指につけた変裝用の銀のマジックアイテムを引き出しにしまい、テーブルに用意された琥珀のウイスキーをグラスに注ぎ、ソファで一息つく。

今回の魔騒について捕えた人間は明日、早朝から尋問を再開することになった。その際はサルヴィリオ家も同席し、立ち會いの元尋問することになっている。

「気のない夜這いだな」

自室にる前からじていた気配に聲をかける。

差し込む月明かりを背にカーテンからが姿を現す。

「こんばんは、公爵様。いいえ……レイとお呼びした方がいいかしら？」

そう冷たい視線を送ってきたのはリタだった。

その彼の言葉に反応することもなくグラスを口に運ぶ。

「……誰のことかな？」

「お嬢様はお気づきですよ？」

その一言にピクリと反応する。

彼はいつから気づいていたのだろうか？

気づいていて……あのタッセルを隠していたのだろうか。

「それで？出ていく前の挨拶か何かかな？」

「お嬢様がそうむなら。」

「逃すわけないだろう？」

魔騒のせいで疲れている所に、不愉快極まりない容に怒りを隠す気もなく言った。

いつバレたのだろうか。

今日までそんなそぶりは見えなかった。

彼は正が知られたと分かり、結婚から逃げるためにここから出ていくつもりだろうか。

『自分を変えたい』と言っていたが、母親と向き合ったことで満足したのだろうか。

「お嬢様を幸せに出來ない男に用はありません。」

「……ほう。」

では誰なら彼を幸せに出來るというのか。

ルキシオンか？

それは絶対に許さない。

他の誰であっても彼のが他に向くことを許容することなど出來ない。

「なぜここに來た？貴様ら『二人』で時間を稼ぐ間ティツィアーノを逃す算段か？」

「あれ、俺もバレてたんっすね。」

そう言って、リタが現れた反対側のカーテンから同じような顔があわられた。

「気づかないわけないだろう？」

「で、お前たちを人質にでもしたらティツィはここに殘るかな？」

この二人はティツィアーノの腹心だ。

彼が二人を囮に使うなど考えられない。そうなるとここに來たのは二人の単獨行だろう。

仄暗い怒りが渦巻いていく。

「知りたいことがあったので私は話をしに來ただけなんですが。……お嬢様がいるときと隨分雰囲気が違いますね。」

「そうかな？意識はしていないけど……どちらも素だよ。一応話とやらを聞こうか？」

そうして彼は思いがけない言葉を口にした。

「シルヴィアとは誰ですか？」

「シルヴィア？彼がティツィアーノに何の関係があるん……？」

「やはり存在するんですね。……大ありですよ。公爵邸に來てから全く存在をじられなかった『シルヴィア』について直接聞いた方が早いと判斷したまでです。」

なぜ彼たちがシルヴィアについて調べているのか全く検討がつかない。

「シルヴィアは……。」

その時、屋敷の結界に異常な反応をじた。

――――――なんだ、この異常な反応は。

公爵家の結界は私が直接張ったものだ。結界に歪みが生じればすぐにじることができる。簡単に出り出來るものではない。

正門でも裏門でもなく、塀を越えるように何かが出て行った。それも一人ではない、複數名だ。

一いつって來たのか。違和はじなかった。唯一考えられるのは正門から堂々とってきた可能だ。複數名が忍び込めるとは思えない。

「リタ！！何者かが數名結界を破って屋敷を出た。ティツィはどこだ！？」

そう彼に言うと、意味がわからないと言う顔をした。

「お嬢様は私の部屋にいらっしゃいます。」

おそらくティツィアーノが屋敷を出る計畫は無いのだろう。

「アーレンド！！聞こえるか、數名が南の塀から公爵邸の外に出た！リリアンとウォルアンの無事を確認して來い！！」

そう外に聲をかけると、返事と共に走り去っていく聲がした。それと同時にリタも部屋を出て行き、テトも彼の後を追った。

「セルシオ！南の塀から數名出て行った者がいる！數名で捜索して。殘りで町を封鎖して不審者を捕らえろ！」

「お嬢様！レグルス公爵！ティツィアーノお嬢様がいません！！窓も空いてます！！」

その瞬間ざわりと背中を不快な何かが駆け上る。

「他の部屋にいないか邸を隈無く探せ！」

その指示を出しながらも答えはじている。

先程結界にじたあの違和の中にティツィアーノがいたと本能が告げる。

「閣下！ウォルアン様とリリアン様もいらっしゃいません！！護衛の者たちは何者かによって眠らされています！！」

セルシオがそう言った後ろから別の騎士がセルシオに何か報告した。

「どうした？」

「王家から連絡係にと殘された連中が消えています。」

「連絡係？」

聞いていない。なくとも陛下はそういったことは何も言わずにアントニオ王子を連れて帰って行った。

「はい、陛下がお帰りになられた後、アントニオ王子と一緒に來た護衛の者が三名ほど、何かあった時のためにここに殘るよう陛下に申しつけられたと殘っていたので、客間に案していたのですが……。」

ただただ不快な何かが込み上げてくる。

「確認もせず、屋敷に滯在させたと……。」

渦巻く怒りをじ取ったのか、セルシオの後ろに立っていた騎士の顔がだんだんと悪くなっていく。

「はっ……。その。……殿下と一緒に來られたので……何も疑いもせず、確認を怠りました……。」

それもそうだろう。鵜呑みにしたのも理解できる。王家の人間が護衛として連れて來た人間だ。

その時、後方から聲がした。

「どうした？公爵何かあったのか？」

「サリエ殿……。ティツィアーノ嬢とリリアン、ウォルアンが拐されました。」

「何だと？レグルス公爵、貴様の屋敷の警備はそんなにも脆弱なのか？そもそもティツィアーノが何の抵抗もなく拐されるとは考えられない。あの子は、……自分が思っているよりも強い。」

「警備については何の申し開きもありません。至急急配備を行います。サルヴィリオ家にもご助力願えますか？」

「當然だ。」

これ以上ない協力者を得ながらも、言い知れない不安が渦巻いていた。

犯人がアントニオならまだ良い。だが、背後にいるのが隣國リトリアーノであった場合…………――――――。

最悪だ。

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