何かが焼けた匂いがする。

この匂いは料理ではなく、結構大きな火を使っているように思うが、私の鼻でかすかに匂う程度なので離れたところだろう。

戦爭の準備？

何の？

そんなことを考えているとドアをノックされ、の聲がした。

「食事をお持ちしました。」

外にいる兵士がドアを開けるとそこにはメリルが立っている。

彼の持っているトレーの上にはスープとパンが置いてあり、中にってくると兵士はドアを閉め、彼と二人っきりになった。

後ろ手に結ばれていては食べられない私に彼が食べさせると言うことなのだろう。

目の前に置かれたスープの香りに混じり、睡眠薬の匂いがする。

彼はカタカタと震えながらそれを機に置いた。

仕方がないことだ。

彼だって好きでこんなことをしているのではないだろう。

これを飲んで、目が覚めたらリトリアーノにいるのだろう。

「ティツィアーノ様。」

蚊の鳴くような聲で彼が言った。

「このスープに何か薬がっているので召し上がらない方が良いかと思います。」

小さな、小さな……決して外に聞こえることのない聲で彼が言った。

「え？」

何の薬か知らないようだが、なぜそれを言うのか。飲ませるように言われたのではないだろうか。

そう言いながらメリルは私の背中で縛られている両腕の縄をナイフで切った。

「な、何を……？」

「貴方は私の娘を…キャリーを助けてくれました。いつ死んでもおかしくなかった娘を……。あの日、主人も村の人たちも諦め半分で貴方達の駐屯地に行ったんです。追い返されるのを覚悟で。」

震えながらそう言う彼の目は強いを宿している。

「淺い呼吸を繰り返し、何日も目を開けることのなかった娘の死を待っていただけでした。……でも。取り次いだ兵士も、私たちに會ってくださった貴方も、平民風と蔑むこともなく快く食事を提供してくれ、娘は調が落ち著くまで隊で面倒を見てくださいました。その後も、村の様子を貴方自ら見に來てくれて、子供達と遊んでくれたことも、村の仕事を手伝って下さったことも……私たちにどれだけ心を砕いて下さったか……。どんなに謝しても謝しきれません。」

そう言って涙を滲ませて私の手を包んで微笑んだ。

「だから、逃げてください。私の家をリトリアーノ皇子の借り宿にされた時、貴方を連れて行くという話を聞いて……必ず助けると主人と約束したんです。村人も、みんな貴方を助けると団結してくれています。」

嬉しい。私を心配してくれるその気持ちは嬉しい。でも……。

「そんなことをしたら、村の人たちが酷い目に遭います。私は大丈夫です。私のことで貴方達が巻き込まれるのは私が……苦しいです。」

「そう思ってくださる貴方だから、皆貴方のために何かしたいんです。それにここは最前線です。戦爭に巻き込まれて焼け野原になるのは目に見えています。そして奴隷にされるか、戦爭に駆り出されるか……。それが分かっているので、、子供はしずつ村から逃がしていて、ここにいるのは殆どが男ですから。」

――――――貴方の為にと殘ったもの達ですから。

その時、遠くから聲が聞こえた。

「火事だ！！武庫が燃えてるぞ！！」

「消火に當たれ！！」

恐らくここにいる人間には聞こえない聲。

「火事……？」

思わず呟くと、騒ぐ聲が聞こえなかったであろうメリルさんはし驚いたように言った。

「あ、匂いがしますか？……恐らくみんなが彼らの資に火をつけたんだと思います。ここが騒ぎ始めたら混に便乗して逃げましょう。」

私の手をぎゅっと握る彼の手は震えている。

武庫や資に火をつけたのがバレたら村の人たちはただでは済まない。

「―――ありがとう。でも、私にも貴方達を守らせて。」