《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》その聖、怪しいですわ!

ロスは愕然とした。

傍らの男へじていたごくわずかな信頼は完全に砕け散る。

「……アーサー。迎えと言うのはその娘のことか?」

「お前を見習って、俺もしだけずる賢くなってみたんだ」

された先には、あろうことか今一番會いたくない相手シャルロッテが、廊下の一角に置かれたソファーで、軍人の見張りの下ではあるものの、悠々と座っている。

一晩中狹く暗く冷たい部屋に閉じ込められていたロスとはえらい違いだ。

まだこちらに気がついていない彼を見つめ、アーサーは苦笑した。

「なぜお前と一緒にいようとするか、一向に口を割らない。お前にじゃないと話さないと言っているんだ。聞き出せたら、帰っていいぞ」

「斷る」

エリザベス・ベス中尉に神をすり減らされていた方が幾分かましというものだ。

きびすを返そうとしたが、あえなく見つかってしまう。

「ロスさん!」

弾む聲。

シャルロッテは立ち上がり、ロスに飛びつこうとする。

躱すが、彼の笑みは崩れない。

「會いに來てくれるって、分かっていました」

「俺はまるで分からなかった」

「やっぱりわたしたち、運命の糸で繋がっているんですね!」

ロスは思わず震いをした。彼格を良くは知らなかったが、どうやら最も苦手とする部類ののようだ。そんな糸、いち早く斷ち切ってしまいたい。

「なぜ君が、俺に固執するのか知りたい奴がいる。雙方のの潔白のためにも、真実を話してくれ」

シャルロッテは不思議そうな顔をした。

「あなたをしているから」

まるでそれ以外の理由はないとでもいいたげだ。だが、ロスは信じてはいなかった。

「會ったのは過去に一度だけだ。熱烈にされる覚えはない」

「誰よりもあなたを知っているのはわたしです」

まるで暖簾に腕押しだ。無駄骨だったかと、アーサーがため息をつく音が聞こえた。だがシャルロッテは気にしていない。

「どんなあなたでもわたしはれます」

ロスは眉を顰める。

「ど(・)ん(・)な(・)俺(・)を知ってるって言うんだ?」

「あなたの一番深いところにれて分かりました。じた罪悪。強い後悔。深い念。

そう、例えばオ(・)リ(・)ビ(・)ア(・)さんの……」

どくり、と心臓が脈打った。

未だ、治らない傷のように、膿んだ過去。遠い昔に過ぎ去った彼りのある笑顔。ロスを呼ぶ聲。細い指先。窓辺に立つ、儚げな後ろ姿。もうこの世界にいない人間。死に際さえ會えなかった。

見上げるシャルロッテの瞳が、和やかに細まる。

反対に、ロスは反吐が出そうだった。

「なぜ君が彼を知っているんだ」

シャルロッテは笑う。

「だって、わたしは“聖”ですもの。なんだって分かります。魔法が使えるんだもの」

こみ上げる胃を寸前で押しとどめる。

別に、おかしな話ではない。

あの晩、ロスが酩酊狀態だったとして、本當に一晩一緒にいたのであれば、限りなく可能は低いが、酔いに任せてオリビアの話をしたのかもしれない。偶然知った報を、さも全て知っているかのように話すのは、詐欺師の常套手段だ。

「君は聖じゃない。魔法なんてものは、この世に存在しない」

あのの海の中からこの娘を救い出したのは、普通のとして、平凡な日常を過ごせればいいと、そう思ったからだ。ありもしない虛像の中で、生きてしかったからではない。

だがロスの獨善的な願いは、彼にはしも通じはしなかった。

目の前のは、今も自分が聖であり、おかしな魔法が使えると信じ込んでいるらしい。

早々に會話を切り上げようと、本意では無いが軍に加擔してやる。

「なぜ君が俺といるのか、ブルース中尉が知りたいそうだ」

「あなたをしているからです」

同じ質問に、同じ答え。

どうやら話す気はないようだ。

無駄な質問を重ねては意味がない。ならば、と他のことを尋ねた。

「シャルロッテ。君の靴のサイズはいくつだ?」

「……へ?」

突然の話題の転換に、シャルロッテの笑みが崩れる。

「靴のサイズを聞いている」

「さ、36ですけど……」

「42の靴を履くをどう思う?」

「どう、って……?」

こいつは何を言っているんだとでも言いたげに、シャルロッテの目が丸くなる。

答えたのはアーサーだった。

「大抵のは36から38だろうな。42は相當でかいだぞ。めったにいない」

「ああ」

「……お前は何を確認している?」

「下手人だ」

シャルロッテの瞳は揺する。存外、顔に出やすいらしい。

ヴェロニカが行方不明になった地點には、の靴跡が殘されていた。だが彼の靴とは種類が違う。

馬屋にもヴェロニカの靴跡にまじり、そいつの気配がした。

奇妙な點は、地面のへこみや歩幅、何より大きさからして、どう考えても――。

「あの要塞めいた集落で、君は誰のために銃を撃った」

初めは、いつかのヴェロニカのようにロスを助けに無茶をしたのだと思った。

だが、どうにも腑に落ちない。あの撃は、敵を撃つと言うよりも、音を出すためだけに行われたのではないか。事実銃口は、天を向いていた。

シャルロッテがロスの後を付いてきた理由が、ではないとするならば、答えは一つしか無い。

「俺に殺されては困る人間が、あの場にいたんだろう」

襲撃に気がつかせるために銃を撃った。

の表が強張るが、逃がすものかと追い詰める。

の靴を履き、の服を著た、だが若い男だ」

鍛え抜かれた人間特有の歩き方をする者。

追跡者をあえてい出すように、痕跡を殘す周到さ。

おそらくあの集団のリーダー格だ。

側で聞いていたアーサーが息を呑む音が聞こえた。

シャルロッテの瞳が揺れる。

ロスは三度、同じ質問をした。

「なあシャルロッテ、真実を教えてくれ。君はなんのために俺の側にいる?」

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