《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》ブルースってちょっぴり切ない歌なのですわ!

* 十數年前――…… *

地面を流れる赤いが、靴の先までやってきて、思わず一歩退いた。

握る銃口からは、真新しい煙が立ち昇った。

手はまだ微かに震えている。

人を殺したのは初めてだった。

木々の間から生暖かい水滴が落ちてきた。今撃ち殺した男たちののようにじられる。空は暗い。森もまた、暗かった。

傍らに立つ淺黒い年は、既に銃をしまっている。

まるで今起きたことなど、うんざりするほど繰り返された朝のルーティンであるかのように無だった。

「……助かったよ。ありがとう」

かろうじて伝えた禮にも、こちらをチラリと見ただけだ。

変わった奴だ、と思う。

戦場で何人撃てば、それほどまでに平常心でいられるのだろう。

「君が目撃していて助かった。神が味方したんだろうな」

年は馬鹿にしたように言う。

「やっぱりてめえはボンボンだ」

歳の頃は同じだろうが、彼の聲は一層低くじられた。

興味が失せたのか、初めからなかったのか、やがてふらりと歩き始める。

「待て、どこへ行く」

「ここ以外の場所へ」

「俺と來い」

立ち止まり、彼は振り返る。

夜の湖面のように澄んだ黒い瞳が、遅れて向けられた。

「やめた方がいいぜ。俺のような見た目の奴はあまり人に好かれない」

見るからに、この國の人種ではないと分かる風貌。人の心のまで見かしているような、黒い瞳。見據えられ、ひやりとが冷えた。

「世の中、悪人ばかりじゃないさ。現に俺は君を好きだと思う」

「貴族の飼い犬になる気はない」

「まさか、友人になろう。俺はアーサー・ブルース」

命を救う仕事をしていたはずが、逆に奪い取った。

殺さなければ死んでいた。仕方のないことだった。

だがは昂っていた。恐怖と興――そして達に。

生と死を、今の瞬間理解したと思った。

世でまかり通る道徳や常識と言った同調圧力が、いかに無能であるかを知った。

隣にいる年も、自分と同じ境地に辿り著いたと信じた。

だからこそ、相変わらずの伴わない瞳に向かい再び問うた。

「君、名はなんという」

の違う年は、初めてわずかに微笑んだ。

* * *

吐き気をう死臭の中に、ロスは一人立っていた。うめき聲を上げる死に損ないに、弾を撃ち込みとどめをさす。

勘は鈍っていないようだ。

敵は殲滅した。

自分の力量さえ分からない者たちは、愚かにもロスに戦いを挑み、そして死んでいった。

シャルロッテは顔面蒼白のまま震えている。その表に、気付かないフリをして側を離れた。

軍を離れて、數ヶ月経っていた。

人殺しに戻ったのは久しぶりだった。

(ああ、そういえば、こんなじだったか――)

慨はない。心は揺れない。悲しみも、高揚も生まれない。

今日も自分は生き延びたのだと、ただそれだけを思っていた兵士の時代。

馬鹿のように明るい月が、地面に流れる赤いを照らしていた。鼻腔に匂いがってきたとき、自分がここにいる理由を思い出す。

「ヴェロニカ!」

見張りがいた小屋を開けると、馬が數頭つながれているのが見え、柱の付近に解かれた縄を確認した。

だが、中には誰もいなかった。

それでもロスは、ここに確かにヴェロニカがいたのだと悟った。

「……あの

――親なる浮気者へ。

たっぷり反省するといいわ。わたしは好きに生きることにしたので、しばらく帰らないから、よろしく!

土の上に、そう書かれていたからだ。

小屋の窓を見上げる。人一人くらいなら通り抜けできそうだ。

(ここから外に出たか)

書き置きは、ロスがここに來てから記されたものには間違いない。ならまだそう遠くには行っていないはずだ。

その時に目にる。地面の上の、別の気配が。

「もう一人いたのか……?」

ヴェロニカの足跡と重なるように、の靴の痕跡があった。またしても奇妙な足跡だ。

これはまるで――。

不吉な予をよぎる。

早く見つけ、何がなんでも連れ帰ろう。

それが一番良い。

だがロスが小屋を出たとき大量の人間の気配に気付く。

瞬間、未だ外で震えていたシャルロッテを小屋の中に引き込んだ。

「きゃ……!」

扉を閉めると、途端暗くなった。窓から差し込む月のが馬とを照らし出す。

気配が小屋を取り囲む。無數の人間たちが、森の中からゆっくりと、近づいているのをじた。

(殘黨か)

きからして、統制が取れた者たちには違いない。今殺した奴らよりも、幾ばくか格が上だ。

だが數人が集落るのを窓から見た時、ロスは両手を挙げ、小屋を出た。

瞬時に銃口が向けられる。しかし――

「止せ! 撃つな!」

一人の男がそれを制した。

現れた男たちの顔は知らないが、制服からして國軍だ。先ほど戦した者たちのように、有象無象の詰め合わせではない。

その中の一人が、ロスに向かって一歩進み、心底嬉しそうに笑った。

(くそったれ)

知っている男だった。

軍人らしく、つきはよい。濃い茶の髪は丁寧に整えられており、軍服には汚れ一つ著いていない。

恵まれた地位と外見がありながら、なぜか軍人となった変わり者。家柄のせいで出世も早い。

こいつが國軍の統括者か。

「アーサー・ブルース……」

名を呼ぶと、彼は嬉しそうに破顔した。

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