カネルラでは、年に１度、騎士や冒険者による武闘大會と、魔導師による魔法武闘會が行われる。

元々は、騎士と魔導師達が１年間の修行の果を王族と國民に披するべく始まったものだが、今では冒険者から一般の力自慢まで誰もが參加可能となり、大きな盛り上がりを見せる。

この大會で活躍し、騎士や宮廷魔導師として登用された者もなくない。

流石に一般人を誰でも出場できるようにしてしまうと、大會に時間が掛かりすぎてしまうため、事前に予選を行っている。騎士や冒険者達もまた然り。

大會は國でも１、２を爭う人気の催しで、多くの國民が注目する一種のお祭りのようなもの。

今年もつつがなく執り行われることとなり、本日、城下町の闘技場には選ばれし闘士達と厳正な選の結果當選した多數の観客、そしてナイデル達王族の姿があった。

懐妊中の陣を除く王族の警護の任に就くのは、ボバンとアイリスの騎士２人。

過去、王族が襲撃されるような一大事は起こったことなどないが、萬が一に備えてのことである。

護衛としてはいささか數がない気もするが、王族の男は皆、騎士団でも上位にるほどの実力を持っているので、平和なカネルラでは２人で充分だと通達されている。

騎士である２人は、闘技場を見渡す特等席に一列に並んで座る王族の後ろに控えていた。

國王の挨拶も程々に、先ずは武闘大會が始まる。今年も騎士や冒険者など様々な者達が修行の果を存分に発揮し、互いにしのぎを削る好勝負を繰り広げる。

たった今、騎士団代表の若者が勝利し、雙方の健闘を稱える拍手を贈りながらナイデルが呟く。

「ボバン。今年も騎士達は活躍しているようだな。お前達が出場しないのは殘念だが」

「勿ないお言葉。確かに健闘しておりますが、まだ甘い。鍛え方が足りなかったようです」

「相変わらず手厳しいな。だが、それでこそ騎士団長か」

「恐れります」

そんな會話をしながら、ナイデルはリスティアを見る。いつもなら、大興で大會を観覧しているリスティアが、今日は楽しそうではあるが、しだけ大人しくじる。

どことなく元気がないような…。

その後も、大會は滯りなく進行し、決勝戦では騎士団代表の若者と高ランク冒険者の剣士の対決となった。

死力を盡くした攻防の末に勝利したのは、冒険者の剣士であった。

観客達は雙方に惜しみない拍手と歓聲を贈り、２人は闘技場中央で互いの健闘を稱えあっている。

そのまま表彰式へと移行し、國王から労いの言葉と、ささやかではあるが賞金と優勝者の証である勲章が授與された。

その後、食事休憩を挾んで魔法武闘會が行われる。今大會には、王都一の魔導師と名高いナッシュが參加するとあって、一際注目を浴びている。

魔法武闘會は魔導師達が磨き上げた魔法をお披目する貴重な機會であり、中々お目にかかれる機會のない魔法が見れるとあって、一般人にも大人気だ。

武闘會は、開始直前に『可視化(ミール)』の魔法を闘技場に掛けるところから始まる。これは、魔法を見ることができない者も多數存在するため、誰もが魔法を視認できるようにするための魔法である。

