

カネルラの王様が気軽に遊びにこれるとは思わない。でも、その気持ちが嬉しい。

しばらくして、満足したリスティアはし離れると、真剣な眼差しでウォルトに語りかける。

リスティアの纏う空気が変わる。

「私の親友、ウォルト。貴方に幾千萬の謝を。たとえ短くとも、私は貴方と過ごした日々を忘れることはありません」

それは１０歳の親友のではなく、王リスティアとしての言葉。そして…別れの言葉。

それにウォルトも応える。

「リスティア王。アイリスさん。貴方達の未來に幸多からんことを、この遠い地より祈念しております」

互いに見つめあい、そして互いに微笑んで告げる。

「ウォルト、また會おうね！」

「ウォルトさん、お達者で」

「２人とも、元気で」

リスティアはフクーベに向かって『の森』を颯爽と歩く。フンフンと鼻歌が聞こえてきそうな雰囲気で、どことなく楽しそうに見えた。

その様子に違和をじたアイリスは、思い切って尋ねてみる。

「王様」

「なぁに？」

「気のせいか、凄く嬉しそうに見えますが…。寂しくはないのですか？」

王様はウォルトさんに懐いていた。ひどく落ち込んでしまうのでは、と心配していたので意外にじられた。

「寂しいよ！すぐにでも戻ってモフモフしたいよ！」とリスティアは即答した。

それは確かにしてみたい…と心の中で同意する。さっきの抱擁、あれは羨ましかった。はモフモフが好きだから、誰だってりたいのだ。あくまでモフモフが好きだから。

「けど、今回は帰らなきゃ。みんなに迷かけてるからね！これ以上長居すると、さすがにお父様やお母様に激怒される。もうされてるかもしれないけどね！」

フンス！と気合いをれる。

「確かに。そうですね」

「だからね…次に會うときのことだけ考えてる！次は一緒に何をしようかなって！」

「…お強いのですね」

リスティアは「その時は、また一緒に行こうね！」と満面の笑みを浮かべる。

「はい。喜んで」とアイリスも微笑んだ。

そんな風に前を向いて、２人は『の森』を後にした。