《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》9 サークルメンバーを預かる顧問として

あの日のことを思い出す。

スタンドで握り飯にかぶりつこうとしたとき、フウカが走りこんできた。

先生! 大変! ノーウェ先輩が!

発見が遅れたのか、階段の中ほどで発見されたノーウェはすでに息がなかった。

応急処置もむなしく、帰らぬ人となった。

警察はそれなりの捜査はしたようだが、狀況から見て、事故死と判斷されたのは自然のり行きだった。

ミリッサ自、警察の事聴取をけたが、むろん卒業後のノーウェと付き合いはないし、話すことはなかった。

同級生のジーオから、ノーウェがそのイベントの関係者として競馬場に來ていることは聞いていたが、話した機會はごくわずかだし、遠くから姿を見ることがほとんどだった。

ますます居住まいを正して、フウカが言う。

「リオンから聞いたんですけど、ノーウェ先輩の事故のこと」

そこにいる誰もが座り直し、フウカの言葉を待った。

「事故死ってことに一旦はなったんだけど」

ジーオの目つきが険しくなった。

こそ、ノーウェの親友として、あの事故を最も悲しんだ人だ。

「疑義があるってことで、再捜査になったらしいんです」

一旦、事故死という結論になったものを再捜査。

よほどの理由があるのか、圧力があったのか、忖度があるのか、あるいは何らかの報が寄せられたのか。

フウカは警察の事は何も知らないらしく、あっさり、結論に持っていこうとする。

「私たちも、協力できないかなって」

「協力って……」と、ジーオ。

「警察の捜査に」

「協力要請?」

ジンは、リオンからの、とは言わなかったが、それが滲んでいたのか、

「協力じゃなくてもいい。私たち自でももう一度考えてみようかなって」

と、言い直すフウカ。

「確かに」と、応じるジーオ。

大勢は、フウカの提案に、賛、ということになった。

反対できる空気ではないし、反対する理由もない。

誰もがノーウェの死を悼んでいるのだから。

ミリッサは何も言わないでいた。

サークルとして、「公式に」決めることではない。

ただ、心の中では、ノーウェを想う気持ちは確実に大きくなっていた。

「先生」

呼びかけてくるフウカ。

「先生」

と、促してくるジーオ。

ジンもランの目も、メイメイの目も。

ハルニナだけは、視線を送ってくることなく立ち上がった。

キッチンに向かうハルニナを追う目。

ハルニナは何も言わず、誰と目をわすでもなく、一旦は冷蔵庫に収納した食べを取り出した。

サークルの顧問として、言わねばならぬのだろう。

「皆がそう思うのだったら、そうしよう」

ジーオが目を輝かせる。

「ただし」

「ただし?」

ミリッサは、言わずもがなのことを口にしようとしていることに気づいて、言いかけたことを変えた。

「ノーウェを悼む気持ちからだ」

「ええ」

「遊びじゃない」

當たり前のことだ。言う必要のないことだ。

「そんな気分の人は加わらないでしい」

とまで言ってしまった。

そういって、じゃ、私は抜けます、という人はいない。

強制と同じだ。

照れくささもあって、ミリッサは先を急いだ。

「フウカ、で?」

「何から手をつければいいか。みんなどう思う?」

ミリッサは、これはいけない、と思った。

リーダーが、リーダーであることに自信を持って進めないと、こういう暗中模索プロジェクトは進めていけない。

「フウカ。思っていることを話しなさい。自分から」

賢い娘だ。

指摘されたことの意味にすぐに気づいて、言い直す。

ゆっくり、すでに考えてあったのかのように、丁寧に話し出した。

私は、ノーウェ先輩が死んだことをとても悲しく思っている。

本當は、事故死であれ、その事故に誰かが関係しているにしろ、あるいは何らかの悪意があったにしろ、死んでしまったノーウェ先輩が帰ってくるわけでもなし、私たちがとやかく言うことはないのかもしれない。

でも、でもね。

ケイキマスコットの中で苦しんだ挙句に死んでしまったノーウェ先輩のことを思うと、あれは事故だったんだって、いつの間にか納得して、忘れてしまっていいのかっていう気もする。

あんな悲慘なこと。

さぞ先輩は……。

あんなことになった理由。

きっとあるんじゃないか。

警察が言うように、単に、付き添いを待たずに階段を自分ひとりで降りようとして転落した?

その衝撃で、たまたま緩みかけていた一本のワイヤーが外れて首に巻きついた?

G1レースが開かれる競馬場。たくさんの人がいたのに、たまたま誰もその場に居合わせず、誰も助けに駆けよらなかった?

たまたま?

たまたまが、三つも重なって?

いいえ。

もっとあるわ。

そもそもケイキちゃんの中にったのは、たまたまその日だけ、ノーウェ先輩だった。

私、正直に言うと、このこともその時は疑問に思ったけど、もう忘れていた。

意識の中から、消えていた。

忘れていたわけじゃないけど、過ぎたことって……。

でも、今日、警察が再捜査をすることを知った。

それなら、仲間だった私たちが、忘れたままでいることは先輩に失禮だと思った。

サークルで一緒に競馬したことはないけどね。

私たちにできること、何もないかもしれない。

うろうろして警察の捜査の邪魔をするだけのことかもしれない。

でも、でも、もしもよ。

誰かのせいであんなことになったのなら、ちゃんと、そのことをはっきりさせて……、そうして、どうするかわからないけど、なくとも事実を……。

そう、思ってる。

よく言った。

ミリッサはそうじたが、何も言わなかった。

自分がここで、結論に結びつくようなことを言ってはいけない。

ここにいる者がそれぞれに結論を出すべきである。自分のによく聞いて。

ただ、ミリッサ自は、完全にフウカの意見に賛同していた。

自分にできることを。

もしできることがあるなら、何もしないでいることは卑怯だとさえ思った。

い教え子、ノーウェのために。

いや、ノーウェのためにではない。

教え子を持つ大學の講師として、あるいはサークルメンバーを預かる顧問として、と言った方がいいかもしれない。

この子たちのを守るのは自分の役割でないか、と思った。

もしここで、誰も手を挙げないことになったとしても、自分ひとりでも、ノーウェの死の真相に近づく努力をしよう。

ミリッサはそんな気持ちが湧くのをじた。

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