「リタ、……レイが公爵様だった……。」

公爵邸に戻り、用意された自室ではなく、まっすぐリタの自室へ行った。

「……ちょっと話が見えませんが？」

呆然とする私をソファに案しながらリタが言った。

三年前の初陣の話から、今回の件について説明をした。

レイが、私の力量を見定める為にサルヴィリオ家の魔討伐隊にいたことも、今回の魔事件の時に再會したことも。

そして、今回、彼の戦う姿を見てレイは公爵が変裝した姿だと気づいた。

「なぜ公爵様はそんなことを？単にきが似ているだけではないですか？」

「私が見間違うわけないでしょう？絶対にレイはレオン＝レグルス公爵よ。」

「……彼の目的が分かりません。」

それは私もだ。わざわざ彼が諜報員のふりをする必要が見當たらない。初陣の時、新しい國境警備の現狀を々に視察したかったため変裝したと言うのは理解ができるが、今回なぜ変裝したのか分からない。

「ティツィアーノ様を知っていたと言うのは三年前のあの時だったんですね。では、あの手紙に書かれてあった言葉も、気持ちも公爵様の本心ではないですか？」

「分からない。でも彼に『シルヴィア』という存在がいることは間違いないわ。はっきり會話を聞いたんだから。……それに、私に會ったと言うのは事実。でもその手紙に書かれたが本かどうかなんて分からない。手紙に書かれた言葉に真実と噓を混ぜたら私に判斷なんてつかないわ。……あの時、どんなつもりで……。」

どんなつもりで私に騎士の忠誠を差し出したのか。

忠誠はではない。

はすでに彼のものだったのか。シルヴィアはその頃すでに彼のそばにいたのか、それともこの三年間で出會ったなのか……。

答えの出るこのことのない『シルヴィア』に頭が占領される。

自分ではコントロールできない何かが堰を切ったように頬を溫かい何かが伝っていく。

堪えることなどできない。

「お嬢様。公爵が……お好きですか……？」

その私に向けられた明快な質問な今日何回考えたか分からない。

認めたくない。

でも、私の心はあの頃から彼に囚われたままだ。

「お嬢様、私はルキシオンが好きです。」

その言葉にぴたりと涙が止まった。

「え？」

彼の話ではリタにすでに振られていると話していた。

「でも、貴方が私の最優先事項です。私は彼より貴方が好きだし、貴方が大事です。だからお嬢様が幸せにならないと私も幸せになれません。貴方が心安らかに、穏やかに、いつも笑っていてほしい。だから、……アントニオと婚約破棄した時本當に嬉しかった。」

「ええ！！？」

「だって結婚したらマジ地獄ですよ。あのカスは國政も責任も全て貴方に丸投げ、金遣いは荒いし、遊びも激しい。頭が悪すぎて會話にもならない。態度はデカイけどはちっちゃい。貴方の口角がしでも上向くことはないでしょう。」

言いたい放題だな、おい。

「だけど、……貴方が一生懸命だから何も言えなかった。」

普段を表に出さないリタが辛そうに眉を寄せた。

「ルキシオンの気持ちに応えたい。でも、それ以上に貴方を幸せにしたい。だから、幸せになってください。」

そう言って私をぎゅっと抱きしめた。

「お嬢様が幸せになれないと私が幸せになる権利がないなんて、自己満足以外のなんでもありません。でも……。」

貴方には何か背中を押す機が必要でしょう？

そう言ったリタをぎゅっと抱きしめ返した。

「公爵様が好き。でも……たくさんの手紙の通り私を好きだと言ってくれても、『シルヴィア』と分け合うなんてできない。私だけを見てほしい。私だけ……。」

彼の瞳に映るのも、彼が熱の篭った瞳で見るのも、優しくれるのも、優しく名前を呼ぶのも私だけにしてほしい。

私だけがいい。

「あのサリエ様と向き合えたんだからお嬢様ならできますよ。もし玉砕したら次行きましょう次。お嬢様だけを幸せにできない男に私は用はありませんし。幸せになるためにいつまでも過去の男に固執していてはいけませんから。サクッと次の良い男見つけましょう。」

テトのような軽い口調で言うリタに泣きながらも「そうね。」、と笑ってしまう。

優しく背中をさすってくれるリタの溫かさに荒れていたがしずつ落ち著いてくる。

「下で、ホットミルクでも作ってきましょうね。お嬢様は今日は私の部屋でゆっくりしていてください。」

そう言ってリタはらかなタオルに私の顔を埋めるように涙を拭いてくれた。

「ありがとう。」

泣いたのが恥ずかしくて顔を埋めたままの私は、部屋を出ていく時のリタの鋭い眼に気づくことは無かった。