《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》妻の実家は四面楚歌ですわ!

ロスがクオーレツィオーネ家に辿り著いたのは、正午を回った頃だった。

王都から馬車で小一時間かかる屋敷に、これほど早く著いたのは、ヴェロニカがここ以外には行かないだろうという判斷をしたためだ。

敷地の前で馬車を止めたロスは、ほとんど無理矢理付いてきた、昨晩一緒に過ごしたらしき――シャルロッテに向かって言った。

「君は外で待ってろ。あわよくば帰れ」

「私も行きます! 説明して、分かってもらいましょう」

シャルロッテは即答する。何を分からせるつもりか、その先を聞く気力はなかった。

頭痛を覚えながらも彼を連れてきたのは、ロスもまた、なくとも負い目を覚えていた上、珍しく混していた。酒のせいか、頭痛も殘る。

狀況証拠は揃っていた。よもや本當に手を出したのかもしれない。

だが今になって、ようやく冷靜になってきた。

「俺の頭も冷えてきた。君はここまでだ。今後のことは、また別日に話そう」

シャルロッテは目に涙をためながら、今にも泣き出しそうな顔をする。頼むから泣くなよ、とロスは珍しく神に祈った。

「ロスさんに再會できて、嬉しかったんです。だってずっと憧れていました。わたしとロスさんは、結ばれる運命なんですよ?」

後半の臺詞は聞こえないフリをする。

「……初めて會った時のことを、ヴェロニカには言わないでくれ。話がややこしくなる」

シャルロッテとはとある事で顔見知りだった。

だがヴェロニカには告げていない。そしてこの先も、告げるつもりはない。

ぱっと、彼は明るい笑み変わる。

「二人のですね!」

耐えきれず目をそらした。

ロスの態度に気がつかないのか、シャルロッテは嬉しそうに言う。

「辛くなったら私に甘えてください。これでも“聖”なんですから!」

「ヴェロニカがここに? いないよ、見當違いだったね」

を外で待たせたロスは、客間に通され、ヴェロニカの父カルロと向かい合っていた。

「喧嘩でもしたのかい。あの子が家を飛び出すなんてよほどのことがあったんだろう」

一通り顛末を話すと、カルロは驚いた顔をした。

「ゆ、友人だって? 信じられないな。ロス君に酒を飲むほど親しい友達が?」

そこじゃねえよと思いつつ、話を続ける。

「酒で記憶を無くしたことはない。何か薬でもれられたのかもしれない。俺をはめようとして」

「君がザルだとは知っているけどね。私には理由が分かるよ、経験がある。誰もが通る道だ」

ロスは驚き義父を見た。この初老の男も無駄に歳を重ねている訳ではないようだ。

記憶がないということは、なんとも気味が悪いものだ。過去いかに拷問にかけられようと、記憶が飛んだことは一度としてなかった。ましてや平穏な日々の中でそんな事象が起こるとも考えにくい。

酒に妙な薬でも混ぜられたのではないか。だがだとして、財布も盜まずロスの服だけがして隣にを転がしておくというのも妙だ。一人で大柄な男の服を全てがせられるとも思えなかった。他に仲間がいるのでは。

何か真相に近づくヒントがあるかと、ロスも次の言葉を待った。

「男も三十手前になると、格段に酒に弱くなる。……ショックをけないでくれたまえ、それは『老化』と言うんだよ」

カルロから來た明後日な方向の回答は、大したヒントにはならなそうだ。

と、その時客間の扉が勢いよく開く。

「ようこそロスさん!」

現れたのは、ヴェロニカの妹(自稱元悪役令嬢)のチェチーリアだ。

(今日、學園は休みか)

は貴族が通う學園の寮に暮らしているが、休みの度に家に帰るのがこのところの常だった。

チェチーリアは両手いっぱいに冊子のようなものを抱え、カルロの隣に意気揚々と座り込んだ。

「手に持っているのはなんだ?」

すかさず尋ねる。

「お姉様へ結婚を申し込んでいる殿方たちの釣書ですわ!」

「ひゃあ! チェチーリア、それを持ってきてはならん! 隠し通しなさいと言っただろう!」

カルロは慌てたが、ロスはを乗り出した。

「結婚の申し込みだと? ヴェロニカは俺の妻だろう」

「いや、私たちはもちろん分かっているよ。だがどういう訳か、ヴェロニカに婚約者がいなかった一時よりもロス君と結婚した後の方が結婚の申し込みが多くて困しているんだ」

「答えは明白ですわ! 無數の男が敵のときよりも、ただ一人の男が敵の方が勝算があると踏んだんでしょう! ロスさんだったら自分の方が良い男だと思った方たちが、これほどいたというわけですわ! ほら、このお方なんて、見目麗しく分も申し分ない、軍の中尉さんですわ! 格だってよいと評判の人です! ……あ」

ロスはチェチーリアから大量の冊子を奪うと、そのまま全て暖爐に放り込んだ。部屋の溫度がにわかに高くなる。

愚か者たちの履歴書は瞬く間に燃料に変わる。

炎を大きな瞳に映しながら、チェチーリアはにこやかに言った。

「……まあ、そう気を落とさないでくださいまし! だって初めから釣り合っていなかったでしょう? 二人が一緒に歩く姿はどう見ても拐犯とお嬢様、よくて姫と従者でしたもの。と野獣を地でいくカップルが、くっついたのがおかしかったんですわ!」

笑っているものの、態度からは姉を裏切った義兄への怒りがにじみ出ていた。

カルロが娘をたしなめる。

「こらチェチーリア! 本當のことを言ってはだめだ!」

「おい」

あるいはこの二人がど天然なのか、あるいは全て計算の上で言っているのか、數多の戦場を渡り歩いてきたロスでさえ、未だに判斷が著かない。

「ここでヴェロニカを待つ」

言ったとき、ロスの足にふわりとなにかが纏わりついた。

「よう4號。元気か」

小柄な犬を抱え上げると、顔を舐められる。

アルテミスが産んだ四匹の子犬は、チェチーリアにより、生まれた順に1號、2號、3號、4號の名を授けられた。

母親に似た三匹は素晴らしく白い並みを持った雌で、もらい手もすぐに見つかった。

だが4號と名付けられたこの雄の犬だけは、大型犬の母親に似ず、小型犬かと見間違えるほどにが小さく、比例して吠え聲も小さく、小さいどころか出せるのか不安になるほど聲を聞いたことがなく、格も、よく言えばおっとり、悪く言えば臆病で猟犬に向いていない上、外見もしいとはいえないまだらな黒いぶちを持って生まれたものだから、カルロが大喜びで引き取るまで、もらい手が現れなかった。

その4號は、同じくつまはじき者のロスにシンパシーでもじているのか、異様に懐いているのだった。

空中に抱えられてもなお4號はしっぽを振り続ける。ロスは頬を緩ませた。

「この世界で俺の味方はお前だけだよ」

だが4號は突然激しく反応し、ロスの手を飛び出し玄関まで走って行く。

「どうしたのでしょうか?」

好奇心旺盛な子供のようにチェチーリアが著いていく。だが即座、悲鳴を上げた。

「大変ですわ! お父様、ロスさん! 來てくださいまし!」

ただ事ではない事態をじ、二人はすぐに駆けつけた。

そこには、だらけのアルテミスが佇んでいた。

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