《モフモフの魔導師》50 誰がために
騎士団控え室で、アイリスが大立ち回りを繰り広げていた頃。
自分の部屋に戻りドレスに著替えたリスティアは、足早に國王の部屋へと向かった。
部屋の前に辿り著いてに手を置くと、1つ深呼吸してコンコンとドアをノックする。
すると中からメイドが顔を出し、驚きとともに國王にリスティアが帰った旨を伝えた。
「どうぞ」とメイドに促されて室すると、れ替わるようにして、メイドは席を外すために退室した。
部屋にると、ナイデルとルイーナが寄り添うように椅子に腰掛けていた。
「お父様。お母様。只今戻りました!」
「お帰り、リスティア。このお転婆め」
ナイデルは苦笑しつつも、無事に戻ったリスティアを見て嬉しそうにしている。
「お帰りなさい、リスティア。今回は何処で何をしてきたのかしら…?」
対するルイーナは、顔は笑っているが目は全然笑っていない。
「お母様…。黙って出て行ってごめんなさい…」
「お前が、意味なく出て行ったりする子でないことは知っている。アイリスと『の森』に行って、何をしてきたのか話してくれるか?」
ナイデルの言葉にリスティアは頷いて、何故『の森』に行く必要があったのか話し始める。
「お父様。お母様。私は『の森』にしかないものを採りに行ったの」
「『の森』にしかないものだと?何だそれは?」
リスティアは、後ろ手に持っていたウォルトの編んだ籠から多幸草を取り出す。
「これを採りに行ったの!」
「何だそれは?花?」
ナイデルは見たこともない花だ。だが…。
「それは…まさか… 多幸草?」
そう呟いたのはルイーナ。リスティアが笑顔で頷く。
「多幸草?何だそれは?」
「ナイデル様はご存知ないのですか?多幸草は、とても稀な花で貰った人にはその花のに応じた幸福が訪れるという謂れがあります」
「そうなの!だから、これをお母様にあげる!」
その言葉にルイーナは驚く。
「私に、多幸草を…?突然…何故?それに、2あるのはどうして?」
「1つはお母様に、もう1つはお腹の赤ちゃんにあげる!」と笑う。
「「!!」」
ナイデル達は驚いた。
確かにルイーナはほんのし前に懐妊が発覚していた。しかし、懐妊したことは城の醫師以外知らないはず。
ルイーナは高齢出産になることもあって、調が安定するまでは皆に知らせないよう希した。だから、王子達にも伝えていない。何故リスティアが知っているのか…。
「リスティア…。何故解ったんだ?」
「お母様を見てれば解るよ!表も違うし。城下町の妊婦さん達と同じ顔してるもん!」
逆に『2人とも解ってないなぁ』という顔をされる。様々な者と流し、人の気持ちを見抜く眼力を持つリスティアにとって、看破することは容易かった。
「だからね、元気に生まれてきてしくて2人に花をあげたかったの!私からの贈り」
笑顔でハイ!と渡されたのは、菫と子の多幸草。菫はルイーナに、子は生まれくる弟妹にと。
菫は『困難を乗り越える』、子には『皆にされる』とそれぞれに謂れがある。
「リスティア…。ありがとう」
「どういたしまして!」
ルイーナの頬を一筋の涙が伝う。
「ルイーナ……」
口には出さなかったが、ルイーナは不安だった。
懐妊は喜ばしいこと。それでも、自分の年齢を考えれば、最悪母子ともにまぬ未來を迎えることも想像していた。
ナイデル様は自分を優しく支え、共に歩み考えてくれる良い夫だ。それでも不安は拭えなかった。
多幸草は…それをするのがたとえ王族であっても、まず手にらぬものであることを知っている。生息地も過酷な場所であると噂に聞いた。
私とお腹の子の困難をしでも軽減するために、リスティアは挑んでくれたのね…。
そう思うと、自然に涙が溢れる。
「それにしても、こんな稀なものを…。一どうやって…」
涙を指で拭いながらリスティアに尋ねる。
「それはね…『の森』に行ったら親友ができたの!その人が多幸草の場所も知ってて、アイリスと私と一緒に採りに行ってくれたんだ!」
「親友?『の森』に?まさか魔じゃないだろうな?」
ナイデルは『この子なら魔と心を通わせることもあり得る』と本気で考えた。あの森に人が住んでいるとは思えない。
「違うよぅ。さすがに私もそれは無理だよ!」
「あなたの親友には謝しないといけないわね…。いつか、ここに呼ぶといいわ。私もお禮を言いたい」
「ありがとう、お母様!けど、今は無理って言ってたからそのね!」
リスティアは満面の笑みを浮かべている。
「ときにリスティア。その『親友』とやらは男かか?」
ナイデルが真剣な顔で尋ねる。
「男の人!凄いんだよぉ~。優しくて強くて、も大きくて料理も上手いの!凄く格好良いんだから!」
