《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》7 そりゃ、縁があるからな
「どうだった?」
「何が?」
「俺の十六番、ハイペリオン」
「あ、そうか。へえ! よかったですね。見事差し切り一著」
「おおっ、そうか!」
「でも、先生、本當にもう大丈夫?」
などと話しながら、競馬場を出た。
「ミーティング、予定通りやるぞ」
「今日はもしかして豪勢なお料理が出るかも。先生のおごりで」
「出るか」
「そうよ、病み上がりなんだから」
ミリッサを先頭に、四年生は腕を組んだままのハルニナとフウカ、三年生はジン、ラン。
さっき、部するといったメイメイもついてくる。
京阪淀駅の前を通り過ぎ、整然とした月極駐場の中を近道して、昔、公設市場のあった商店街の名殘のようなり組んだ街並みにった。
「ハルニナ、もう大丈夫だぞ」
「そう? でも、たまにはこういうのもいいかなって」
「ジーオ先輩も來るって」
卒業すれば、先輩呼ばわりもありだ。
「ねえ、フウカ。人は呼んでないの?」
「ジン! くどい!」
「さっき見かけたけど、手持無沙汰そうだったよ」
「きっと、あれでも仕事中なんだよ!」
「聲かけてあげればいいのに」
「いい加減にしないと!」
燃料屋、仏壇屋、著仕立直しと書かれた看板を過ぎ、質と書かれた大きな暖簾の隣に、そこそこ新しそうなマンションが建っている。
元サークルメンバーであり、京都競馬場職員であるルリイアの住むマンション。
彼は卒業後も、ミーティングに使ってくれたらいいと、鍵を預けてくれている。
自も終業後、遅れて參加してくることもあったが、ミーティング自が早く終わってしまうため、ミリッサが解錠し施錠することがほとんどだ。
マンションの前に、ジーオ(詞緒)が待っていた。
「遅くなった。待ったか」
ルリイアのひとつ前、昨年の卒業生である。
「それがさ」と、フウカが遅くなった理由を説明してくれる。
一通り心配とか大丈夫とかのやり取りをわしながら三階へ。
エレベーターもあるが三階なら若い子たち、階段で行く。
鉄骨にモルタルを薄く塗っただけの段板にカツンカツンと足音が響く。
ジーオはサークル出者だが、京都競馬場にはよく足を運んでいる。
ミーティングへの參加もよくあること。
OGとして自然。でしゃばることもないし、先輩顔することもむろんない。むしろ、マネージャー的な役割を擔ってくれる。
さすがにOGということもあって、自由闊達に意見を出してくれる。サークルの雰囲気がよくなるし、ミーティングもはかどり、実のある話もできる。
「先輩、いつもありがとうございます」
というフウカに、
「先輩呼ばわりは、句でしょ」
「でも」
「まあ、OGだしね。好きに呼んで」
ジーオは今日も、食べるものや飲みなどが詰まった袋を持ってきてくれていた。
なにやら怪しげな団の職員になったそうだが、かなり自由が利くし、報酬も破格だという。
ジーオがそのぽっちゃりしたを寄せてきた。
「でもさあ、ハルニナ、まだ先生と腕組んでるの?」
「そうよ」
ハルニナはジーオと學年度は同じである。
留年を繰り返している。
ただ、ミリッサは今年こそはハルニナに単位を與えようと思っていた。
これまで、績は優秀なくせに、試験の時に決まって休み、まるで単位取得を拒んでいるかのようなのだったのだ。
「ありがとう。もういいよ」
ミリッサは組まれたハルニナの手をポンと叩いた。
気を失っていた時。
気づいた時のハルニナの顔、あの記憶は実際のことだったのだろうか。
しかしもう、それを確かめる気は失せていた。
きっとそうなのだ。ハルニナだったのだ。
組んだ腕の溫かさがそう思わせた。
腕が離れるとき、ハルニナの手は下にっていった。
黃いローブの袖に隠されて、誰の目にもれず、ミリッサの手になにかが押し込まれた。
紙切れのようなもの。
顔を向けると、ニッと笑った。
ミリッサは手に押し込まれたものを見ず、黙ってポケットに押し込んだ。
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とんだ目にあった
ワレの仕事は、こやつらを見張って、出來事をお知らせするだけではなかったのか
この男が、意識を失おうが、倒れようが、襲われようが殺されようが、から目を使われようが、知ったことか
ワレの仕事は報告であって、救うとか、止めるとか、何かを働きかけることは含まれていなかったはず
それがどうだ
このご叱責は
蛇に食わせるぞ、とまで言われて黙ってはおれぬ
今に見ておれ
いっぱい食わせてやる
機會が來れば
それまでは、このお役目をつつがなく務めるのみじゃ
や、また、ここか
ワレはこのマンションとやらいう館にれぬ
外から見張っておればいいのだから、楽と言えば楽だが、前回は寢込んでしまっていつの間にやら散會になっておった
今宵はそうは參らん
參加者が參加者だけに
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買い目をその理由とともに、簡単に報告する、これだけがミーティングのルール。
なんとなくいいと思って、という理由でもアリだ。
理論や理屈をひねくり返しても、後の祭りであれば得るものはない。
「ね、先生、十二レースのハイペリオン、なぜ本命に?」
「そりゃ、縁があるからな」
「それだけ?」
というわけだ。
ミリッサは、腕をとって支えてくれ、珍しくミーティングに最初から參加してくれたハルニナに応えなければ、と思った。
謝意を表す言葉を、なにか。
「馬が教えてくれる、このモットーに照らせば、ハルニナ、今日はどうだった?」
と振れば、きっと喜ぶだろう。これはハルニナの口癖でもある。
「結果は伴っていないけど。まだね。次のG1に出走した時に」
「次のG1か。覚えていられるのか」
「もちろん。簡単だから」
「じゃ、期待しよう」
「ええ。任せて」
元來無口なハルニナとわした言葉はそれだけだったが、満足の笑みを浮かべたので、良しとしよう。
それぞれ、今日の結果を報告していく。
進行はいつものようにフウカだ、
ルリイアの2LDK。
リビングダイニングも狹い。
全員が座るソファもないし、ダイニングにしたって二人掛けだ。
おのずとダイニングテーブルを脇へ寄せ、床に座ることになる。
今夜も、ミリッサはソファの背にもたれて座る。ハルニナ、フウカが窓際に、ジンとランがキッチンカウンターの下に、ジーオと初參加のメイメイが正面という著座となった。
窓からは競馬場が見える。
もう數階高ければ、レースの様子も見えるだろう。
今は、プチカジノ、ポーハーハー・ワイの明かりがスタンドに反して、赤く見えるだけだ。
「じゃ、おさらいをします」
的中馬券の考察である。
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