暇なら読んでみて下さい。

( ^-^)_旦~

「お疲れさん。気は晴れたか？」

城に戻ったあと、騎士控室でボバンはアイリスに尋ねた。

「はい。溜飲が下がりました」

「そうか。闘ってもらった甲斐があったな。まぁ、王様のおだが」

「しかし、団長らしくなかったのでは？私が負けるとは思わなかったのですか？」

「考えもしなかった。ナッシュ殿は優秀な魔導師だが、お前には勝てるはずもない。彼は、々自信過剰過ぎる。これが良い薬になるといいが」

「進すれば良い魔導師になると思いますが…どうでしょう？」

「これで終わるなら、それまでの。次の強者が現れるだけだ」

「そういうものでしょうか…」

ナッシュは王都でも特に優れた魔導師。アイリスもそれに異論は無かった…。し前までは。

ウォルトと闘った経験を持つアイリスは、冷靜にかつ客観的に々な分析ができていた。その上で、自分がナッシュに負けることはあり得ないと思えたのだ。

自分自の実力を正確に把握できるからこそ、自分に足りないものや相手の力量にも気付くことができる。自信家の彼にはそこが足りなかった。

ナッシュさんはし前までの私と同じだ。ウォルトさんと闘っていなければ、実力に自信を持てず、今日の試合でも敗れていたかもしれない。

そう思えば、やはりウォルトさんとの出會いは自分を大きく長させた。彼にまた會えたら禮を言わねば。

「ところで、ナッシュ殿だが」

「？」

「お前に負けた直後は若干落ち込んで見えたが、失しながらも堂々たる態度で、笑顔で取り巻きのを侍らせながら退場した」

「それは………あと３発くらい毆っておくべきでしたか…？…いや。やっぱり顔面の中心を、陥沒するくらい毆ればよかった！」

「騒なことを言うな…。それと、伝言がある」

「伝言？誰からですか？」

「ナッシュ殿からだ。『今回は負けましたが、今度は僕と夜の勝負でも如何ですか？』と」

「…よし。奴の息のを止めてきます。今すぐに…！」

アイリスは鞘からスラリと剣を抜く。

「待て待て。彼なりの敗北宣言だろう。表は苦笑いだった」

「そうですか。ですが、私にそういう冗談は通じません」

剣を収めて不機嫌に話す。コイツなら本當に斬りかねないな…とボバンは思った。

「ときに、アイリス」

「何でしょうか？」

「お前の溜飲を下げる手助けをしたのだから、俺を噂の魔導師と會わせてくれるんだろうな？」

なるほど。今回の団長の行にはそんな腹積もりもあったのか、と納得したアイリスだったが…。

「それとこれとは話が別です。約束はできかねます」

「何故だ？！とにかく俺にも會わせろ。この間も言ったが、これは団長命令だぞ」

「…優しい方なので、野蠻な人には會わせたくないのです。會った途端に毆りかかったり、投げ飛ばしたりするかもしれませんし…」

「誰が野蠻だ。そんなことするか」

「マードックさんと知り合いのようでしたから、其方に聞かれたほうがよろしいのではないですか？」

「むう…。アイツと話しても、話にならない。すぐ『闘おうぜ！』と、それしか言わない。だが…その手があったか」

「団長に挑むとは。確かに強そうな方でした。まるでゴリ…　ご立派な戦闘狂に見えました」

「…全然褒めてないぞ。何だ『ご立派な戦闘狂』って」

「とにかくお斷りします。あと、彼にちょっかいを出したら、おそらくリスティア様が黙っていませんよ」

「それもそうか…。仕方ない。出會うまで待つとするか」

「待つ？」

「あぁ。俺は、己を貫いて進していれば、必ず強者と巡り會うと思っているからな」

「なるほど。面白い考えだと思います」

団長は強い。私の知る限り、カネルラで彼に並ぶ者はいない。今日、ナッシュさんが団長ボを相手に指名していたら秒殺されていたはず。

だが、ウォルトさんならば…と一瞬考えを巡らせたが、すぐに思考を停止する。

団長の言う通りであれば、いずれ巡り會うであろうし、その時には闘うとも限らない。ウォルトさんは私の我が儘を聞きれてくれたが、本當は闘いたくなかったはずだ。

しかし、アイリスの心から完全に拭いきれない想い。それは、ボバンとウォルトの闘いを見てみたいという純粋な好奇心だった。

★

同じ頃ナイデルは、自室にて今年は懐妊により観覧できなかったルイーナと今日の武闘會を振り返っていた。一通り大會の経緯を聞いたルイーナが話す。

「それでは、魔導師と騎士が闘い、騎士が勝利を納めたのですね」

「あぁ。正直、アイリスがあそこまで強いとは想像していなかった。以前、武闘會で見たときと比べるとまるで別人だ」

「彼の活躍を見て、の騎士希者が増えるかもしれませんね」

「うむ。否定はできん。それ程の衝撃だった」

「リスティアが一役買ったようですが、相変わらずお転婆ですね」

「あぁ。しかも、あの子はアイリスが勝つと確信していたようだった。いつも自信過剰なナッシュに、お灸を據えるつもりだったのかもしれんな」

「あの子ならあり得ます。しかし、それが半分…といったところでしょうか。殘りの半分は…単に面白そうだったからでしょうね」

ルイーナはクスリと笑う。

「そうかもしれん。しかし、あの子は魔法を見ていても「私の親友は凄い！」とそればっかりで興しきりでな。俺にはさっぱり意味が解らんのだ」

首を傾げるナイデルを見て、ルイーナは心で溜息を吐いた。

ナイデル様は聡明な國王だけれど、娘に関しては勘が悪いというか何というか…。言い方は悪いが、かなり抜けている。

今の話を聞けば、リスティアの親友は凄い魔導師なのだろうと予想できない方がどうかしている。それも王都の名だたる魔導師を見た上で、あの子がそう言うのだからかなりの腕前なのだろう。

