《【書籍化】初の人との晴れの日に令嬢は裏切りを知る〜拗らせ公爵はを乞う〜》母の願い 4

「サリエ、もう隠すのは無理だよ。」

靜かに言う父の言葉に、母は宙に浮いた腕を下ろし、両脇で拳を握りしめた。

「あの事は…………絶対に!!……っ。」

「サリエ。ティツィは君にされたいと、抱きしめてほしいとずっと苦しんで來た。私たちがどんなに君がティツィをしていると、大事に思っていると伝えたところでティツィはそれをじる事は出來ない。……君が苦しいのも分かるけれど……、ティツィも、そんな二人を見る我々も苦しいよ……。」

母はハッとして父を見る。

「君と向き合う事を決めたティツィに、君は応える義務がある。そうだろう?北の勇者、サルヴィリオ=サリエ。何者も恐れず立ち向かう君が、唯一逃げてきた事に向き合う時だよ。」

「トルニア……。」

母は、ゆっくりと向かいのソファに座り、こちらをじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「お前が産まれた日は澄んだ夜だった。星を見ながらトルニアと庭を散歩していると急に産気づいた。それから丸一日陣痛に苦しんだよ。戦い慣れた私でもこんなに苦しいことがあるのかと思うほど苦しかった。人が出りする音さえ苦しい。周りが頑張れと聲をかけてくることすら痛みをい、黙れとんだのを覚えている。それを見たトルニアが回復魔法の神を呼べる限り部屋に集めてきた。」

父はその事を思い出したのか、小さくうんうんと頷いている。

「そうして丸一日経って、お前が産まれた。可らしい鳴き聲と共に安堵が押し寄せ、窓から見えた北極星は前日と同じくり輝いていた。」

窓の外に視線をやる母にはあの日の夜空が見えているのだろうか。

「だからお前の名前はティツィアーノだ。サルヴィリオ地方の言葉で北極星。旅人の、この先私の人生の指標となる子だ。」

知らなかった。名前の意味は北極星と意味は知っていたけど、そんな想いが込められていたなんて思わなかった。

「助産師が私の元に連れてきて抱かせれくれた。お前の溫もりに、私もこの子の指標となるよう頑張ろうと思ったよ。そうしてお前を抱きしめたら……。」

「…………?」

「…………。」

「…………抱きしめたら?」

「…………。」

急に口を閉じた母に先を促す。

「っ……お、お前を殺しかけた。」

「……え?」

「可かったんだ!!可くて可くて!!ゆっくり抱きしめたつもりだったんだ!!!そうしたら、ほほほほ骨が…………!!」

涙を流しながら青ざめる母はガタガタと、震えている。

「サリエが、お前を抱きしめた瞬間、周囲から悲鳴が上がり、呼んでいた神全員で治癒魔法をお前に施して一命を取り留めたんだよ。」

震える母を宥めるように、母の背中をさすりながら父が言った。

「え?」

「それからサリエはお前にるのが怖くて、れられなくなったんだ。」

母を見ると頭を抱え、小さくなっている。

「でも、私を見る時いつも眉間に皺を寄せて……。」

「それは、我慢していたんだ!りたくなるから!抱きしめたくなるから!でも、また抱きしめてお前を傷つけたらどうする!?また力加減が上手く出來なかったら!?次は助からないかもしれない!」

え?

「抱きしめたいのに抱きしめるのが怖い!今まで怖いものなどなかったのに!お前が私の唯一の弱點となった。」

「お前が幸せになれるよう、お前が何を求めているのか、常に報を集めた。王太子妃になると言えば、あんなポンコツ王子が嫌いでも、妃教育の環境を最高のものにし、サルヴィリオ家の長子として騎士団の団長を目指していると聞けば、黒竜から核をとり剣を打たせた。ただ、最強と言われる剣を持たせたのは決してティツイの能力を侮っている訳ではない。ただ……私が……。」

そう言葉がだんだんと小さくなる母の続きを父が引き継ぐ。

「ただサリエが心配していただけなんだよ。私は過保護だと言ったんだ。でもサリエはお前の為だけに単黒竜を倒すと言ってさっさと行ってしまって。倒したは良いが、黒竜から取った魔石でお前の剣を作ってから帰ると聞かなくて……。そのせいでお前の団長就任式に間に合わなかった。」

カチリ、カチリとカギが外れていく音が頭に響く。

母に疎まれていると思っていた全てが、思い込みと、悲観的な考えに染まっていた自分が招いたものだ。

『あんな王子と結婚したくない』『就任式に來てほしい』『私も稽古をしてほしい』

『抱きしめてほしい』

言葉にすればよかった。もっと早く向き合えばよかった。あんなに時間はあったのに。

「大事だからこそ、お前のために出來ることは何でもしたかった。でもお前はいつも私と會うのを苦手そうにしていたから、話は手短にしたし、私の自己満足でした事だから、言う必要は無いと思っていた。」

そう言う母は困った顔をして言葉を続ける。

「お前が産まれた時の事も……これ以上私を怖がってしくなくて……。お前に嫌われたくなくて誰にも言うなと緘口令を敷いていた。」

ぱたりぱたりと落ちていく涙を止められない。

「母上……。強化は……ルキシオンのように完璧では無いですが……。」

「うん?」

突然話題が変わったことに母が俯いていた顔を上げる。

「抱き……しめ……て、っくれま……っすか?」

一番母に言いたかったことなのに、上手く言葉に出來ない。

はつまり、今きっと鼻水も垂れてみっともない顔だろう。

「お嬢はルキシオン副団長みたいな完璧の強化を目指してますが、十分というか、かなり上等な強化ですよ。目指すものが完璧すぎるのが問題だと思います。」

テトが橫から口を挾む。

周りの騎士達もうんうんと頷いている。

「む……。そ、そうか。ティツィ……お前を抱きしめていいか?」

そう言って母が私のそばにゆっくりと來た。

「はい。」

今できる強化魔法を最大限に使う。

ばされた両手は震えているけれど、止まることはない。

ふわりと優しく包み込まれて初めていっぱいに母の匂いに満たされる。

――一定の距離で香る母の匂いと、今包まれている香りって微妙に違うんだな……。

優しく抱きしめられた腕はずっとしかったもの。

よく聞くお菓子の甘い匂いとか、卵焼きの匂いとかしないけれど、……。

ずっとじていた匂いをこんなに間近でじれる日が來ると思わなかった。

こんなに溫かく、心が満たされるものだなんて思わなかった。

そんなことをじながら自分からも母を抱きしめる。

「く……苦しくないか?」

「全然。」

「も、もうし力を込めても??」

そう聞いてくる母の聲が震えている。

「はい。」

自分の頭二つは大きい母を下から見上げる。

そうしてし苦しいくらい抱きしめられる。

「ティツィ、ティツィ。……私の可いティツィ。……あんなにか弱かったお前が……。あんなに小さかったお前はこんなに大きくなっていたんだな。」

心が震える。

ずっとしかったものは手をばせば手に出來ただ。

勇気がなく、逃げ回っていた私の背中を優しく押してくれたレイに『ありがとう』とたくさん伝えよう。

彼を思うと、満たされていた心がより一層溫かくなった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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