案された部屋は文句のつけようのない部屋だった。

「どうかな？ティツィアーノ嬢は気にってくれるかな？」

り口のドアにもたれかかりながら本來花嫁にと用意された部屋にの中央に立つ私に公爵様が訪ねた。

――イケメンはドアにもたれかかるだけで気がダダれるものなのね……。

そんな事を思いながらも部屋の細部まで気を配られた家やリネン、全てが上品で、落ち著く裝にため息がれそうになる。

奧に見える寢室から覗くベッドも遠目に見ただけで最高級の品質だと分かる。

自分の部屋より心地良さそう。

日當たりはいいし、大きな窓から見える公爵家の庭はとても綺麗に花が咲き誇っている。

部屋のも白とグリーンで優しい雰囲気を作り、置かれた家もウォールナットの優しい合いを引き立てている。

「……はい。お嬢様はとても気にられると思います。」

そう答えると、隣にいたリタも「趣味ど真ん中ですね。」と私にだけ聞こえるように呟いた。

「それは良かった。彼が他にしそうながあれば遠慮なく言ってくれ。」

優しい目でこちらを見る公爵様に落ち著かない気持ちになり、慌てて目を逸らすと花瓶が視界にった。

「スイートリリー？」

見覚えのありすぎる淡いピンクの花に思わず聲がれる。

あの花は北部に位置するサルヴィリオ領の一部でしか咲かない花だ。香りの強く無いそれは、サルヴィリオ家の屋敷の中でも沢山飾られている。

「あぁ。故郷の花でもあればしは彼の癒しになるかと思ったんだ。産まれてからずっと過ごした土地を離れるのは寂しいかと思って。」

「それは……本當にお喜びになられるかと……。」

彼の心遣いに涙が出そうになるのを必死に堪える。なぜ、そんなを用意したのか。

「以前、一度だけサルヴィリオ領を訪れた際にスイートリリーの花畑を見たんだ。街は活気に溢れて、自然もかでしかった。あの、魔の森に面した領地とは思えないほどしい土地だった。」

シルヴィアの存在を知らずにあのまま結婚式を挙げ、この部屋を見たならばどれだけ嬉しかっただろうか。

それでもいつかは『彼』の存在を知り、傷つくことは分かっている。

それならばいっそ心を揺らさないでほしかった。

私のことなど気にしてくれなくてよかった。

優しくされればされる程、あなたの心は私のものじゃないことを思い出し傷つく。

「アンノ？」

黙った私を不思議に思ったのか、公爵様が優しく聲をかける。

「あ、いえ。公爵様自らお部屋にご案いただきありがとうございました。あとはリタと荷解きをしたいと思います。」

そう言うと、公爵様は「ゆっくり荷解きをするといい。」と言って部屋を出て行こうとしたところ、思い出したようにこちらを振り返った。

「ああ、それから奧の寢室に私の部屋に繋がるドアが……。」

「「はい！？」」

思わずリタと私の聲が重なる。その聲に驚いた表で、

「あ、いや。ドアがあるが、側から鍵がかけられるから心配しなくていいと……。」

「……あ、かしこまりました。」

まさかの隣室にそれしか反応が出なかった。

人のいる公爵様の隣の部屋を用意されているとは思わなかったし、しかも続き部屋だなんて想像すらしなかった。

部屋を出て行った公爵様の足音が隣の部屋で止まり、ドアを開けっていく。

「お嬢様……大丈夫ですか？」

リタと部屋に二人きりになると、憐れんだ視線が突き刺さる。

「だ、大丈夫よ！鍵もあるんだし、大丈夫、大丈夫。大丈夫じゃない事なんて無くない？」

「いや、既に大丈夫連呼しすぎて壊れてますよ。」

隣の部屋の音が聞こえる。

カタン、パタン。カチャカチャと、引き出しを開ける音や、書きの音。クローゼットのれの音まで聞きたく無いのに、耳がそちらに集中してしまう。

「……大変ですね。聞こえるって。」

恐らくリタには聞こえないであろうソレを、固まる私を見てリタが行った。

「……今日、部屋換しない？」

「嫌です。お嬢様が面白いから割り當てられた部屋で寢ます。」

薄な侍は真面目な顔をしながら、それでも楽しそうな瞳で主人の願いをすげなく斷った。

その夜、ドア越しに聞こえるベットの音や、寢返りを、打つ音。シーツのれの音が耳から離れず寢不足になった事は言うまでも無い。