…けれど、それを口に出してしまうときっとナイデル様はまた騒ぎ出す。

重ので、また前回の様な面倒くさい展開に巻き込まれるのは絶対に免被りたいので、ルイーナは黙っておくことにした。

「ん？ルイーナ？どうした？」

「いえ。何でもありませんわ。オホホホ！」

「？」

★

さらに同時刻、リスティアの部屋では、のんびりとお茶しながら兄妹３人の意見換が行われていた。

「今年の武闘會は見所が多かったな」

「世紀の対決も見れて、僕の管轄である騎士団も実力を見せてくれた。良い大會だったなぁ。リスティアの提案には驚いたけど」

「そう？お兄様たちは、どっちが強いか気にならなかったの？」

「気にならない…と言えば噓になるな。カネルラの戦力の二大派閥だからな」

「兄さんの言う通りだね。ただ、どちらが強いかという問題は、お互いの関係に亀裂がる可能があるから踏み込みにくかったというのはあるね」

「ふ～ん。お兄様たちは々気にするんだね。私的には『今回は騎士の勝ち』ってだけだけどね！」

「次、闘えば解らないということか？」

「うん。お互い勝ったり負けたりしながら、切磋琢磨してどっちも強くなっていく。そのための第１歩だよ。今後はお互いに『闘ってみたい』ってなると思うよ。もちろん恨みっこなしでね。カネルラの皆はそんな格悪くないから！」

そんなことを言いながら、花が咲いたようにニパッと笑った妹を見て、敵わないなと自的に笑う２人。

単に面白がっていると思っていたが、ひいてはカネルラの為になると思っての行だと言う。

２人にはリスティアのような発想はなかった。騎士と魔導師、それぞれの裁に気を使うあまり、彼らがより強くなるための選択肢を１つ潰していたのか、と反省しきりだ。

今までが間違っていたとは思わないが、リスティアはカネルラの國民気質であるおおらかさで、諍いは起こらないと言い切った。

自國民を信用するその純粋さと確固たる意思は、この娘が人の上に立つであるということを嫌でもじさせた。…國政に関わる者としては、々楽観的過ぎると思うが。

「兄さん。僕たちも頑張らなきゃね」

「そうだな。負けてられん」

首を傾げる可い妹に、想を盡かされないためにも。２人は互いにそう思っていた。

★

「ふぅ…」

アイリスに敗れたナッシュは自分の家で１人黃昏れていた。試合後、勵ましてくれた達にも早々に別れを告げて、１人で帰宅し、普段飲まない酒を飲んでいる。

ナッシュは年齢も３０半ばを過ぎて、今でこそ王都一の魔導師と呼ばれているが、若かりし頃は凡庸な己の才能を開花させるためにの滲むような努力を重ねてきた。

純粋に魔法が好きで、遊びも一切やらずひたすら修行に明け暮れた。ただ、がむしゃらに。

しかし、そんな日々を過ごしていると、気付けば己の上に誰もいなくなった。橫に並ぶ者もいない。しばらく立ち止まってみても、誰も追いついてこないことに気付いた。

この頃、ナッシュは虛しさをじていた。新しい魔法や式について話したくても、誰とも話が合わない。手合わせしても全力を出すこともなく終わる。

この頃から周りにチヤホヤされだすと、今までの努力も忘れて『自分は天才。特別な存在だ』と勘違いし始めた。

魔法の修行はほどほどに、と遊び回り、自墮落な生活を送る。

それでも、まだ誰も彼には屆かない。もう魔法の修行などする必要をじなくなっていた。

そして、新たな捜しを兼ねて、暇潰しで出場した武闘會でアイリスと闘うことになる。

『彼は、強かった…』

酒をクイッと煽って思い返す。

騎士のことはよく知らない。使う『技能』のことも。今まで知る必要も無かった。

常に有頂天になっていたナッシュの頭は、目の前の相手が『強い』ということにも気付かないほどお祭り狀態だった。

自信満々に放った最高威力を誇る魔法も、軽く防がれ毆られて慘めな姿を曬しながら試合は終わった。

完全に相手の力量を見誤って、自したようなものだ。正直アイリスがあんなに強いとは思いもしなかった。

アイリスの言う通り、己は大した魔導師ではなかったのだ。余りの正しさに、その言葉に腹を立てる資格すらない。ただ大口を叩くだけの下らぬ存在。それが自分。

興味のない目で見られたのも今なら頷ける。きっと彼は磨きあげた己の実力と、錆びきった魔導師の力の差を理解していたのだ。だから下らない闘いだと言い切った。

『……このままで、終われない。…まだ、終わってない』

ナッシュは聲を殺して泣く。堪えてもポタポタとテーブルに涙が溢れる。

最後は騎士団長に冗談を飛ばして誤魔化したが、ただ悔しかった。相手を舐めた報いとして…びきった鼻っ柱をへし折られ、観客の眼前で醜態を曬した。

それでも…もしも『次』があるのなら絶対に負けたくない。今度こそ自分が勝ちたいと、心に小さな火が燈る。

どれ程の時間と修行が必要か解らない。だが、思い出した。自分がただの凡人だったということ。努力して強くなったことを。

もうびしろなど微塵も殘って無いかもしれないが、足掻いてみる。もっと強くなるために。

そして、アイリスと再戦したとき、磨き上げた魔法で今度こそ勝利するために。

読んで頂きありがとうございます。