《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》大砲、広場にどかーんですわ!

シャルロッテの反応を見て、推論は正しいのだと確信した。

なぜロスの寢所に潛り込んだのか。なぜヴェロニカと一緒にいる男と知り合いだったのか。

中は未だ知れないが、真実を吐くまであとしだ。余裕は脆くも崩れ去り、今やただのり下がっていた。

おそらくは核心まで迫っている。

は間違いなく、反勢力と何らかの繋がりがあるのだ。

(さっさと吐きやがれ)

今まさにヴェロニカのに危険が及んでいるのかもしれない。それを思うと、もしここでシャルロッテが語らないのであれば、気が進まないが多(・)(・)強(・)引(・)な(・)手(・)段(・)に出なくてはならない。

だが心配は杞憂に終わりそうだった。シャルロッテが口を開いたのだ。

「わたしは、ただ……」

言葉が続けられようとした時だ。

「ロスさん!」

突如として聞こえたこの場にいるはずのない男の聲が、自分の名を呼んだ。

目を遣ると廊下の奧から、金髪の年が走ってくるのが見えた。

反応したのはアーサーだった。

「これはこれは。グランビュー家のご子息じゃないか」

「お久しぶりです、伯爵」

息を切らしていたのは、近頃親のある、貴族ヒュー・グランビューだった。

貴族同士は思わぬところでつながりを持っている。アーサーとヒューもまた、顔見知りらしかった。

年は、ロスの目の前に立つシャルロッテを一瞥し、いつものような軽さはを潛め、やや張した面持ちで手早く言った。

「ロスさん、迎えに來ました。行きましょう。話したいことがあります」

ロスもヒューが來るとは想定していなかった。

「よく俺が軍に監されていると分かったな」

とは人聞きの悪い、とアーサーが苦笑する。

「……オレん家が親しくしている人がここにも數人いますからね。報が回ってきたんですよ。オレは単なるおつかいです」

グランビュー家が國の至る所に“子飼い”を抱えていることは知っていた。その類いの人間が、軍の中にもいるのだろう。

ヒューは困ったように笑う。

「大変な目に合ったみたいですね。タピオカ屋はしばらく閉店っすか」

「ありゃ元から不定休だ」

義妹の妄想めいた話を全て信じている訳ではないが、商才はある。謎の飲みを売れと言われたときは正気を疑ったが、商売は、驚くほど軌道に乗っていた。

「外でチェチーリアちゃんとグレイが待ってます。使いをやったから、今頃クオーレツィオーネ伯爵の耳にもっているはずです。さぞ心配しているでしょう」

ロスは逡巡する。

シャルロッテの尋問を再開すべきか否か。ヒューの出現によって流れが途切れ、も今は揺が平靜に戻りつつある。言葉の続きを聞き出すのはやや骨が折れそうだ。それよりも、ヴェロニカを追った方が早いのではないか。

まだ子供とは言え、貴族の名家が三家も迎えに來ているのだ。権力に弱い軍はロスを素直に解放するだろう。

他者の権力を傘にするとはけない話ではあるが、今回ばかりは謝しかない。

「ああ、分かった。禮を言う」

と、言った時だ。

突如として、脳みそがバグったかと間違うほどの音がした。

地面が大きく揺れる。窓のガラスが震えている。

(カノン砲だと?)

音から軍で用いられる大砲だと確信する。

予期せぬ事態に、思わず外を見た。

「砲撃訓練か?」

だが傍らのアーサーの顔面は蒼白だ。

「今日はその予定がない……!」

ならば理由はひとつしかない。

証明するかのように、兵士の一人がすっ飛んで、アーサーを見るなりんだ。

「ブルース中尉! 敵襲です! 王都が攻撃されています!」

「ブルース中尉!」

間を置かず、またしてもアーサーに用事がある人間がやってきた。

先ほどまでロスの取り調べをしていたエリザベスだ。

は銃剣を片手に厳しい眼をらせ、他の人間などまるでいないかのように、側に來るなりアーサーに言った。

「西側広場のど真ん中に大砲を撃ち込んだ阿呆どもがいる! 建國祭の準備もぶっ飛んだ! すぐに勢を取りましょう! 愚か者どもに、我が軍の力を思い知らせてやらなければ!」