ナイデルは小刻みに震えて、顔も引き攣っている。その様子を見たルイーナは、あらあらといった表だ。
「あとね、ったらもの凄く気持ちいいんだよ!」
「ったら?どういう意味だ?」
「抱きしめたら、凄く気持ちよかったの!」
ルイーナが苦笑して「それ以上はやめてあげて」とリスティアに言おうとしたその時。
「リスティア!私がいいと言うまで、しばらく外出止だ!」
鬼の形相でリスティアに裁きを言い渡す。
「えぇぇ~!?お父様、なんで?」
「何ででもだ!駄目だったら駄目だ!」
しかし、リスティアも1歩も引かない。
「おーぼーだ!これは、國王の権威を振りかざした、おーぼーだ!反対!!」
リスティアは小さな拳を振り上げる。
「何とでも言え!カネルラの王が、どこの馬の骨かも判らん奴を抱きしめただと…?お前の親友とやらは、子供好きの変人なんじゃないか?そもそも、お前には貞観念がないのか!?」
10歳の子を相手に、子供みたいなことを言い出す國王。しかし、親友のことを変人扱いされて、すっかり頭にきた王も負けてはいない。
表を無くしたリスティアが語りだす。
「お父様は、もっと大人になられたほうがよろしいかと思います。我が子が、幾度となく助けられた親友との別れに、抱擁をんだことの何が悪いというのです?量が狹いこと、この上ないですね」
「ルイーナが言いそうなことをお前が言うな!どういう子供だ!…とにかく、俺はそいつをお前の親友とは認めん!というか許さん!見つけ次第、國外追放してやるから、そのつもりでいろ!」
大人びたリスティアの発言と子供じみたナイデルの臺詞。形逆転といったじ。
リスティアは冷靜に言葉を続ける。
「お父様は、多幸草のこともご存知なかったですね?多幸草を人に譲ってもらうとしたら、どれ程の価値があるかご存じですか?」
「知らん…!それが何だと言うんだ!?」
「1千萬トーブです」
「なんだと?」
「多幸草を人に譲って頂くと、1株で1千萬トーブだと申し上げたのです」
ナイデルが信じられないといった目でルイーナを見ると、ルイーナはコクリと頷いた。
1千萬トーブとは、カネルラの年間國家予算の10分の1以上だ。それを2株ということはこの花は國家予算の約2割と同等の価値だとナイデルに暗に伝えている。
それ程、稀なものであると。
「私の親友は…高潔な人です。…彼は何も聞かなかった。何故、多幸草をしているのかも、私達が何者なのかすら聞かなかった。人に聞いて、たまたま訪ねてきただけの私のことを信用して、場所も教えてくれた。それどころか、多幸草の群生する場所はダンジョンを抜けた先にあったにも関わらず、私が王であることも知らずに私を守り抜き、その場所へ連れて行ってくれたのです」
「……」
「そして『渡した人に幸せが訪れるよう心から願っている』と言ってくれました。私は、彼に命を守ってもらい、本當に々なモノを貰ったのに、何のお禮も返せていない。だから、いつか恩を返せる時がきたら必ず返します。そして、そんな大恩ある私の親友を馬鹿にする発言は、たとえお父様であっても許すことはできません」
「……」
「勝手に城を走した罰をけるのは、吝かではありません。ただし、お父様が私の親友を貶めるような発言をしたり、謀略を巡らせるというのであれば…」
「……何だというのだ?」
「私は、どんな手を使ってもカネルラを出ます。その後、持てる力の全てを使って、この國を傾けさせて頂きます」
その言葉にルイーナは驚愕した。
リスティアは、親であるナイデルや自分よりも、しているであろうこの國よりも、出會ったばかりの親友をとると斷言したのだ。それ程、謝しているのだと。
リスティアの瞳には、一點の曇りもなかった。
★
私は、カネルラの王に生まれて…優しい家族に囲まれて幸せな生活を送っていると言いきれる。
カネルラも國民も騎士団や城で生活する者達が大好き。まだい私を気にかけてくれて、いつも褒めてくれる皆が大好き。ずっとカネルラで暮らしていたい。
でも…私は王。いつかはカネルラを離れて別の國に嫁ぐ。皆と離ればなれになる。それが悲しくて、人と関わるときはいつでも縁を切れるよう線を引いてきた。
理解できないことなんかなかった。どんな問題でも答えに辿り著けた。會えばどんな人なのか直ぐに見破れた。こんな能力なんて自慢にもならない。
自分の未來だってそうだ。もう、結末まで予想できている。
でも、ウォルトとの出會いは予想できなかった。過去から現在まで世界に存在しないと云われている獣人の魔法使いとの出會いは、10年の人生で1番驚いて興した。これ以上の驚きがこの先あるだろうか?
