《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》再會ですわ!
【revival】再上演、再上映。復活、再生。
市街地を抜け、川を越え森へと向かい、木々の中にる。
極度の張と疲れからかカルロの消耗は激しかった。兵士たちも相當しつこく追ってくる。
幸いなのは、ヴェロニカといた時に森で襲ってきたような練の兵士達ほどではないことだ。恐らく実踐に乏しく、訓練での戦闘の経験しかほぼない。
暗い森は闇を深めてくれる。冬の森は葉を散らした後であり姿を隠せる場所も限られてくるが、それでも街中よりは逃げ切れる確率が格段に上がる。だが、兵士達はランプを持っており、足跡を見つけられてしまえば二人を見つけるだろう。
ロスは木のからそっと狙いを定め、素早くランプとそれを持つ兵を撃ち抜いた。
それにより他の兵士達も源を消した。途端辺りは暗くなる。これでしばらくこちらの居場所は知られない。音を立てないように警戒しながら、奧へ進めとカルロに合図をした。
「わ、わかった! 奧へ行くんだね!?」
「大聲を出すんじゃない!」
ロスの幻滅たるや凄まじかった。馬鹿でかいカルロの聲に、確実に居場所がばれた。
パン、と音とともに近くの木がえぐれる。カルロの頭を地面に伏せさせ、自らも勢を低くした。次々と銃弾が浴びせられる中、地面を這うようにして移する。
が、唐突に、それも全く予期せぬことが起こった。
ターンと鋭い音が森に響き、兵士が倒れた気配がした。背後からの援護撃だ。
(誰が、何故)
ロスの耳に、まずとても會いたかった者の聲が聞こえた。その者はロスの姿を誰よりも早く発見し、そして思い切り懐に飛びついてきた。
「アルテミス!」
それは失ったはずの、何よりも大切な白い皮の親友だ。彼は何度も吠え聲を上げるとロスのに自分の背中をこすりつける。生きていた、そしてまた戻ってきた。思いがけず、ロスは喜んだ。その間中、味方と思しき銃聲は響いている。
従來の量産型銃よりもやや甲高く乾いた音がするこの銃は知っている。だが限られた數しか出回っていないはずだ。そのうちの一つをロスは所有し、そして手放した。
(まさか)
信じられない思いで、銃を撃った者が居るであろう場所を見ると、そこには恐ろしく怒りに満ちた表で、白煙を上げる長銃を構えながらこちらを睨み付けているがいた。髪は短く切られていて、痩せたように思えるが、それはまさしく。
(噓だろ、何してる)
ロスはただ力なくその者の名を呼ぶことしかできない。
「ヴェロニカ……」
ヴェロニカは木々の間から、抜け目なく長銃を兵士達に向けていた。
「ヴェロニカだと!?」
驚いたのはカルロも同じようで、頭を上げて彼を見た。
「お父様伏せて!」
彼の持つ銃が再び音を立てる。兵士には當たらなかったようだ。ロスがすかさず自分の銃で兵士に向けて撃った。それは當たったようである。
「チェチーリア、グレイ! お父様を連れて逃げるのよ」
近くに居る誰かに向けて言っている。目をこらすと、そこには恐らく彼の妹と、そしてベルガモット家のグレイがいた。守るべき人間が倍以上に増えた。ロスは兵士達に発砲しながらぶ。
「何が起きてるかいまいち摑みづらいが、お前達はさっさと逃げろ! あとアルテミスを連れて行ってくれ!」
ロスと離れたくない様子のアルテミスだったが、カルロに捕まれ半ば無理矢理連れ去られていく。
「お父様こちらへ!」
チェチーリアらしきの聲が聞こえる。グレイらしき年も、銃を兵士に向けて撃っている。腕は悪くなさそうだ。
「グレイ、チェチーリアとお父様を頼んだわよ!」
ヴェロニカがいつの間にかすぐ側にいた。何を考えている、とロスは腹立たしく思う。
「ヴェロニカ、お前も逃げるんだ!」
「嫌よ!」
ヴェロニカは怒る。しばらく見ないうちに、また凄みが増したようだ。彼はまた兵士に向けて撃った。それは兵士の頭に當たる。彼が人の命を奪った。ロスのがまたざわめく――……。