さらに、魔導師達の手によって観客席には『魔法障壁』が張り巡らされ、魔法の被害が及ばないよう配慮されている。

そして魔法武闘會は始まった。

火、氷、風と様々な魔法を駆使して、闘いは繰り広げられていく。

魔法が使用されるたびに、観客から大きな歓聲が上がる。その闘いは武闘大會とは異なり、『派手』の一言である。

防魔法や攻撃魔法を使い分け、それぞれに磨いてきた魔法を駆使して闘う。

魔法武闘會では、大抵先に魔力切れになった者が敗北となる。防魔法を使えなくなり、まともに魔法をけた場合、命に関わるからだ。

こちらも滯りなく大會は進み、決勝戦前の小休止にった。

決勝戦は前評判通りに勝ち進んだカネルラ最高の魔導師との呼び聲高いナッシュと、新進気鋭の魔導師ポルトの組み合わせとなった。

今大會は近年稀に見る高水準な魔法武闘會になっているにも関わらず、安定して決勝に殘ったナッシュは流石と言うべきか。

しかし、ここでもリスティアは楽しんでいるようには見えるが何処か違和がある。気になったナイデルは、ちょっと確認してみることにした。

「リスティア。今年は優秀な魔導師が多くて素晴らしい大會だと思わないか？」

「お父様…。やっぱりそうなのかな？」

首を傾げてリスティアが聞き返す。

「ここ何年かでは、１番の盛り上がりだと思うが？」

「そうだよね…。私もそう思ったんだけど…。うん！多分、私が期待しすぎてたんだ！けど、おで解ったよ！」

「何がだ？」

「私の親友の凄さが！やっぱり凄いんだ！むふぅ～！」

「意味が解らん…」

リスティアは再認識した。

王都の魔導師達は確かに凄いけど、私の親友は魔導師として別格なのだと。

詠唱速度や威力はもとより、ウォルトの魔法は多彩で洗練されていて、言い表せないほどしかった。

生をけて１０年の人生で、最もしいモノだとじた。ダンジョンで魔法に魅了されて、見とれていたことを思い出す。

鼻息を荒くするリスティアを見て、アイリスは後ろで警護しながらクスリと笑う。気持ちが良く理解できるからだ。

その様子を見たボバンが小聲で話し掛けた。

「王様が仰られているのは、お前が負けた獣人のことだな」

アイリスはコクリと頷いて答える。

「今大會は、例年になく素晴らしい魔法武闘會だと思います。私の知る限りでは、過去最高の水準かもしれません。けれど…今までの闘いを全て見た上で斷言できます。誰一人、王様の親友がる魔法には遠く及ばないと」

「なるほどな…。それが王様の発言の真意か。尚更、會ってみたくなるな…」

「彼の魔法は、威力、範囲、詠唱速度、多彩さ。全てがここに居る誰よりも上です」

「お前……やっぱりソイツに惚れてるだろ？」

「な、何でですか？」

「普段無口なくせに、ソイツのことになると饒舌になる」

「違います！尊敬してるというか…好敵手というか…何でしょう？自分でもよく解りません」

「まぁいい。だが、機會があったら俺にも會わせてくれ」

「約束はできかねます」

「絶対だ。これは団長命令だぞ」

「ケンカを売らないと約束して頂けるなら…考えます」

「お前は俺を何だと思ってるんだ？」

「団長。まだ護衛の任務は終わっていません。お靜かに」

「くっ…。まぁいい」

そんな會話のあと、アイリスは休憩中に花を摘みに行こうと、ボバンに斷りをれ席を外す。

すると、その途中でに囲まれたナッシュに遭遇した。知らぬ間柄ではないのだが、あえて気付かれぬよう、そっと通り過ぎようとした時、話し掛けられてしまう。

「アイリスさん。ご機嫌よう。僕の雄姿を見てくれてますか？」

「ナッシュさん。こんにちは。しかと拝見しております」

無表に、抑揚の無い聲で答える。

「相変わらず、つれないですね。私が優勝した際には、護衛の疲れを癒すために、一緒に食事でもいかがですか？」

「心遣い恐れります。しかし、まだ決勝戦は始まってもいませんし、気が早いのでは？」

「アハハッ。決勝の相手のことは良く知りませんが、まず僕が負けることはないでしょう」

り付けたような笑顔になり、チッ！と心の中で舌打ちする。

このナッシュという男、容姿も端麗で魔導師としての才能も申し分なし。

魔討伐でも數々の戦果を挙げる優秀な男なのだが…自信過剰で癖が悪く、泣かされたは數知れない。

そんなナッシュのことを、心嫌いしていた。なのに、何故かちょいちょい絡んでくるので、面倒くさいことこの上ない。

お構いなしとばかりにナッシュは続ける。

「例年、僕が參加してしまうと盛り上がりに欠けるので不參加としていました。けれど…皆さんの聲援をけて闘うのは気持ち良いものですね」

前髪をファサッと手で靡かせるナッシュ。心底イラッとする。

『こんの…優男め。新しい彼か、狙ってるに良いとこ見せたいだけだろ！…って、周りの達、目がハートになってる？！』とまで出かかるが、グッと堪える。

「ふぅ。僕は自分の才能が怖い…。世界のどこかには僕と肩を並べる魔導師がいるのだろうか…。常に孤獨…。これも天才の宿命か…」

『くっ。現狀、王都の最強魔導師といえるだけに、腹が立つが仕方ない。いちいち前髪をファサッ！ってやるのがすごくムカつくけど！』と思うが、おくびにも出さない。

「アイリスさんも、いつでも私の武勇伝を聞きに來て下さい。天國に昇る気持ちになれますよ」

『ダボがぁ！お前を天國に送ってやんよぉ！』と思うが、手を握りしめ爪を食い込ませながら堪える。

「それでは、まだ決勝がありますのでこの辺で失禮します」

をはべらせたまま、何処かへ去って行く…と思いきや、振り向いてアイリスに告げる。

「アイリスさん。騎士団長にお伝えください。王や國民を守るべき騎士が、武闘大會で優勝を逃すなどあり得ない。鍛え方が足りないのでは？正直、私が騎士と１対１で闘ったとしても負ける気がしません」

ナッシュは小馬鹿にしたような顔でそう告げると、今度こそ立ち去る。

その言葉を聞いたアイリスは怒りに打ち震えて、しばらくその場に立ち竦んでいた。