數多くの魔法を見てきたけれど、ウォルトの魔法はその中でも斷トツにしくて、心に響いた。優しくて綺麗で、使い手の心のを映し出すような魔法。
私が王であろうがなかろうが関係ないと言って、別れのときまで何一つ変わらず自然に接してくれて嬉しかった。何も聞かずに、一緒に笑ってくれて、歩いてくれて、叱ってくれて、幸せを願ってくれた。
強く思った。ウォルトはお互いの立場を超えて、私と生きてくれる存在だと。忖度無しに隣に寄り添って、怒り怒られながら共に過ごせる親友。拠なんて無い。ただそう思った。
私は自分の直を信じる。誰にも親友を馬鹿にさせたりしない。
お父様もお母様もお兄様達も、カネルラの皆も大切。天秤にかけるつもりはないけど、カネルラはお父様達が皆で守れる。私は…1人でも親友のウォルトを守ってみせる。
★
さっきまで我を忘れて興していたナイデルだったが、その言葉を耳にして、ふぅ…と溜息をつくと口を開いた。
「お前の命の恩人といえる友人を、馬鹿にするような発言を心から詫びよう。そして、ルイーナが言うように俺も禮を述べたい。機會があれば此処に呼ぶといい」
「お父様、ありがとうございます」
そう言うと、表がいつものリスティアに戻る。
「ところで、リスティア」
「何ですか?お父様」
「お前はその男と親友なのだから、それ以上のはないのだな?」
「もちろん。今はそんなこと考えられないよ」
「ならばいい。外出止も必要ない」
「ありがとう、お父様!じゃ、2人でゆっくりしてね!ご機嫌よう!」
そう言ってパタパタと音をさせながらリスティアは部屋に戻っていった。
「ルイーナ。見苦しいところを見せてしまったな」
「いえ。私も、そしてあの子もきっとナイデル様の気持ちは解っています。聡明な子です」
「そうだな…。しかし、あの発言には驚いた」
「國を傾ける…ですか?」
「あぁ。私達よりも、知り合ったばかりの友人をとるとは。いやはや凄い者が現れたものだ」
「本當に驚きしかありませんでした。さぞかし良い人なのでしょうね」
「そうでなければ困るぞ」
ナイデルが苦笑する。ルイーナは微笑みながら冗談じりに聞いてみる。
「あの子が本気を出したら、この國を傾けることができると思いますか?」
「できる。傾けるどころか、滅ぼすこともできるだろう。今すぐは無理だが」
ナイデルは真顔で即答した。予想外の答えに、ルイーナは本當に?と半信半疑の表だ。
「お前があの子の力をどう見ているか解らないが、俺と王子達の意見は一致している」
「どういうことです?」
「リスティアは…男に生まれていたなら、間違いなくこの國を継ぎ、大きく発展させるだけの才能を持っただ。今でさえ、生まれた順序や別など関係ないと思わせる」
「初めて知りました…。聡明なのは間違いありませんが」
「故に、あの子が嫁ぐ國の発展は約束されている。伴になる男に、あの子の意見に耳を傾ける量があればだが。だからこそ、あの子の嫁ぎ先は慎重に決める必要がある。何をするか解らないからという理由も當然あるがな」
ナイデルは困ったように笑う。
「あの子の力は、それ程なのですか…」
ルイーナにとっては、兄妹は皆、等しく可い我が子だ。特に、1人だけの子だったリスティアは元気に育ってくれたらそれでいい、くらいに思っていた。
兄である王子達から似たようなことを言われたことはあったが、仲の良い兄妹ゆえのものだと思っていた。
「…間違っても、あの子にこの國を傾けさせる訳にはいかないし、それを本人もんではいない。だが、さっきのリスティアは本気だった。國王として、父親としてそんなことをさせる訳にはいかない」
「平和なこの國の、1番の脅威が我が子だなんて驚きですわ」
ルイーナは苦笑する。ナイデルは眉を下げて力無く笑った。
「そういえば、さっきリスティアに『親友以上のはない』と仰られましたね」
「それがどうかしたか?リスティアも考えられないと言っていただろう?」
「あの子はナイデル様を試したのです。気付いてらっしゃいますか?」
「どういう意味だ?」
「解らないのなら、いいのです。何も問題はありません」
「一、何だと言うんだ…?」
リスティアはナイデルに尋ねられたとき、そんなこと考えられない、と答えた…が、『今は』とも言った。これから先は解らない、ということ。だが、そのことにナイデルが気付くことはない。
その後、ルイーナは、まだ目立たぬお腹を優しくさすりながら、花瓶に生けられた2の多幸草をいつまでもおしそうに見つめていた。
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