*
「何してる! お前は撃たなくていい!」
久しぶりに會ったというのに、ロスは慨に更けるでも、するでもなくただただヴェロニカを叱りつける。それにヴェロニカは憤慨した。
「いいえ、撃つわ! あなたね、馬鹿じゃないの!?」
B國から決死の覚悟で國境を越え、冬の雪山で命の危機に何度も脅かされ、やっと見えた王都の街明かりにほっとしたのもつかの間、聞こえた激しい銃聲を不穏に思い、覚悟を決めてやってきたのに、久しぶりの會話で怒鳴られるなど――ヴェロニカが見過ごすはずがない。當然、怒る。
「わたしを何もできないか(・)弱(・)い(・)の子だと思わないで!」
「お前のどこがか(・)弱(・)い(・)んだよ!」
「わたしだって命に危険が迫れば、迷いなく撃つわ! 相手がわたしを殺す気ならね!」
言葉どおりまた撃った。ヴェロニカの銃の腕は比べにならないほど上がっている。兵士達は隙間なく銃弾を浴びせてくる。いつかあったような景だ。森で襲われたときだ。
あの時はまだ守られるだけだった。だが今はこうして橫で戦える。
なのにどうか、この男はそれを喜ぶどころか邪険に扱ってくる。あれだけ彼を大切だ、おしかったと思っていたが、いざ実を目の前にするとふつふつと沸き上がるのは怒りだった。
「よくもわたしをB國に捨てたわね!」
兵士に向け撃つ。撃ち返される。が、彼らもそれなりの距離を取っている。こちら側に撃つ者が増えたと知り、警戒しているようだ。
「捨てたんじゃない、安全な場所に避難させたんだ」
「安全!? わたしB國で向こうのオトコたちにあんな目やこんな目にあわされたわ!」
そこで初めてロスはヴェロニカを見た。驚いた表をしている。それをやや愉快に思った。
「あーら心配した? 噓に決まってるじゃない! 皆紳士だったわ! あなたと違ってね!」
「いらつくだ」
舌打ちとともにロスが言う。彼にも余裕がないのか、いつにも増して口が悪い。
「それに、何よこれは。もしかしてお父様を逃がそうとしてくれてたわけ!?」
ロスは黙ったままだ。
「あなたって、案外計畫がないタイプよね? こんなピンチになるなんて」
「大抵は上手くいくんだ。気が散るからいい加減靜かにしてくれ」
「でも謝することね。わたしが助けに來たんだから」
「あのな、俺がなんのために」
言い返そうとロスがヴェロニカに頭を近づけた瞬間、ヴェロニカはその頭を摑み地面に押しつけた。ロスの頭があった場所を銃弾が飛んでいく。もし避けなければ、ロスの命はなかっただろう。
「いいこと!? わたしとあなたの関係は対等よ! もっとわたしに敬意を払いなさい! 今わたしがいなかったら、あなたは死んでたわ。いい加減認めなさい、あなたには、わたしが必要だってことを!」
怒鳴りつけられたロスの目にはほんのわずか怒りが宿った。彼はヴェロニカの両肩を摑むと思い切り自分の側に引き寄せ抱き締める。その瞬間、ヴェロニカの心臓は大きく弾み、そして沸いていた怒りが消え去るのをじた。
剎那、ヴェロニカのいた場所を銃弾がかすめる。危機一髪、命が助かったようだ。
「これでお(・)あ(・)い(・)こ(・)だ」
勝ち誇ったかのように言うと、ロスはヴェロニカのを離した。一つの大木ので銃弾から隠れる二人の距離は先ほどよりも格段に近い。
やや冷靜になったヴェロニカは、しかしため息を抑えきれない。
「あなたって、本當に意地っ張りよね」
「どちらかって言うと、お前の方がそうだと思うが」
どこまでも互いに譲らない平行線の言い合いに、思わず二人で笑ってしまった。ロスの目が下がるのを、至近距離で確認する。
銃聲と銃弾の勢いから、兵士達が先ほどよりも近づいて來ているのをじる。そちらに銃先と目線を向けながらも、意識はもう一方に向いていた。
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