《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》食うモノと食われるモノですわ!
――知った家が隨分と懐かしいように思えた。
學園に學してからは、自分の屋敷よりも訪れることの多くなったアルベルトの屋敷であるが、様子は変わっているようにじた。
使用人の姿もなく、聞けばほとんど解雇したらしい。
當主シドニアは忙しくしており帰らなかったため、その間にアルベルトは証拠集めを行い、それ以外は何もしなかったという。そのためか宮廷畫家に描かせたとかいう壁に掛かる家族の肖像も、東方の國で作られたとかいう用途不明の大きな壺も、しばらく來ぬ間に埃を被っていた。
それでも初めて屋敷に訪れたチェチーリアはこんな狀況下でも明るく楽しげだ。
「うわあ! なんだか、本の貴族のお屋敷ですわね。趣味がいいですわ」
「我が家の金趣味とは違うのよ」
「ひ、ひどい」
口ではショックをける素振りのカルロであるが、久方ぶりの娘との會話が嬉しいのか口の端が上がるのを押さえ切れてはいない。
はて父はこんな人だったのか、とヴェロニカは意外に思った。よく見れば顔に皺が増え、白髪はまばらにあり、牢獄暮らしのためか痩せ細り、しかし穏やかそうな中年男だった。以前は父が厳しい人だと思っていた。だが今は、ややくたびれているが、娘を大切に思っている、ごく普通の父親だった。
夕食を済ませた後で、それぞれに部屋があてがわれた。ヴェロニカは、當然の如くアルベルトの部屋に行く。
彼の部屋は質素だ。ベッドと、ソファーと機。それから大量の本が置いてある。
ソファーの片側に座ると、アルベルトがその隣に腰を降ろすと、ヴェロニカの肩を抱いた。
「々と、怖い思いをさせてごめん」
おでこを寄せて、彼が言う。溫にれる。確かな彼の存在をじた。
「あなたのせいじゃないでしょう」
アルベルトが言うには、全ては、彼の父がやったことだ。
この事実が明るみに出れば、アルフォルト家もただでは済まない。しかしその告発をアルベルトがやったのならば、まだ狀酌量の余地はあるはずだ。と、そこまでアルベルトは考えているのだろうか。
実の父を訴えるのは並大抵の決斷じゃないはずだ。
「本當に、すまないと思ってるよ。もっと早く、気づき暴いていたら、こんなことにはならなかっただろうから。でも君を守りたかった。それは信じてしい」
「疑っていないわ。事実、わたしはあなたの所に帰ってきたもの」
「髪のは殘念だったね。それに、この傷も……」
アルベルトの手が、髪、そして頬に順にれる。労るようなその指先をくすぐったくじる。
「またばせばいいよ。傷も、腕のいい醫者を探そう。元通りになるよ」
「元通りに……」
同するかのようなその仕草に、ヴェロニカは微笑みで返した。
「別にこのままだっていいわよ。気にしないもの」
以前ならば、ひどく悲しいと思ったことだろう。しい令嬢であるヴェロニカに、短髪や傷は相応しくない。
しかし実は気にもしていなかった。そんなもの、大した財産ではないと今は知っている。アルベルトは意外に思ったようだ。
目をわずか見開いた後、ほんのしだけ寂しそうに微笑んだ。
「君の心に、誰がいても構わないんだ。僕が君をしているという事実に、なんら変わりはないんだから」
全てづいているかのような言葉だった。それから、ヴェロニカの顎を持ち上げ口づけをしようとしてくる。
「……よして、今日はそんな気分じゃないのよ」
そっと顔を背けるヴェロニカに対しても怒ることもなく、頭をでると頬にキスをして立ち上がった。
「何か飲むかい? 紅茶でもれるよ」
「ウイスキーをちょうだい」
「ええ?」
面食らったようにアルベルトは振り返る。冗談だと思ったのか、半分笑っているが、ヴェロニカは本気だった。
「飲みたいのよ」
「いいけど、取りに行ってくるよ。待ってて」
階下まで取りに行くらしい。だが扉を開ける直前で彼は振り返る。
「一緒に寢るよね?」
「ええ」
「……そんな顔しないで。何もしないよ。ただ、君が本當に戻ってきたと実したいだけなんだ」
アルベルトは微笑みを殘して去って行く。果たして、ヴェロニカはどんな表をしていたのだろうか。
鏡を見て確認する気も起きなかった。
*
ごとり、ごとりと音を立てながら、ロスは銃を客間のテーブルの上に置いていった。
兵士から奪ったものと、ヴェロニカに渡した長銃が整然と並べられていく。脅威は去った。だからこれらに用はないと思えたが、念のための手れだ。扱う手には包帯が巻かれていた。グレイが心得があるらしく、手際よく手當てをしてくれたのだ。
年はロスにあれこれ質問をして、チェチーリアに窘(たしな)められていた。二人は貴族が通う學園の単なる同級生だと言うが、馬が合っているように思える。
夜も深まり共に行していた面々は既に休んでいた。ふと廊下に人の気配をじて顔を上げる。何か起きた時のために開けておいた扉の前に現れたのは、いまやこの屋敷の主人となったアルベルトだ。
「やあ、ロス隊長」
彼は躊躇なく部屋に足を踏みれてくる。機の上に置かれた大量の武にもひるむことはない。
「“隊長”はよしてくれ。君の隊長じゃない」
平然と歩み寄ってくるアルベルトから目を離さずにロスは言う。そしてアルベルトがわずかに顔をそらした瞬間、拳銃を一丁そっと手に取りソファーとの間に隠した。
「じゃあ、ロス、でいいかい。良くやってくれた。萬事上手くいきそうだ。予定通りにはいかなかったようだけど、ヴェロニカを無事にいさせてくれてありがとう。報酬はあげるよ、み通りのものをね」
明日、ヴェロニカを伴い王に會いに行くと言った。そこで全て終わるのだろう。
「それを言いに?」
「ああ、酒でもね。君もどうだい?」
「気分じゃない」
「あ、その銃、朝までに片付けておいてくれるかな。もう使わないだろう? この家に騒なものを置いておきたくないんだ。の子達だって怖がるだろうし」
チェチーリアはともかく、ヴェロニカが怖がるとは思えないが、一応頷いておく。それを満足そうに見た後、アルベルトは部屋を去った。
ロスはため息とともに、隠した拳銃を取り出した。よもや、彼が襲ってくると思ったわけでもない。
(臆病者と罵られても仕方がねえな)
しかしアルベルトと向き合うと、捕食者に睨まれたか弱き小のように、薄ら寒いものをじずにはいられなかった。
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