《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》乙ゲームって楽しいのですわ!
乙ゲーム「ロスト・ロマン」について、チェチーリアは本當に嬉しそうに話す。話が度々キャラの良さやシーンのしさに線するため長くなったが、どうやら前世で相當やりこんだらしくかなり詳しく覚えていた。
要約するとこうだ。
主人公(公式設定ではミーアと名付けられているらしい)は庶民出のであるが、ある日道で老人を助けたことをきっかけにその養となる。それがグルーニャ男爵家だ。貴族の慣例にならい、15歳になると同時に王都の學園に學する。そこで出會う青年たちと三年間の青春を送りながらハッピーエンドを目指す、というものだ。
「ミーアさんが主人公なの?」
「そうですわ。だから彼に都合がいい世界になってるんですの。主人公としてプレイしていたときはかわいらしかったのに、実際こうなると複雑ですわ」
「あなたは悪役なのよね」
「悪役、というか実際小のかませですわね……。レオン様の婚約者なのですが、だいたいどのルートでも邪魔をしてくるので憎たらしかったのですわ」
しょんぼりとチェチーリアが言う。実際のチェチーリアはかわいらしいだから、しょげる必要はない、とヴェロニカは思う。
「ハッピーエンドってなんなの?」
「LRはマルチエンディングなのですが」
「ええっと、マルチエンディングってなに?」
「クリア時のエンディングが複數あることですわ。行によって終わり方が変わるんですの。攻略キャラの數だけあるのですが、それぞれトゥルーとノーマルとバッドがあるんですの」
ヴェロニカはなんとか話について行くが、グレイはぽかんと口を開けている。ひと言も発しないのを見るに、もはや理解することを諦めたようだ。
「何周もするとゲーム世界で何が起こっているか全貌が見えてくるんですの。わたくしはあいにく全部やりきる前に生まれ変わってしまったのですが」
どうやら男どもとを楽しむことだけがゲームの目的ではないらしい。
チェチーリアは続ける。
「ゲームはA國が舞臺なのですが、やはりB國と戦爭しているのですわ。そのB國のスパイを見つけ出すのです」
「それがお父様なのね?」
ヴェロニカが言うとチェチーリアはなぜ分かったのかと言わんばかりに目を見開く。想像は付いていた。だが現実世界で、それは濡れだ。チェチーリアは何度も頷く。
「ええ、ええ。そうなのですが、噂だとさらなる黒幕がいるようなのです。わたくしは黒幕を突き止める前にこの世界に來てしまったので、結局誰か分かりませんでしたけど。ネタバレは嫌なので、攻略サイトもツイッターも見ないようにしていので」
時たま出てくる謎の単語を無視しながら、考える。そのゲーム世界でも父が濡れだったとしたら、犯人はその登場人だということだ。そこを知ることでまだ持たぬピースが見付かるはずだ。
「登場人ですか? そうですわね。まずわたくしと、グレイ」
名を呼ばれたグレイは抱えていた頭を上げる。チェチーリアがグレイににっこりと笑いかけると、顔を赤らめた。
「グレイは一番攻略が楽なので、初めにクリアしましたわ! チェチーリアも出てこないし、カルロ・クオーレツィオーネもちょろっと出るくらい。誰も逮捕されないし、黒幕も絡まない。初心者向けで、謎も大して明かされません。グレイのお父様との確執を解決してお終いですわ」
「そ、そうなのか……」
ゲームのグレイとここにいるグレイはまた違うだろうが、彼はし殘念そうだ。
「グレイは真面目枠ですわね。それから、ヒューです。ヒューはチャラチャラしているキャラなのですが、主人公だけにはなぜだか不用になってしまうのです。それがたまらなく素敵でしたわ」
ヴェロニカはグランビュー家の次男坊の顔を思い浮かべる。話したことはないが、パーティで見たことはある。整った顔をした、言われてみればどこか好きそうな青年だった。
「ヒューのルートだと、カルロ・クオーレツィオーネの罪が暴かれるのです。チェチーリアもすごくいじめてくるのですわ。偶然ミーアはチェチーリアとカルロの話を聞いてしまうのです。拐されたりするのですが、ヒューが助けに來てくれるのですわ……それがかっこよくて……」
また線しようとするのを戻す。
「聞いてしまう話って?」
「A國中樞にり込んで、我がにしようとする企みです。チェチーリアもそのためにレオンと婚約をしているのですわ。それに、それだけじゃなくて、ヒューの家來によってカルロがB國スパイであると暴かれるのです」
それからチェチーリアはその他の攻略対象について話す。やれ隣國の王子だの、先輩だの、後輩だの、“つんでれ”だの、“くうでれ”だの、“しょた”だの……。ヴェロニカには話の半分も分からなかったが、登場する男たちやストーリーのバリエーションは様々らしい。
「メインはレオン様でしたわ。パッケージにも一番でかでかと彼の絵がありましたもの。レオン様はいつも主人公に優しくて、それで……」
チェチーリアは言葉に詰まる。その瞳には見る間に涙があふれる。
「ごめんなさいですわ……。レオン様のことを思うとだめなのです……」
グレイの差しだしたハンカチで涙を拭く。落ち著いてからチェチーリアは話す。レオンのルートでもB國スパイはカルロだ。紆余曲折の末、カルロを逮捕しチェチーリアは追放、二人は結ばれて、幸せな結末を迎える。
「ほとんどそんなじなのです。でも今思えば、黒幕の伏線らしきものがありましたわね。いくつか解放できなかったルートがあって、その中に隠しキャラ攻略ルートもあるのです。おそらく、隠しキャラのルートでゲームの謎が全て分かったはずなのですが……」
黒幕や隠しキャラが誰かまでは分からなかったと、チェチーリアは悔しそうに言う。
「分からないのは、王道、熱、軽薄、ツンデレ、クーデレ、ショタ、ときて隠しキャラがなに屬かということもですが」
チェチーリアがまた難しい専門用語を語り出す。
屬などそれほど重要ではない。現実においては屬などないのだから。ヴェロニカはふと浮かんだ疑問を伝える。
「ねえ、そのゲームにわたしは出てきた?」
「いいえ。お姉様のことは一つも出ませんでしたわ。わたくしも転生するまでチェチーリアに姉がいるとは知りませんでしたもの。つまり、ストーリーになんら関係のないモブなのでしょう」
「もぶ……」
言葉の意味は分からないが、なんだかたいしたことはなさそうで、しがっかりした。
「あ、でも……」
チェチーリアが思い出したように言った。
「あの方はいらっしゃいましたわ。シドニア・アルフォルト様です! 學園の理事長として出てくるのです。重要人ではないですけどね。それから……」
言いかけて、何かに気がついたようにはっとした表になる。それから呆然とヴェロニカを見つめた。
「それから、攻略対象ではなかったのですが……確かにいましたわ。――ア(・)ル(・)ベ(・)ル(・)ト(・)も」
補足
シドニア・アルフォルトって誰だ? と思った方のため。
31部分に出てくる人で、ヴェロニカの婚約者であるアルベルトのお父さんです(イケオジ)。
もしも変わってしまうなら
第二の詩集です。
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