《【書籍化】初の人との晴れの日に令嬢は裏切りを知る〜拗らせ公爵はを乞う〜》行を起こす
「お嬢様!!どういう事ですか!??」
リタが馬上から悲鳴のような聲をかけてきた。
「公爵様には他に昔からする『シルヴィア』という方がいらっしゃるのよ。それを、バカ王子が婚約破棄したから嫌々彼にお鉢が回って來たと言うことよ。公爵様は今後も彼との関係を続けるつもりだそうよ。」
馬の速度を上げながら、真っ白なドレスをはためかせ視界を遮るヴェールを外した。
「あんな手紙を寄越してきたのに、他にが!!??……信じられません。」
私より顔を悪くしてリタが言う。
「だから言ったじゃない。噂の彼と手紙の容があまりに掛け離れているって。……きっと誰かに書かせていたのよ。アントニオ王子が大々的に婚約破棄を言い渡した手前、次の婚約は円満であると見せる必要があったんでしょうね。……私の意志で婚約したという必要がね……。」
「……でも……、それなら本來政略結婚ということですよね。旦那様やサリエ様にはどのようにお伝えされるのですか?」
「伯爵家を出るわ。」
「え!?」
「大丈夫よ。オスカーもいるし、サルヴィリオ家は安泰だわ。私はやりたいことを探すの。」
「……みなさん心配なさいますよ。」
オスカーや父は寂しがってくれるだろうが、きっと母は清々するのではないだろうか。
出來損ないの娘が消えたら……。
「大丈夫。定期的に手紙を書くわ。」
ふうと小さくため息をついたリタが「一度決めたら、テコでもかないから言っても無駄ですね。」と呆れて言った。
「リタはサルヴィリオ領に帰るといいわ。テトも待ってるしね。」
そう言うと、
「私はお嬢様のそばにいますよ。ずっと。」
と優しい瞳で言った。
「これからどうするんですか?」
「とりあえず、レグルス邸にメイドとして行くわ。」
「………………………………は?」
「レグルス邸で働くのよ。」
「…………………………は?あれ、幻聴かな?」
「『シルヴィア』と私の差を見にいくのよ。」
「…………何の為に?」
「國王陛下にすら『魅的な』『王のような風格』『一目で心奪われる』とまで言わしめたよ。しかも公爵様を戦場で支えるほどの腕前だとか。……今後の自分の為に勉強しにいくのよ。」
「そんなことする必要あります?」
「あるわ。元婚約者に『野ザル』と言われ、結婚相手には魅的な人。じゃあ次は?今の私では誰もとして見てくれないことぐらい自分で分かってる。……だから魅力的なになるためのノウハウを知りにいくのよ。そして、周りの……過去の男達に後悔させて、素敵な人と幸せになるのよ!」
「……………………。え、伯爵家出たら見せつける事もできないんじゃ……。」
超絶死んだ目で呟きこちらを見るリタにイラッとしつつも、
「まずは己を知って、敵を知らなければ勝負にならないわ。報を集めるの。今回は勝ち目がないと逃げたけど、戦う準備をするのよ!!」
「戦じゃないですよ……。ここで兵法書の容なんて持ち出さないで下さいよ。」
「いいえ、これは戦いよ。二年後……いいえ、一年後素敵な男と幸せになれるかどうかの戦いなのよ!!」
「…………えー……。」
呆れを通り越した目をしつつも、リタは言う。
「それに、レグルス公爵領には『必ずなりたい貴方になれる』という容の専門店があるのよ。確か『レアリゼ』というお店だったかしら。最近王都のたちもそこに行ってしくなって帰ってくるそうよ。」
「えぇ……?新手の詐欺じゃないですか?そもそもお嬢様が容や流行について知っていること自が……。」
彼の求婚が始まってから々レグルス公爵領について調べていた時、偶然知ったのだ。
最近がレグルス領でしくなって帰ってくると。
貴族の令嬢の間でも話題だそうで、そこに行った令嬢は帰ってくるなり即結婚相手が見つかるともっぱらの噂だそうだ。
「いいじゃない、行ってみる価値はあるわよ。易も盛んだからリタの言う通り味しいものもいっぱいあるわよ!」