その目はついに手柄を上げられるとギラついている――ようにロスには思えた。

「一何者が、そんな騒ぎを起こしているんだ」

呟くような疑問を口にするアーサーに、答えたのはヒューだった。

「もしや、シャルロッテ・ウェリントンが所屬していたカルト宗教の一味なのでは?」

「ヒュー、お前なぜ知っている」

よもやただの年が、軍でも極扱いになっているシャルロッテの話をするとは思っていなかった。グランビュー家の諜報は、かなりの度を誇るらしい。

途端に注目を浴びたヒューは慌てて弁明する。

「偶然、親父と兄貴が話してんのを聞いたことがあって、もしかしてって、思っただけですよ! 當てずっぽう、推論です」

だがロスは否定する。

「あり得ない。あの組織は壊滅させた。――他ならぬ、この俺の手でだ」

それは知らなかったのか、ヒューの目が開かれた。

し前、にわかに力をつけた反勢力は、宗教を盾に兵力を増していた。蹴散らしてこいとの命をけ、組織を破壊したのはロスだった。

再び集結するだけの人員も金もないはずだ。ふん、と冷笑したのはエリザベスだ。

「あるいは貴様が、壊滅させたように見せかけただけかもしれない」

「何が言いたいエリザベス・ベス」

「自明だろう」

「よせ、言い爭っている場合か? すぐに鎮圧へ向かわなくては」

止めにったアーサーは、ヒューとエリザベス、そしてロスの顔を順番に見ながら告げる。

「仮に攻撃している奴らが例のカルトだったとして、奴らの目的は王都を乗っ取ること、そしてその首に、聖を據えることだ。聖を奪還にやってくる」

一同の視線がシャルロッテに向けられた。渦中の人だというのに、は呆然とり行きを見守っているだけだった。

アーサーは言う。

「ロス。彼を連れて逃げろ」

「ふざけ」

ロスが否定する前に、エリザベスが代わる。

「だめだ! その男は未だ疑の渦中にいる。聖を奴らに差し出すかもしれない!」

そんなつもりは頭ないが、聖シャルロッテ(とんでもないお荷)を押しつけられても困る。

ロスはエリザベスに加勢した。

「疑いの目で見られている俺が、聖を連れ出すのはあまりにも悪手だ。ベス中尉にこの場で殺されかねん」

「わたしのせいにするな」

「喧嘩はよせ、ガキじゃないんだから」

だがアーサーも納得したらしい。

「……だったら俺がシャルロッテ・ウェリントンを引きけよう」

「それがいい、ぜひそうしてくれ」

ロスが言ったとき、ぼんやりとしていたシャルロッテが初めて明確な抵抗を見せた。

「い、嫌です! ロスさん! 一緒にいて!」

取りし、ロスにしがみつく。

そのを引き離しながら、諭すように言った。

「ブルース中尉は信頼の置ける人間だ。俺より遙かにな」

喚き続けるシャルロッテを置いて、ヒューと共にその場を去った。

街中は混に陥っていた。攻撃は、西側の広場で始まったらしい。逃げう人々が、中心地のこの場までやってくる。

「ロスさんがあの二人と知り合いだったとは。出世レースの最前線の人たちでしょう? どんな繋がりです?」

「昔の馴染みだ」

好奇心を隠そうともしないヒューにそれだけ答える。年はまだ聞きたそうな表をしていたが、門のところに友人の姿を見つけ諦めたようだ。

「チェチーリアちゃん! 無事連れてきたよ!」

チェチーリアはロスの姿を見るなり駆け寄ってくる。

「ロスさん! ご無事で良かったです! すごい音がして……。何が起きてるんです?」

ヴェロニカによく似た顔が今にも不安に泣き出しそうになるのを見て、自分でも意外なことに、ロスは狼狽え、慣れないめの言葉を口にした。

「広場で騒ぎが起きたようだが、安心しろ。じきに治まる。軍がすぐに向かうはずだ」

チェチーリアはほっとしたような顔をする。

「義兄さん!」

どこかへ行っていたらしいグレイが戻ってくる。厳しい表をしていた彼は、ロスを見るとやや安堵のを浮かべた。

「今、見てきましたけど、あいつら貴族の屋敷や金持ちの商家を襲ってるみたいです。反軍なんかじゃない。それを隠れ蓑にした、ただの強盜集団ですよ。卑劣な奴らだ」

ただの烏合の衆であれば、即座軍に制圧されるだろう。ロスは等に向かって言った。

「王都から離れるぞ。カルロが心配だ」

奴らが貴族を襲っているのであれば、クオーレツィオーネ家も襲われかねない。

ただ、家出したヴェロニカを追っていただけだ。それがどうして王都襲撃に繋がるというのだろう。銃聲がいくつも聞こえてくる中で、ロスは思わず呟いた。

「とんでもない展開になってきたな……」

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