「なんか方向間違ってません?……あぁ、もう好きにしてください。で、どうするんですか?」
「とりあえず公爵様は結婚式が終わったら、一度南部の魔対策の急ぎの用があると言っていたから、それを済ましてハネムーンに行く段取りだったでしょう?南部に行けば一週間は帰ってこないわ。その間だけ、私が結婚した際一緒に連れていくはずだったメイドとして潛り込むの。どうせ公爵様が南部から帰ったら出て行かないと行けないんだから、シルヴィアについて調べたらさっさと引き上げて、そのお店に行くのよ。」
「上手くいきますかね……。お嬢様は執事の方に會っていますよね。」
「上手くいかすのよ。」
そう言って後ろに束ねていた髪をバッサリと持っていた短剣で切った。
「お嬢様!!??」
「人はね、違う環境で、違う雰囲気で會えば中々分からないものよ。服裝も髪型も変えてしまえば一度會った程度の人間なんて早々わかるもんじゃ無いわ。あなたはリタのままで、私は……ティー……いいえ、アンノと名乗りましょう。」
団長として大人っぽく見せようと出していた額も、長い髪も、ショートカットにして、前髪を作れば隨分く見えることだろう。
「分かりました。」
リタは顔を歪めて渋々了承した。
そのリタの顔がテトそっくりだと笑うと、更に眉間に皺を寄せた。
――――――「ここの結界は凄いわね……。」
レグルス公爵邸に近づくだけでもわかる結界の強力さに思わずリタに言った。
「そうですね。一度ったらこっそり抜け出すということは難しそうですね。……行きますか?」
「もちろんよ。今更帰らないわ。」
そう言って、公爵家の正門の前に立った。
門番にサルヴィリオ家から來たと伝えると、すんなりと応接に通され、執事のアーレンドさんが対応した。
目があった瞬間彼の視線にどことなく不安をじたが、彼はニコリと微笑み、
「ようこそ、お越し下さいました。我が主人からティツィアーノ様が連れて來られる侍の方々を丁重におもてなしするよう指示を頂いております。今からお屋敷のご案を致します。」
そう言って、調理場から、客間、洗濯室まで案をしてくれた。
その時、メイドの一人が足速にやって來て、
「旦那様のお戻りです。」
とアーレンドさんに伝えた。
――早すぎる!
そう思いながらも私もリタも顔に出すような愚かな真似はしない。
――大丈夫。
彼は私を見たことはないし、手紙も誰かが代理で書いていたものだ。
髪も切った。
令嬢の格好も、騎士服も著ていない。
手は荒れ、日に焼けたからは貴族らしさはじないはずだ。
――――令嬢らしさのカケラなんて無い。
「では、お二人も旦那様のお迎えに參りましょう。」
そうわれ、アーレンドさんの後ろについて行った。
大きな玄関ホールの正面で、アーレンドさんの後ろに付き待機していると、重厚な玄関からリリアン様とウォルアン様の前を進み、ってきた人は紛れもなくレオン=レグルス公爵だろう…。
艶やかな黒い髪に、ダークブルーの瞳。
そこに立っているだけでざわりとした気と、相手を跪かせる高位貴族の雰囲気が漂っている。
整った顔立ちにが騒ぐのも分かる。
彼こそが間違いなく公爵様だ。
ダークブルーの瞳は仄暗い怒りを纏っているようで、周りにいる人間が真っ青な顔をして一定の距離を置いている。
花嫁に逃げられたことが彼のプライドを傷つけたのだろうか。
私に縛られることなく、する『シルヴィア』との時間ができたのを喜んでも良いものなのに。
本來ならもう結婚式を終え、二人で南部に向かっている予定だった。
今日の朝まで自分の新しい生活にを躍らせていたと言うのに、……半日でこうも世界が暗くじるものだろうか。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
アーレンドさんの挨拶と同時に私もリタも彼のそれに倣って頭を下げた。
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